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変身10

「真ちゃんは強いけど、それは喧嘩じゃないっスよ……」


ディーノは呆れた声でそう言った。

真の周りは死屍累々たるありさま。

ディーノと揉め事を起こした暴走族。

彼らは不幸なことに真の学校に侵入してしまった。

問答無用で排除される暴走族。

彼らが真の一切容赦のない単純な暴力をもって排除されたところである。


「うん?」


言われた真の方は意味がわからない。


「真ちゃんのは近接格闘術。俺たちのは喧嘩。わかる?」


「どう違うの?」


「うーん。難しい質問ッスね。真ちゃんのは相手を倒す手段ッス。でも俺たちの喧嘩は基本コミュニケーションの一つの手段ッスね」


「戦争みたいな感じ?」


「違うッス。俺たちはバカだから思ってること全てを言葉で表現できないんッス。だから喧嘩と言う形で補うんス」


「それはジャングルのサルが縄張り争いで木を叩いて音を立てる的な……」


「ノオオオオオォッ!人様をサルに例えるのは国によっては実刑ものッスよ!」


「いつも思ってたけど、ディーノ先輩ってわりとインテリだよね……」


「とにかく正しい喧嘩の作法を教えるッス!良く聞くッスよ!」



「正しい喧嘩の作法。其の壱」


真はつぶやく。


「あ?なんだ?」


「攻撃は避けない。なぜなら喧嘩は交渉だからだ。相手の意見を聞かない交渉などありえない」


同じところにボディブローを打ち込む。




「ディーノ先輩。それって相手が自分より大きかったら必ず負けるんじゃない?」


「真ちゃん違うッス。その場合は……」




「あはは!死ねよ!」


ロキのジャブ。

真は避けない。

いや拳を額で受け止めた。

一瞬顔を歪めたもののロキはそのまま逆の手を振るう。

ストレート。

真は拳に突っ込んで行く。

そして拳に渾身の頭突き。

ロキの拳がおかしな方向に曲がる。

だがこの程度では緑は止まらない。

痛みなど感じない体だからだ。

ロキ真は他の緑と同じように生身の体ではないのだ。


「喧嘩の作法。其の弐。攻撃は交互に。なぜなら、互いの主張の着陸点を探さなければならないからだ」


オージン真はフラフラとした足取りでロキに近づく。

そのまま体をロキに預け、またもやボディブロー。

拳を潰されたロキは手を振り上げ、オージン真を叩き付けた。

攻撃を避けもせず叩きつけられる真。

そして真をさらに踏みつけた。


「そのまま死ね!」


何度も何度も踏みつける。

オージンはその全てを避けず、受け止めながら起き上がる。

そして怒鳴った。


「麗亜ヤメろ!」


ロキは気づく。

自分よりも何倍も大きい巨人。

それがロキを見下ろしていたことに。

それはヘイルダムとして覚醒した麗亜。


「真ちゃん!なんでですか!」


「これは俺の戦いだ!」


真はそう宣言し起き上がった。

息も絶え絶えに見える小さな男。

ロキにはその男が何倍にも大きく見えていた。


「なんだてめえは!ホントに俺なのか!ああッ!」


ロキは恐怖した。

拳を潰されたとしても尚も有利なのは自分のはずなのだ。

それなのに負けるイメージが頭を掠める。

目の前の男は同じ自分のはずだ。

だが自分とはあまりに違う。

目の前の存在には緑のような感情を廃した論理性が存在しない。

何を考えているのか?

