05 漆黒の巫女 上 (別視点)
前半は、王様視点であって、王様視点では無いです。世界観の説明?
面倒な方は、飛ばしてください。
人間の国、その王都。
今日は、言わずと知れた日。
人々は朝日の登る前から、じっと王城を見上げていた。
「今日は、あの『予言の日』、だよねぇ」
「そうだねぇ。巫女様は、どのようなお方なのかねぇ」
「神様と同じくらい高貴なお方だからねぇ、私たちみたいなのには分からんさ。
でも、きっと私たちをお救いしてくれるのだから、素晴らしい方なのだろうねぇ」
「やっと、終わるのかな・・・。ウチの爺さんも、これで安らかに眠ってくれるかねぇ」
「さぁねぇ・・・」
誰もが不安で、縋るように祈りの手を組んでいた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
アルフォンスは、冷え冷えとした広間に一人立っていた。豪華な白いローブを纏って、何の感情も籠らない黄金の瞳で祭壇を眺めていた。
王城の中の聖堂。王はこの国の慣例として、国教の最高神官でもある。それは、この国の伝説と歴史に基づくものであり、今日この日のためのものであった。
普段は、祭事などは他の高位の神官に振って、自分は特別な祭事が無い限りは国務をしている。しかし、今日は必ず出席しなければならない。何故なら、予言の『巫女』が召喚される日だと言われているからだ。
我が国は、この世が誕生してから、長い間絶えず戦争をしてきた。
相手はこの国の境界線である広大な森の向こう。そこにいる妖精共である。
国境を跨ぐ広大な森には、資源が豊富にある。見たこともない動植物の他に、金銀財宝の眠る鉱山、豊かな水源。土地がなだらかだから、開墾もしやすい。
その森の利権を手にすれば、手にした国は更に繁栄するだろう。
それ故に、飽きぬ戦を続け、両国疲弊すれば、短い休戦の後、再び武器を交える。
今だって休戦しているものの、いつ戦を仕掛け、仕掛けられるのか。その時期は定かでは無いが、あるのは必至。
ただーーー、この日だけは無いと言える。
伝説によると、二国の戦を嘆いた一人の少女が神に向かって叫んだ。
ーーー神よ、どうか、どうか!!私は如何様になろうと構いません!
ーーー戦を、世界を、お止め下さいませ!!
神々も、下界の現状には哀しんでいた。
だから、少女の願いを聞き届け、己の命を捧げた少女に命じた。
ーーー少女よ。私は異なる世界にその魂を送り出そう。永い時をかけ、その後、其方は選定せよ。この戦の勝者を。
神はその日と共に予言を遺し、一時の雨を降らせたーーー。
その日が、今日。
少女の生まれ変わりの『天の巫女』が降り立つ日。
『選定』の日は、その少女が決める。
さて、どうなるかーーー。
アルフォンスは酷薄な笑みを一人浮かべた。