第二話
昼過ぎになり夏月と鈴は出かけ支度を始めた。 鈴は着物からラフなブラウスとジーパンになり小さなショルダーバッグを肩から下げる。
「夏月さん、大丈夫ですか?」
玄関で靴を履きながら奥の部屋にいる夏月に声をかける。
「ちょ! ちょっと待って!!」
バタバタと音がしながら夏月の声が聞えてふふと鈴は頬を綻ばせる。
「あれぇ……? 何処やったっけ」
布団を畳んで押し入れに入れてあるために広く感じるその部屋には簡素な造りの机と居間にあったのと同じような古風な階段型の棚。 そしてシンプルなラック――要するに本棚――が並んでいる。
「夏月なにしてんだ?」
襖の柱に寄り掛かりながら荒太がそっちこっちを右往左往している夏月に声をかける。
「! 荒太! 俺の帽子知らない!?」
お昼ご飯を食べる前に仲直りした夏月たち。 夏月は必死に荒太に問いかけた。
「質問返しするなよ。 お前の帽子なんか知らねえよ」
呆れながらそう呟くとそっかと落胆する夏月を見て少しは哀れに思ったのだろうか荒太は部屋に入って一緒に探す。
「アンタまだ行ってなかったの?」
今度は駒乃が来た。
「夏月の帽子知らねえか?」
「帽子ぃ~? んー……。 ちょっと待ってなさい」
荒太が聞くと駒乃は怪訝そうな顔をした後に何かを思い出したようで部屋を出る。
「あったわよ~」
隣の部屋――といっても風呂場なのだが――から駒乃の声がして夏月はいち早く風呂場に向かった。
「何処にあったの!?」
駒乃の手にあったのはキャスケット帽。
「洗濯機の上よ」
「ありがとう! 行ってきます!!」
駒乃は答えながら帽子を渡して帽子を受け取った夏月は笑って被りながらお礼を言うとどたどたと廊下を走る。
「気を付けろよ」
「分かってるよ」
黒陽が見送りのために玄関まで出ていてスニーカーを履く夏月に声をかけるとうるさいなぁと言いたげな声で頷く夏月。
「それでは行ってきます」
「行ってきまぁす」
「行ってらっしゃい」
鈴が言うと続けて夏月が言って荒太、黒陽、駒乃の三人が声をそろえて見送り夏月と鈴はそれを見て笑いあいながら家を出た。
玄関を出るとすぐさま姿が消える二人。
「駒姉、帽子隠してたんだろ」
「あり、荒太にはバレてたか」
荒太が問いかけると駒乃は笑いながら言う。
「夏をからかうのも大概にしろ」
後ろから黒陽が文句を言う。
「はぁい」
駒乃は笑いながら玄関から北の方角にある黒陽の部屋より玄関寄りで甚蔵の部屋より北寄りの部屋に入っていく。 荒太は玄関から居間の方――西の方角――に位置するすぐ近くの自分の部屋に入っていく。
そんな二人を見てから黒陽は居間の隣の仏間へと歩を進め襖を開き素早く閉める。 ほんの少し見えた部屋の中は異常なほどの暗さだった。