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第一話

「今日は曇りかぁ……」

むっすぅーと起きて窓の外を見る少年、名前を夏月なつきという。 夏月は人間の姿をしているが人間ではない。

「おい、夏~……起きてたのか」

襖を開けて入ってくるのは夏月より少し身長が高い少年、荒太あらた。 夏月と同じく人間ではない。

「おはよう、荒太」

「おはよう。 黒が呼んでるぞ」

「げ……。 俺なんかした?」

「知らねぇよ」

夏月が笑いかけると荒太は真顔で伝えると布団の上で固まりながら問いかける夏月に俺は伝えたぞー、と言って襖を開けたまま家の奥に消える荒太に夏月はため息を落とした。

荒太や夏月が生活している家は純日本家屋、木造の平屋である。 今のご時世珍しい物件だが周りには一切の家がない。 それどころか余程山奥でない限り近くにない事のないコンビニエンスストアすらない。 人間が生活するには必要なものが全てないのだ。

「おはよう……」

「あら、今度は何したの? 黒がお呼びよ?」

部屋から出て廊下を歩いていると風呂上りなのかタンクトップとホットパンツという恰好の少女が笑っていた。 身長は荒太より十センチほど身長が高かった、その少女は駒乃こまのという。

「うぇ……。 黒そんなに怒ってるの?」

顔を顰めて心配そうに問いかける夏月に駒乃は笑いながらさぁね、と答えると夏月の表情はより一層悪くなった。

「駒~……悪戯少年、はよ居間行け」

部屋から出てきたのは荒太と同じくらいの背丈だろうかそれよりほんの少し高いぐらいの少年、長七郎ちょうしちろうは駒乃と話している夏月を見ると――くいっと親指を突き立てそのまま横に振りながら言うと、夏月はげっそりとしながらはいはい、と歩みを進めた。

ペタペタ

裸足で歩く夏月の歩調に合わせて音が鳴る。 綺麗な板が張られた年季の入った廊下。 縁側の向こう側に見えるのは小さいが立派な中庭。 綺麗なツツジが濃い桃色の花を綺麗に咲かせている。

「……おはようゴザイマス」

恐怖のあまり障子を開けながら挨拶をするが言葉が固くなる。 居間にはちゃぶ台――といっても大きな丸太を輪切りにした形の木のテーブル――とおひつがあり奥には階段棚。 階段になっている所にはだるまが置いてある。 ちゃぶ台の上には美味しそうなめざしと菜の花のお浸し、そして納豆が七個置いてありそれぞれの所にその人の分として小分けにされていて茶碗とお椀は伏せてあった。 丁度入ってきたところの真正面に根岸色の着物に身を包み厳格そうな顔をした男性がどっかりと座っていた。 その隣、おひつの前には芥子色の着物に身を包んでいる――殆どが真っ白の割烹着に隠れている――柔和そうな小柄の女性が座っていた。

「おはよう。 夏月さん」

綺麗に響く女性の声はとても心地が良いものだが今の夏月には嵐の前の静けさというかそのような恐怖が感じ取られていた。

「おはよう。 夏月。 遅かったじゃないか」

地鳴りのような体の底から震え上がる様な、しかしそれでいて何処か慈しみを感じさせるような低い声が夏月の鼓膜を揺さぶった。

男性は黒陽くろひ、女性はりんという。 二人は一見夫婦の様に見えるがそんなことはなかった。

「あらあら、何を怯えているのですか? 夏月さん」

おずおずと黒陽の正面――そこが夏月の指定席――に座る夏月に笑いかける鈴。 鈴の隣に座っている荒太は笑いをこらえているようで俯きながら震えている。

「え、だって……黒、俺を呼んでたんでしょ? 怒ってるんじゃ……?」

びくつきながら黒陽を見て鈴を見ながら言う夏月にぶはっと吹き出す荒太に夏月は不審に思った。

「俺は怒ってないぞ?」

寝ぼけているのか? そう続ける黒陽は確かに眉間のしわもいつも通り――といっても普通の人からすれば十分な多さ――で腕組みもしないで湯呑を持ってそれを時折持ちお茶を啜っている。

