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変身4

元の世界でもこの世界でもないどこか。

某国。


「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!」


それは暴徒と化したデモ隊の群れだった。

失業率の悪化からくる暴動。

それは全て日本人へと向けられた。

彼らは日本車を壊し、日本料理店を襲撃し、輸入雑貨店に火をつけた。

しだいに暴徒の怒りは大使館に向けられペットボトル、石、花火が投げ込まれた。

日本大使館は特に何の対応もせず現地の警察に丸投げしていた。

そんなやる気のない対応に怒る暴徒。

怒りは弱いものへと向かった。

彼らが向かったのは日本人学校。その幼稚舎。

逃げ遅れた6人の子供たちがいた。


震える子供たち。


外からは殺せ殺せと怒鳴り声が聞こえる。

外の柵が揺らされる音。

外から投げ込まれた石が壁に当たる音。

その全てに子供たちが怯えていた。


皆で慰めあっていた。

誰か大人が助けてくれる。

そう信じていた。

だが現実は非情だった。

ガシャーンという音が響き渡った。

警察の制止を振り切りついに暴徒が門を破り侵入してきたのだ。


「ひいッ!」


悲鳴が上がった。


「ここには子供しかいない!早く出て行け!」


教師の声が聞こえた。

暴徒を説得しているのだろうと思われた。


「お、おい!なんだそれは?やめろ!やめろ!うわああああッ!」


悲鳴が聞こえた。


「もうやだ……助けて!助けて!」


「うわぁぁぁぁんッ」


恐怖のあまり全員が泣き出していた。

その恐怖の中でも彼らは親を警察を教師を大人を信じていた。

誰かが助けてくれる。

そう思っていた。

その希望が一瞬にして絶望に変わった。


「おい!ここガキがいるぜ!ひゃははははは!」


ドアが乱暴に開かれた。

それは汚いズボンを履いた男だった。

白いTシャツを血の染めて、黄色く濁った歯を見せるながら笑っている男。

ところどころ抜け落ちた頭髪。血走った目。

そしてその手には血まみれの牛刀が握られていた。


子供たちがテレビで見ているヒーロー番組の怪人よりも何倍も醜悪なその姿。

そうそれが本当の悪。

震える子供たち。

だがその中で一人だけ立ち上がったものがいた。


「うわあああああああッ!」


男の子が突っ込んでいく。

勇敢な子供。

その子に男は無情にも牛刀を振り下ろした。

牛刀は子供の頭を直撃し血しぶきが飛ぶ。


「いやああああああッ!マコトちゃん!」


悲鳴。

誰もが助からない。

そう思ったとき血まみれの子供が立ち上がった。

そしてヨロヨロと男に近づき服を掴んだ。


「この薄汚いガキが!俺に触るなあああああッ!」


逆上する男。

子供を押し倒し何度も何度も切りつける。

それでも男の子は掴んだ手を離すことはなかった。


男の子にとって永遠のようにすら感じられた数秒間。

それは唐突に終わりを迎えた。


「お前何をやってる!おい止めろ!」


後から続いた暴徒が凶行を見て止めに入る。

何人もの男が牛刀の男を取り囲み殴り続けた。


「おい!しっかりしろ!今救急車を呼んでやる。生きろ!生きてくれ!」


凶行に走った男を止めに入った男が叫んだ。

暴徒に加わっていたはずの男がだ。


だがその声も真には届かなかった。

男の子は最後に思った。

みんが助かってくれてよかったと。

そして誓った。次はもっと強くなってみんなを助けると。


誰よりも明るい女の子は誓った。誰にも負けない男になると。


誰よりも賢い男の子は誓った。誰よりも強い人になると。


誰よりも彼を愛していた女の子は誓った。それが来世であっても彼を手に入れると。


誰よりも臆病な女の子は誓った。いつか彼に借りを返そうと。


そのどれでもない女の子は誓った。絶対に彼と離れない。たとえ人間でなくなったとしてもと。


この事件はその国との関係を壊したくないメディアによって徹底的に隠蔽された。

まるで犠牲者がでなかったかのように。


彼らはそれぞれ別の理由で若くしてこの世を去った。

それがバグの始まりだと気づきもしないまま。

※現実の特定の国家ではありません。

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