学園の戦い7 そして彼らは出会う
「いよっと!」
ぎゅううううううんという音を立てて鎧一式が崖の上に投げられる。
鎧を脱いだジェニファーことイングリッド。
折れそうなほど細い手足。
どちらかというと女性というよりは少女の体形である。
そんなか弱い姿だが素手で対物ライフルクラスの威力の攻撃力を持つバランスブレーカーなユニットである。
そんなジェニファーと真は崖を登ることにしたのだ。
イングリッドは上機嫌でリンに話しかける。
「さーて壁登らないとね!リンちゃん!登り方わかる?親指引っ掛けないほうが力使わなくてすむよ!」
リンこと真は「あっれー?」と頭の中で引っかかるものを感じた。
「もしかしてジェニファーってロッククライミングとかやったことある人?僕はボルタリングだけだけど」
「あれ、リンちゃんも?何級まで登れる?」
「かろうじて3級かな。ボクは壁登りは苦手なんだ」
※ルールがあるスポーツが苦手なだけであって全く手をかけるところがないビルを登ったりするのは得意である。
「私は1級。友達死んじゃってからはあんまりやらなくなっちゃったけど……」
懐かしそうな顔。真はそんな表情を見て仲間の事を思い出していた。
生来の遊び人である赤口。彼は休みのたびにいろんな遊びに真を連れて行った。
赤口の愛車のオート三輪。わざわざ高い金を出して買ったタイのトゥクトゥク。
女遊びをするときは、戦隊活動の報奨金で買った高級外車を乗り回すのに友人と遊びに行くときはこの変わった車なのだ。
この車に乗るときの赤口は悪趣味なセンタークリースハットを被り、サングラスにアロハシャツ、そしてハーフパンツという外国のチンピラ仕様。
そんな赤口にいつも桃井は文句を言っていた。
嫌がらせか!羞恥プレーか!と。
青山は誘われる前にいつの間にか消えたし、黄生は逆に面白がっていた。
真は、あの強烈な胡散臭さが何よりも好きだった。
そんな真はこれまで色々な遊びに付き合わされた。
ビリヤードにダーツに廃墟探検にカラオケにキャンプにスカイダイビングにパラグライダー、そしてボルタリング。
弟にかまって欲しいダメ兄貴のような赤口に教えてもらった数々の遊びの中でも桃井のお気に入り。
真にはつい先日のことであった。
でも桃井には何年も前の懐かしい記憶。
二人は顔を合わせて笑う。
その笑いの中にこめる思いは桃井の方が格段に重かった。
◇
真は壁に登るために荷物を整理するジェニファーを見ていた。
――なんか知ってるんだよな。この人のこのノリ。
そう真が疑問に思ったその時だった。
突然、何もない空間から突如青い鎧が現れたのだ。
「はじめまして」
女性の声。聞いたことのある声だった。だが誰なのかわからない。
思い出の中にある人物の声よりも低いような気がする。
物腰も穏やかだ。
「……誰?」
「私の固体名はエイト・オブ・ナイン。我々はジークフリートと呼ばれている存在です」
――エイト・オブ・ナイン?……海外オタクの聖書スタートレックに似たような名前がいたな……それに『我々は』だって!!!
そう真は思った。
この女の発言は漏らさずちゃんと聞かなければならない。
言葉の聞かれてもいない部分に情報を載せてきているからだ。
横にいるジェニファーの方を見る。急に大人しくなったからだ。
ジェニファーは頭をかいて目だけ上の方を見ている。
ジェニファーを見ていると真に気づいてニコッと笑う。
大丈夫だ。
ちゃんと自分たちの置かれた状況を考えている。
そんなジェニファーの姿を確認して真はエイト・オブ・ナインとの話を進める。
「で、何の用?」
「ロキの使いで参りました。とりあえずお約束の文言を『大人しく来れば命は保障する』だそうです」
いいのか?真は疑問に思った。
エイトは今、ロキって言った。
黒幕の名前を簡単に喋りすぎているのではないかと。
わざわざロキと名乗ったのだ。そこに意味があるはずだ。
「ロキっていうのはウトガルザ・ロキ?それとも『終わらせる者』」
「ラグナロクの原因の方です」
今の発言だけで、いくつか重要なことが含まれていた。
まず、ジークフリートのリーダーはロキであること。
そしてわざわざ『ラグナロクの原因』のロキと言った。
巨人のウトガルザ・ロキではなく、神の方のロキ。
名前の由来は諸説あるが、『終わらせるもの』または『炎』を示している。
オージンの義兄弟にして炎の化身、鍛冶の神である。
男であり女でもある。
ここで重要なのはロキは嘘しかつかない。
つまり命の保障は嘘である。
そしてわざわざラグナロクという言葉を選んで言った。
この単語には意味があるはずだ。
そこまで確認した真。
やはり会話にヒントを詰め込んできている。
そう確信し会話を続ける。
「断ったら?」
「お二人に我々と戦っていただきます。抵抗は無意味ですよ」
最後の言葉がヒントだ。そう真は思った。
『抵抗は無意味』……スタートレックに同じような言葉があった。
――ボーグだ!
ボーグとは海外オタクの聖書スタートレックに登場する種族である。
目が合った種族を飲み込んで同化し、ボーグに作り変え無限に増えていく。
要するにSF版のゾンビ。
しかも操っているのが滅茶苦茶頭がいい。
ほとんど災害のような種族である。
つまり……エイトはボーグに近い存在である。
一人ではない。複数の人間の集合体である。
……という事を真に伝えようとしているのだ。
たぶん……敵の内にいる味方だ。
そう真は確信した。
そして真は同時に丁寧な言葉遣いの裏にあるものを読み取った。
それは一見敬語だが、気の置けない友人に話しかけるような物腰。
それも何十年ぶりかに会った友人に話しかけるかのような。
真は思った。
元の世界で自分の知り合いなどそう何人もいない。
赤口、桃井、青山、そして黄生。それに学校の友達。それとディーノ。
どこまでも狭い世界。
そしてその中でこの声は一人しかいない。
「あなた桜ね」
ジェニファーが重い声色でそう言った。
真は振り返る。
ジェニファーの顔が青ざめその声は震えていた。
だが、エイトがそんなジェニファーと真にかけた言葉。
「あなたがたが学園に戻ったらまた伺います。それまでに決めておいてください。では、桃井鏡花、緑真……ごきげんよう」
言葉はそれだけだった。
そしてエイトは現れたときと同じように何もない空間で煙のように消えた。
最後に大きい爆弾を残して。
「……え……桃井、さん?」
「え?緑真……真ちゃん!」
目を丸くして口をパクパクと動かすジェニファー。
しばらくして嗚咽し始める。そして涙。
「うえ……ぐす……寂しかった……ひっく……」
真はどうしていいかわからずうろたえ、そして桃井を優しく抱きしめた。
胸の中で泣き続ける桃井。
「好き。……誰よりも。誰よりもあなたが好き」
桃井の頭を撫でる。
真にとっては数日前の出来事。
だが桃井や赤口にとっては20年前の出来事なのだ。
このとき真はその時間の重みを感じたような気がした。
スタートレックとボーグ出しちゃったけど、直接出したわけではないのでOKかと……
自信がないのでまずいかなと思ったら直します。




