見知らぬ処へ 6
ホームルームの時間が近いからか、人が増えてきた。これまでの間、慧は千葉玲菜と真野唯の二人とこの学園の事について話していた。どうやらこの学校のこの学科はかなり頭のネジが緩んでいる人間が多いようだ。曰く魔法を用いた喧嘩が日常茶飯事なのだとか。
「君も精々気をつけるんだな。編入生なんて格好の的だろうさ。ま、君がどうなろうと僕の知った所ではないがな」
「俺、魔術使えないのに魔術使える奴らから襲われるとか勝ち目ないじゃん。
あーあ冗談じゃないよ」
「多分パートナーの人が助けてくれるから安心して! わたしと唯くんも助けるから」
そういって玲菜は手を合わせて微笑んだ。
――うん、彼女はマトモな人間であることに間違いは無さそうだ。何かあったらパートナーか彼女に聞こう。あぁでも女の子って話しかけ辛いな。パートナーがマトモな男であることを祈ろう。
「どうして僕がそんな事をしなければならないんだ」
唯が不服そうに顔を歪める。
「たまには人助けもいいんじゃない? わたしはいいと思うけどな~」
何故か玲菜はとても楽しそうな表情をしている。
「勝手にしろ」
「なんか千葉さん楽しそうだね」
「普通の人を久々に見たからね。助けたくなっちゃたの」
「普通? 俺自分で大分性根が腐ってる自覚あるからそれは無いわ。残念」
「ううん、そんなことない。魔道に足を踏み入れてないなら、どんなにへそ曲がりでも普通の人だよ」
――魔法使いって言うのはそんなに酷いのか。
「おはよう、皆」
スーツ姿の壮年の男性が教室にやってきた。髪は黒く短く、そして白髪混じり。顔に刻まれた皺は深く、眼光鋭し。慧は「あぁそういうタイプの人か」
、と一人納得していた。彼が部屋に入るのを見るなり、騒がしかった教室が静まり返り皆着席した。
「まず一つ、編入生がいる。名前は逢見慧。そこにいる彼だ」
男は慧を指さす。
「彼のパートナーは桜美がやってくれ」
――え、なに俺が俺のパートナー?
「はい、わかりました」
斜め後ろの席から女の声が聞こえた。もう一人、おうみ、という読みの名前の人がいたらしい。慧は声がした方向へ体を向けた。そこにいたのは真白い長髪と真白い肌、夜に輝く星の様に麗しい水色の瞳の女性だった。頭にはヘアバンド、所謂カチューシャを付け、目が悪いのか眼鏡をかけていた。
――何だ、天使か何かか? しかしこんな綺麗な人がパートナーになったのは非常に嬉しくあるが、話しかけにくいな。本当に男ばかりの環境にいたせいで女というものに隔たりを感じるぜ。しかし、千葉さんといいパートナーの彼女といいこのクラスはやたらと見かけがいい人間が多いな。魔術で外見に細工してるのか? でもパートナーの人はきっと素であの格好だな。なんか外見に小細工するような性分じゃなさそうだ。勘だけど。