変身6
「真ぉ!」
「お兄ちゃん!」
「真ちゃん!」
フェオドラは元の人の形に戻りその場で泣き出し、麗亜は手を上げて喜んだ。
イングリッドは喜びの声を上げた後、兜の中でニヤッと笑うとブリュンヒルデの髪を掴んで頭突きをした。
鼻血を出しながら悶絶するブリュンヒルデ。
桃井はブリュンヒルデを踏みつけ勝ち誇ったように宣言した。
「うちの真ちゃんは殺しても死なない!お前のとこのシグルスとは違うんだよ!」
雷で霧散した炎が集まり男の姿になる。
「しぶといぞ!しぶといぞ!この虫けら!」
火の神であるロキがそう叫んだ。
血走った目で真を凝視し、唸り声を上げる。
そして両の手を上にあげ叫んだ。
「あはははははは!死の国の亡者よ!コイツを殺せ」
エイトこと黄生と同じ鎧が地中からいくつもいくつも現れる。
黄生と違い顔の部分は無かった。
みんなの知人。友人。
彼らはみんな同じことを言った。
「殺してくれ」
戦士ではない魂が送られるのはヘルの管理する地獄。
そこで腐敗しながら、苦しみながら巨人の兵として働かされる。
頭部まで腐った彼らは最早まともな思考などなかった。
「ああ、全員解放してやる!」
フェオドラが真剣な声でそう言った。
それを見た真は指をぱちんと鳴らした。
炎に包まれるフェオドラ。
「え?真なにこれ」
炎の中から出てきたのは真っ赤な鎧を着た女性。
「やっぱリーダーはそれじゃなきゃね」
同時に麗亜もイングリッドも鎧を着た姿になっていた。
麗亜は黒い鎧。イングリッドだけはもともとピンクの鎧を着用していたのでそれほど変わらなかった。
「みんなヘルの軍勢の方は頼んだ。
俺は俺を倒してくる。
友達助けてこい!」
フェオドラたちは頷いた。
それぞれが断片的にオージンに聞いた話。
その全てを真は知っているのだろうと理解した。
◇
「さあて。オージンに俺が殺せるのか?」
ロキは手を真に向けた。
手から広がる黒い魔法陣。
「オージンは絶対に俺には勝てない!
出て来いフェンリル!」
黒い魔法陣から城を飲み込めるほどの巨大な狼の顔が出現する。
大きな口開け真を飲み込もうとする。
「バカだねぇ」
そう言うと真は凄まじいまでの速度で複数の魔法陣を同時に描く。
荷電粒子砲。
サイファが完成できなかった超高出力魔法。
真はそれをやすやすと放つ。
まず最初に小さく細い光が見えた。
光を浴びたフェンリルの頭が一瞬で肉の塊に変わる。
そして後から襲うのは衝撃。
最後に轟音。
真の魔法。
オージンは自らを自分への供物として捧げることで無限の魔力を手に入れた。
真は自らを前の周のオージン、つまり赤口に捧げた。
そして赤口にこの世界に再び送られたとき、真の脳には魔術の真理が刻み込まれていたのだ。
「オージンが喰われるのはラグナロク後のフェンリル。
今のフェンリルじゃ俺は止められない!」
舞い上がった土煙が晴れ、ロキが姿を現す。
右肩までが吹っ飛び、血を吐きながら怨嗟のうめき声をあげる。
「な、なぜ貴様だけが!貴様だけが幸せになれるんだ!
お、俺は赤口に盗られるのがわかっていてもサクラを……サクラの世界を助けたかったんだ!
それなのにそれなのに……ラグナロクで皆殺しなんて……なぜお前ばかりが……
お、俺はお前のサクラを頂く!あれは俺の奴れ……」
焦点の合わない目でロキはブツブツとつぶやく。
ロキも所詮は真なのだ。
守りたいものがあったのだろう。
ラグナロクで神の敗北は決定事項。
それで壊れてしまったのだ。
「おい。前の周の俺。
俺が終わらせてやる!
てめえの悩みもくだらねえラグナロクもだ!」
指を指しながら真は宣言する。
ロキはそれを見て驚きの表情を浮かべるとニヤッと笑う。
「ああ、わかった。次の俺。
じゃあテストしてやる。
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
その瞬間、ロキの体が四散し飛び散った。




