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第四話

「なっちゃん、この本面白かったよ」

「どんな本?」

「恋愛小説」

「無理」

美夜子が一冊の本を取りながら夏月に見せると夏月はパラリと表紙をめくりながら問いかけると素晴らしい笑顔で返ってきた答えにうげぇと顔を顰めて美夜子に本を渡す。

「面白いのになぁ」

「それは美夜子が感じた事。 俺は恋愛小説は気怠くて読めないんだよ」

本を棚に戻しながら言う美夜子に夏月はため息を交えながら言うとそういうものかなと呟く美夜子にそういうもんだと断言した。

「なっちゃんはどんなの好きだっけ」

「……ミステリー、サスペンス、ホラー、ゴシック、ファンタジー」

「意外と幅広いね」

美夜子に問いかけられて夏月は題名で惹かれた本を手に取って読みながら答えると美夜子は驚きながら笑った。

「あ、あと時代劇とか伝記も好きだよ」

本を棚から取りながら笑うと更に美夜子は凄い読むねと感心していた。

「暇だからね。 それに、本は面白いから」

「分かる。 本っていいよね。 吸い込まれる」

二人の小説の趣味は合わない。 だが本の良さを二人は知っている為に笑い合った。

――〔夏月さん、そろそろ帰りますよ〕

頭に直接伝わる様な声に夏月はハッとする。 刻々と時間を刻みつける壁時計を見ると軽く一時間は経っていた。

「美夜子、俺これ借りて帰るわ」

「え? あ、そっか。 もう一時間経ってたんだね」

夏月は一冊の分厚い本を持って美夜子に言うと美夜子は頷いた。

「ねぇ、また会える……?」

「……あぁ、また会える。 またな」

不安そうに問いかける美夜子に夏月が言う。 確実にまた会えるという確証はない。 それを分かっていながら夏月は笑った。 おそらく美夜子もそれを察しているのだろう。 二人はぎこちなく笑い合って別れた。

――〔ゴメン! 今向かってる〕

――〔ふふ……。 大丈夫ですよ。 軽い喫茶店に入りましたから〕

頭の中でする会話。 本を持って夏月は出来るだけ早くだが人間離れしないような速さで走っている。

カランカラン

「ハァッハッ……。 鈴」

ドアを開けて買い物袋を持っている鈴に話しかける。

「おやおや。早かったですね。 では帰りましょうか」

にこやかに笑い鈴は買い物袋を夏月に渡しながら店員に金を渡し店を出る。 その鈴の後ろを買い物袋を持って店を出た。

「何か楽しいことありましたか?」

帰る道で夏月に問いかける鈴。

「なんでそう思うの?」

「いつも夏月さんが買い物に出かけると楽しそうですから」

「……楽しいこと。 さぁね」

夏月が問いかけると鈴がふふと笑いながら夏月を見て言うと夏月は言葉を濁した。

「……危ない事をしないで下さいね。 黒も貴方を気に入ってるのですから」

その夏月を見て少し言葉を鋭くする鈴に夏月は頷いた。

『……俺等は人間ではない。 だが人間と共に生きなければいけない存在だ』

町から女性と少年の姿が消えた。

緑深くささやかな微風が髪をなびかせ春らしい温かい日差し。 今の世の中では考えられないほど深い山奥。 水のせせらぎが聞こえるが川は見当たらない。 鳥のさえずりが爽やかさを増幅させていった。

人間ではない……。 ではなんなのだろうか。 黒陽の下、鈴を始めとする荒太、駒乃、甚蔵、長七郎、夏月の七人は人間の形をしているが人間とは程遠かった。 群馬県の南部にある山【赤城山あかぎやま】は何個かの山の集合体としての名前。 昔の人は自然には神が宿っていると考えていた。 山は木々が集まり生命が育ち死んでいく土地。 山神様やまがみさまと呼ばれていた事もあったのだろう。 そんな人の思いが形となった存在が黒陽たちだった。

人間がいなければ存在できない。 だが人間とは絶対相容れない関係。

お互いの世界も違えば時間も違うのだ。 たまに黒陽たちの住んでいる世界に迷い込む人間もいる。 その人間が帰ると何週間も月日が経ち行方不明として捜索されていたりしたこともあることを知っている。

だから黒陽たちは人間の物を買うが関わろうとはしなかった。 それが禁忌だった。







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