第三話
「鈴! 俺ちょっと図書館行ってくる」
「じゃあ、買い物が済みましたら連絡しますね」
「うん!」
群馬県某所。 群馬県の県庁所在地でありながら過疎化が進む商店街で夏月と鈴は別れた。
鈴はそのまま商店街を歩き夏月は走って少し離れた所にある市立図書館へと向かった。
――ウィーン
走ってきた夏月を向かい入れる自動ドア。 自動で開いたドアからは涼しい風が流れ込み夏月を包み込む。
静寂とも言える静けさを感じさせる図書館。 夏月は活発でありながらも本を一番読んでいた。 黒陽が集めた本を全て読み終わり夏月は毎回こうして図書館へと足を向け本を選ぶ。
――ポン
「今日は居た」
突然後ろから肩を叩かれて夏月は後ろを振り向くと清楚そうな少女がそこにいた。 眼鏡を掛けて長い髪は右下に流す様に一つにくくられていて白いワンピースが彼女を見る者に真面目だという印象を与えた。
「美夜子」
少し照れながら彼女の名前を紡ぐ夏月。
彼女の名前は嶽村美夜子。 今年で中学二年生らしい。 幼い顔立ちに似合わぬ古風な髪型、だが少しの違和感も感じられなかった。
「なっちゃんホント好きだよね。 本」
読まなそうに見えるのにさと笑う美夜子に夏月はむくれながら別にいいだろと答えた。
なっちゃんとは夏月のあだ名だ。 今の所そうやって夏月を呼ぶのは美夜子以外に居ない。
「美夜子は学校とか楽しいのか?」
「……別に。 普通だよ。 なっちゃんこそ、居たり居なかったりで学校とか楽しいの?」
夏月が本を探しながら問いかけると少し止まって美夜子は目線を逸らしながら答えて夏月に聞き返した。
夏月は言葉に詰まった。 それもそのはず夏月は一度も学校とやらに行ったことはないのだから。
「……さぁね」
「なにそれぇ!」
「図書館はお静かに」
聞き様によってはわざと事柄を言わないような口ぶりの夏月に反論する美夜子だがニヤリと笑って人差し指を立てながら口元に持っていきながら夏月が言うとバッとすごい勢いで顔を逸らした美夜子に少し不思議に思いながら夏月は本を探す。
『なっちゃん、それは反則だって……』
美夜子の顔が真っ赤になっている事を夏月は知る由もなかった。
「美夜子は最近何読んだ?」
「え? あぁ……。 最近はね~……」
夏月が問いかけると美夜子は話す。 こんな時間が二人はとても好きだった。
傍から見れば異色過ぎる組み合わせだろう。 片や活字を見ると眠くなると言っても不思議ではない少年、片や読書と勉強しか興味がありませんと言っても不思議ではない少女。
不思議な組み合わせだが周りの目が気にならないくらい二人はお互いを大切に思っていてこの時間を大切にしていた。