06 漆黒の巫女 中
別視点その2。
王様には解説に徹していただいております。
「陛下、もう直に刻限が参ります。儀式のお準備の方を」
「分かっている」
アルフォンスは聖堂までやって来た側近の神官に、素っ気なく言葉を返す。
儀式の準備と言っても、必要なのは一つだけ。
今はまだ、この建物の奥深くに封印されている国宝を、この場に運べばいい。別に運ぶ必要すら無いには無いが(放って置いても巫女は召喚される)、一応、迎える為の体裁は保たなければいけない。そんなものだ。
だから、現在城でも城下の方でも、歓待ムードで準備が着々と進められている。
それも、全て巫女の為ーーーと。
アルフォンスは聖堂を出ながら、思う。
ーーー巫女はどんな奴だろうな。
この世界の争いの末の運命を決める、神に近しい絶対の女。
高尚なのか、威丈高なのか、それとも性格と呼べるものすら無い可能性もあるかもしれない。
巫女は異世界から来るとも伝わっている。そのことだけでも巫女の人物像への興味は尽きない。
それこそ、アルフォンスが生を受け、その生の、その期間に、予言の日があると知った時から、考えている。
「期待は、裏切ってくれるな」
ーーー例えそうでも、そうでなくとも、扱いはさして変わらないが。
国王のみが知る扉を開け放ちながら、願望と冷笑の入り混じった呟きを零した。
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暗い闇で出来たような、長く複雑な通路を燭台片手に進んでいくと、行き止まりがある。
何の変哲も無さそうな石壁の石の一つを奥へと押し込む。すると、連動して中央の石が前にせり出した。
単純な隠し通路と仕掛けである。
しかし、この仕掛けは魔力感知式で、年に一度、国王が自分だけが作動させることが出来るように設定を更新する。それを怠っていたり、他の者が作動させようとすると・・・、言わずもがな。
石の抽斗には、金銀宝石細工の豪華な箱が納められていた。大きさは子供の頭程。持ってみると、
「軽い?」
空っぽのように軽い。重いのは外装だけで、中は何も入っていないのではないかと心配になる。
それでも、開けてはいけない決まりになっているため、開けないが。
これは巫女の眷属器とされる神具だ。召喚の儀に使われる物で、外見は伝えられたものによると、暁色の鈴、であるらしい。
ーーー・・・後で巫女に見せてもらおう。
儀式が終われば巫女の所有物になるため、開かずの箱は開け放題になる(勿論巫女限定で)。
アルフォンスは、そう決意して元来た道を帰った。
次は召喚の儀です。別視点のラストでもあります。
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