「荒太……。 まさか……」

「ふひっ。 ぶくく」

信じられないといった顔で荒太を見るとその夏月の顔が余程滑稽だったのか顔を逸らして笑い始める荒太に夏月は確信した。

『こ、こいつ……。 騙した! 荒太だけじゃない、駒も、長も!!』

わなわなと怒りが湧く。 身長が小さな夏月は人一倍元気で目立ちたがりだった。 それ故に黒陽に騒ぎ過ぎだと怒られることもしばしばあり他の者からはまたかと呆れられるほどのヤンチャぶりだった。

兄弟として表すならば夏月が末っ子なのだ。

「駒姉! 長兄! 成功した!」

 自分の正面で叫ぶ荒太に黒陽はうるさい! と一喝するがその声でさえ高い声に遮られた。

「あっはっはっはっ! 夏月、アンタ怖がり過ぎ」

腹を抱えながら首からタオルを掛けながら襖を開けて居間の隣、仏間から入ってくる駒乃と控えめに笑っている長七郎。

「朝から何……?」

夏月の後ろから入って来たのは駒乃より少し小さいぐらいの青年、甚蔵じんぞう

「甚! 聞いてくれよ! 駒も長も荒太と一緒に俺を騙したんだ!」

いつも眠そうな甚蔵に懐いている夏月はむくれながら言うと甚蔵は余程眠いのかそうかそうか、と夏月の頭を撫でながら半分目を閉じながら荒太と夏月の間に座る。

「朝っぱらから何をしてるんだ。 お前達は」

呆れたようにため息をつきながら黒陽が首を振りながら荒太と自分の右隣に座った駒乃とその隣、夏月の左隣に座った長七郎を見る。

「だってぇ、夏月良い反応するんだもん」

私は悪くないよ? と開き直ったように笑う駒乃。

「駒乃さん。 悪戯が過ぎますよ?」

反省する気がない駒乃を叱咤する様に見ながらおひつの蓋を開けて黒陽の茶碗から盛っていく。 それを見た甚蔵はのそのそとお椀を持って台所に消えて夏月を呼んだ。

「何? 甚」

「これ持っててぇ~」

夏月が行くと味噌汁をよそりながら言う甚蔵に夏月は素直に従った。

黒陽のお椀は綺麗な檜に黒漆を塗ったお椀。 鈴のお椀は材木は分からないが艶やかな赤いお椀。 長七郎のは杉で色は外側に杉の木が描かれているお椀。 駒乃のは赤に玩具の独楽が描かれているお椀。 荒太のは檜で作られた荒野を彷彿とさせる黒い線が描かれたもの――おそらく枯れ木を表現したのだろう――。 甚蔵のは黒漆を塗り地蔵が彫られていて灰色で色が付いているもの。 夏月のは若木で作られたのだろう鮮やかな卵色のもの。

 夏月は黒陽、鈴、荒太、長七郎、駒乃の順番で配膳する。 荒太からはむすっとしながら少し乱暴に置いていた。 そして甚蔵の所に戻ると夏月の分をよそってくれて夏月はそれを自分の所に置きながら座った。 少しして甚蔵が自分の分を持って来て夏月と同じ様に置きながら座る。

「いただきます」

全員が揃って言ってから箸を持ち味噌汁を一口飲んでからそれぞれ好きなように食べていく。

「夏月」

「ん?」

黒陽に名前を呼ばれて夏月は箸を止めて黒陽を見る。

「今日昼過ぎたら鈴と一緒に買い物に行け」

「分かった」

「よろしくお願いしますね」

目線はご飯に注がれたまま夏月に言う黒陽に夏月は頷いて自分もまた目線をご飯に落とすと柔らかく言われる。

「いいなぁ~! 黒ぉ! 何で夏月なのぉ?」

駒乃が文句を言い始める。

「煩いなぁ! 黒が俺って決めたんだからそれでいいじゃん!」

「アンタには聞いてないわよチビ」

駒乃達の先程の悪戯にまだ腹を立てている夏月が食べながら言うと冷たく言い放つ駒乃。

この二人は仲が良い様で悪い様だ。

「二人とも落ち着いてよ」

眠そうなのと面倒なのが重なって少しいつものテノールより低い声で言う甚蔵に駒乃と夏月は黙った。

これが割と日常になっていた。

彼らの正体はまた今度。















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