はっはっは。チートなんて飾りですよ。1
「なんじゃこりゃああああああ!」
真が悲鳴をあげる。
それは、ロボ子あらため麗亜に周辺をサーチしてもらい、近くに水源があることを確認、とりあえず飲み水を確保しようと水を汲みに行ったときのことである。
麗亜のスクールバッグ。そこは四次元だった。
なぜかヤカン。鍋。手ぬぐいなどがバッグの大きさを超えて詰め込まれている。
とりあえず考えるのをやめてヤカンとポリタンク、そして手ぬぐいを持って川に向かう。
人型になった麗亜だが、衛星リンク以外の殆どの機能は生きているとのことだった。
それには簡易的なレーダーや周囲のサーチも含まれていた。
麗亜のサーチ通り、にごりもなく澄んだ水を湛える川がそこには存在した。
ヤカンで水を掬い給水口に手ぬぐいを張ったポリタンクに水を入れる。
気休め程度のろ過。煮沸は後でする予定だ。
機械的に作業を繰り返す……その最中に真はあることに気づいた。
川の水に映った自己の姿。
尻を狙われそうな美少女風の少年がそこにはいた。
「はっはっは。男の娘がいるじゃないかぁッ!はいはい。アヘ顔Wピースアヘ顔Wピース……って!」
真は高校入学前に整形手術を受けた。
グリーンに任命されたからだ。
どこにでもいるような顔。そして誰にも覚えられない特徴のない顔。
どこにでも潜入できるし、誰の注目も集めない顔。
それこそがグリーンに求められる顔なのだ。
実際は中身の濃さは隠しようがなかったためあまり意味はなかったが。
澄んだ水に映っている姿、それは整形手術を受ける前の真であった。
「ご主人様どうしたんですか!」
真の悲鳴を聞きつけ麗亜が駆けつける。
「顔!顔!顔!かおー!」
思わず顔以外の言葉を忘れ人でなくなるくらい動揺する。
「あー。そう言えば、この世界来てからなんだか可愛くなりましたね」
真にとってこの顔に戻ることは非常にまずい事態であった。
童顔美少女顔の男の娘。
そうそれは・・・・
――店舗でエロゲを買えない!今までだったらソ○マップなら堂々と学生服で行っても買えたのに!
そしてこの世界には、ほぼ確実にAm○zonは存在しない!
真の心の中の最後の何かが切れた。灰のように白くなりその場にうずくまる。
そのまま、マジ泣きする。
「えっとご主人様。ふぁいとっ!」
「神に感謝したそのすぐ後に神を呪う……これが人生……というものなのか……」
流した涙の分だけ他人に優しくできる。
真の頭の中にそんな慰めの言葉が浮かんだが、瞬時に神への憎しみにかき消された。
そんなバカなやり取りの中、ふと頭に疑問がよぎる。
「麗亜……さん? ちょっと俺の身体スキャンしてくれる? 特に首と顎、それに拳と前腕。あと骨盤、それと神経」
「あー呼び捨てでいいですよ。 うん……別に異常ないですけど? いやあ骨密度高いですね」
「んじゃ俺も呼び捨てで……ってマジか……?」
「んじゃ『真ちゃん』で。って何ですか?」
「無い筈なんだよ……骨。骨の代わりに特殊な金属が埋め込まれてる筈なんだ!神経も戦闘力を高めるために……肋骨はどう?」
「全て無事ですよ。過去に折れた箇所すらないですね」
「女に変装するために二本抜いた筈なんだが……脳内に異物は?」
自決用に爆弾が埋め込まれているはずだ。
「無いです」
「生身……なのか……?」
生身の身体。最初に生体改造をしたのはもう覚えていないほど昔になるだろう。
それから何度も何度も手術を重ねた。
もはや、どこからどこまでが自分のオリジナルかわからなくなってしまっていた。
初めての生身の身体。まだ実感や喜びはなかった。
ここでひとつ問題が浮上する。
――あれ?……ってことは俺弱くなったんじゃね?