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第六話

 「……」

春が終わりを迎えようとしていた。 温かな眠くなる日差しは強くなっていく。 夏になると思い出す事がある。 窓の外を見ると弱弱しかった若葉が太陽の光を浴びてとても力強く濃い緑色になっていた。

「夏月ぃ……なに黄昏てんだ?」

荒太は窓の枠に肘をついて外を見る俺に問いかけた。 というかこいつはもう少し違う入り方できねぇのか。

「何でもいいだろ。 で、何だよ。 飯には早いだろ?」

外を見ながら問いかける俺に荒太は明らかにため息をついた。 失礼な奴だな。

「お前、最近変だぞ」

「変って?」

荒太が座りながら言う言葉に俺は問いかけるがどきんとした。

「なぁんか、ボーッとしてる」

「暑くなってきたからな。 別に珍しい事じゃねぇだろ?」

荒太に言われて咄嗟に出てきた言葉。 山とはいえやはり天候には左右される為に別段不思議なことでもない。 我ながら上手い躱し方だと思う。

「……そうかよ。 あと、黒からの伝言。 お前暫く下界に行くなだとよ」

荒太はため息をつきながら立ち上がり黒の伝言を言ってから部屋を出た。 下界とは人間が住む世界の事だ。

何故だ。 どうして? 山の時間とあの子、人間の時間は違う。 山の時間の方がゆっくりなのだ。 俺等にとっての二年が下界では二〇年、三〇年なんてことはざらにある。 暫くとはいつまでなのだろうか。 また俺はあの子と会えるのだろうか。 頭の中を支配する不安。 あぁ、遠くで雷の音がする。 きっとその雷は俺の怒りなどなんだろう。

山神として俺は力を蓄えすぎたのだと頭のどこかで思いながら緊張の糸が切れた様に眠りについた。 全く、負の感情に慣れてないからって気を失うほどとか。 笑えるぜ。 あぁ、美夜子。 最初に会ったのはお前が小さいとき、夏だったな。 この世界に迷い込んだお前は奇跡的にもこの家を見つけた。 小さなお前の日本人離れした色素の薄い瞳も俺みたいに明るい茶髪も好きだよ。

人間は馬鹿だからお前はきっと溶け込めないんだろうな。 学校というところがどういうところか本でしか知らないけど。 きっとお前にとって居心地のいい所じゃないんだな。

下界で言う一年前、お前に再会してびっくりしたよ。 俺が知ってるお前は小さくておどおどしてたから。 美人になってて話しかけられた時俺がどれだけ緊張したことか。

お前は知らないよな。 知らなくていい。 俺のこの気持ちはずっとしまっておくから。 だから黒、頼むよ。 俺をもう一度下界に行かせてくれ。





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