最終話 数十年後……
世界を救った勇者であり、魔道コンピュータ端末X68Mの共同開発者である真だが、歴史や科学史的にはそれほど重要な人物ではない。
表向きはX68Mの開発者は妻の黒沢麗亜と出川になっているし、本人が目立つことを望まなかった。
魔法の共同研究もかなり多く手がけており、さまざまな文献にも名前が出てくるが、手柄の殆どをフェオドラやサイファに譲ってしまったため、これまた主役として名前が出てこない。
後年の評価においても特に何の功績も無かった人とされている。
だが、同時代の偉人の殆どが彼の友人でありたびたび名前が出てくるのだ。
そこには優秀な科学者とも最強の魔法使いとも歴戦の戦士とも書かれていた。
だが記録上の彼はただの高校教師でしかない。
この謎の人物に対し庶民は色々な想像をした。
曰く、稀代の色男。
曰く、傾国の男芸者。
曰く、悪代官を懲らしめるお侍様。
曰く、熱血先生。
(どれも惜しい)
いつしか彼はこう呼ばれるようになった。
放蕩大公と。
だが、そんな噂に対して本人の実際の生活は慎ましいものだった。
築数十年。
ローンを返済し終わった我が家を出てクロモリのロードバイクで職場に向かう。
片道40分。
雨の日は地下鉄だ。
地下鉄でも30分かかるのでお金がもったいない。
教員の給与では妻三人、子供三人、孫たくさんを養うのはたいへんなのだ。
いや家自体はとんでもない金持ちなのだが……嫁の給料凄すぎるし、娘たちもムチャクチャ稼ぐし……でも贅沢は敵だ。
そんな現実の中にも良いことはたくさんある。
天気が良い。
庭の葡萄もたくさん採れた。
それに今日の弁当はフェオドラが作ったので期待できる。
少し機嫌がよくなった。
鼻歌が自然とこぼれる。
土手沿いの道路を真っ直ぐ走り、国道が見えたら橋を渡って真っ直ぐ進む。
教会の横を抜け、そこから広がる霊園の横を抜ける。
学校が見えてきた。
真を見て登校中の生徒たちが挨拶する。
「せんせーおはよー」
「女の子先生おはよーっす」
「はよーっす。死ねリア充!」
「死ね男の娘!」
「爆発しろ!」
完全に友達扱いだ。
たまに悪意がこもっているのも馴れた。
もう数十年も同じ状態だからだ。
職員室へ行き、ロッカーから出した作業着をはおり、軽く書類作成をする。
最近は業務と関係ない行政からのアンケートの作成が多い。
これじゃ生徒を見てる時間が無い。
今度イングリッドに言わないと。
次に要注意生徒の書類を見る。
『第拾参代ヘルズマジシャン総長』と書いてある特攻服の女の子がそこには写っていた。
『中等部3年A組 黒沢沙織』
うちの孫だ……
ディーノのせがれと麗亜の子である亜矢ちゃんの娘。
ディーノが『ディーノ爺ちゃん暴走族って何?』と聞かれて、
「ぼ、暴走族ってのは駅前を掃除したり、児童クラブでボランティアで勉強教える人なんだよ!」
と目を泳がせて言ったのを今でも信じている一族でも屈指のアホの子だ。
少し前に市長から感謝状貰ってたな。
そんな彼女の注意行動に『ハッキング』と書かれている。
普段はアホの子なのに麗亜の才能を受け継いでしまったのだ。
調子に乗った麗亜が全ての技術を教えてしまったのである。
恐らくこの注意事項も先日のハッキング事件だろう。
学園の不正経理を疑ったフェオドラに頼まれて学園のサーバーに侵入。
中等部校長の経費の使い込みと、生徒との不倫を暴いてしまったのだ。
(もちろん懲戒免職&グー姉のオシオキで再起不能にされた。合掌)
それはそれとして、後でフェオドラと麗亜と沙織の三人をお説教しなければ……頭痛い。
「真先生」
ふいに声を掛けたのは教頭。
あの日真が救った緑の子供の一人で教え子である。
あれからまるで母親のように慕われている。
……なぜだ?
「はい。どうしました?」
「例の転校生ですがお耳に入れておきたいことが……」
「はいどうしました?」
「口止めされてるのですが……転校生はあの青山総書記のお孫さんなんだそうです」
「そうですか! いつ来るんでしたっけ?」
「ええ。来週だそうです」
「わかりました。楽しみだなー!」
真は上機嫌で書類を片付けて教室へ向かう。
鼻歌がこぼれる。
教室の前に到着するとドアを元気よく開ける。
「おっはよー!」
「せんせーおはよー!」
元気のいい声が返ってきた。
ああ、今日も良い日に違いない。
(完)