それすらわからない。

ロキは混乱し、狂ったままの思考でオージン真の真意を探ろうとする。

だが、それは無駄であった。

なぜなら実のところオージン真は何も考えていなかった。

意味など無い。

完全なノープランだったのだ。


「ロキ……今から俺の全てをぶつける。お前も俺に全てをぶつけてみやがれ!」


オージン真は立ち上がり、ロキに体を預ける。


「喧嘩の作法。其の参。拳に込めるのは絶対に相手を倒すという気合。なぜなら喧嘩は心が折れたほうが負けだからだ」


膝でタメを作り、全身のバネを使い、気合を乗せ、抉りこむように一気に拳を放つ。

ボディーブロー。またもや同じところを狙う。

拳は真の気合に呼応するかのように鎧を破壊しながらロキの腹にめり込む。


「げぶッ!」


ロキの顔が落ちてくる。

初めてのクリーンヒット。


「二発に割り引いてやるから歯食いしばれや!」


そのまま真はまたタメを作り、同じほうの手で下から顔面を掬い上げるかのように拳をカチ上げる。

真のアッパーカットがロキのアゴを捉える。

ガラスを割ったような音がロキの体内に響く。

脳は揺れ、意識の糸が切れそうになった。

それでもロキは踏みとどまる。

もはや目的すら思い出せない身だが、オージンに対する憎しみが肉体の限界を超越したのだ。


「貴様を殺さないとサクラが、サクラが、死んでしまうんだ……」


ロキは白目をむきながらオージン真に身を預け、拳を振るう。

オージンは一切避けない。

横薙ぎの拳がオージンの顔面に打ち付けられる。

衝撃でよろけながらも踏みとどまる。


「あああああああああああーッ!死ね死ね死ね。牧場を返せ!サクラを返せ!俺の家族を……」


まるで懇願するかのような悲鳴を上げながらロキはオージンに拳を叩きつける。

何度も何度も叩きつける。

それも一切避けようとはしない。

拳を叩きつけられたオージンが膝をつく。


「そうだ……そうだ。全てを出しやがったな……今度は俺の番だ……」


オージンは立ち上がり拳を握る。

最短距離で体を回し体重を乗せたショートレンジの右フックをロキの横っ腹に叩き込む。

爆弾が直撃したかのような衝撃がロキを襲う。

ロキの意思に逆らい、膝から力が抜ける。


「サクラ……」


右フックからのコンビネーションの左。

金属がひしゃげる音。

膝をついたロキの顔面を真の拳が打ち抜いた。

大きく傾くロキの巨体。


「あああああああ、まだだ。まだだ……家族を……家族を……」


うわごとのように繰り返すロキ。


「てめえの思いは受け取ったぜ!」


真はそんなロキの胸倉を掴み、引き寄せた。


「オレがお前の代わりに緑を……巨人を倒してやる!だからお前は寝てろ!」


思いっきり頭を振りかぶり、容赦なくロキの顔面に振り下ろす。

真の頭突きを喰らったロキから湿った音がし、今度こそロキが崩れ落ちた。


「まだだ……まだなんだ……」


それでもうわごとを繰り返すロキ。

壊れたヘルメットからみえる目は瞳孔は開き。

どこを向いているかすらわからなかった。


俺はなにをやっていた?

ああそうだ。

ヘイルダムを殺さなければならないんだった。

俺を殴ったのは……誰だっけ?

いやもうどうでもいい。

ロキとして神話を完成させなければ……


ロキはもうはや正常な思考など手放していた。

緑真としてのオージンへの復讐。

ロキとしての本能。

それが混ぜこぜになってしまっていた。


「ヘイルダムゥゥゥゥゥッ!お前を殺してやるぅぅぅぅ!」


奇声。


「緑真!まだだ!まだロキは!」


黄生サクラが叫ぶ。

またもやロキは四散し飛び散った。


「麗亜、ロキはお前をご指名だ!」


「あいあいさー!」


言葉は軽かったが麗亜は一切容赦しなかった。

真のように甘くはない。

それに真を傷つけたロキに怒りを感じていたのだ。


ヘイルダムのレーダーによると粉塵が舞い始めた所に巨大な何かの反応があった。


「ヘイルダムパーンチ!」


ロキの登場を待つことなく弓を引くようにヘイルダムの拳を振りかぶりそのまま殴る。

そこから出てきたのは蛇。

大地を飲み込む蛇、ヨルムンガンドである。

神話では毒でソーを葬ることに成功したヨルムンガルドも、レーダーで位置を補足していきなり殴られては、たまったものではない。

さらに容赦の無い攻撃がロキを襲う。


「ホヴズブレードチャージ!」


ヘイルダムが腰溜めの体勢になり、腰の剣に手をかける。

光を放ちながら剣が抜かれる。

そのまま一気に剣が降りぬかれる。

光る刀身がヨルムンガルドを一気に切り裂く。


「ヨルムンガルドは死ぬ間際に毒を撒き散らす!だから!」


そのままヘイルダムはヨルムンガルドを掴み、思いっきり投げた。

大地を飲み込む蛇は空中で爆発した。

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