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サイファ先生の魔法レッスン

無線装置開発チームが発足した翌日。


「これが雷撃魔法だ!」


手からの青い放電。

丸い木の的が一瞬で焼け黒焦げになる。


「あははははははははッ!」


ノリノリである。

学園の中庭。

そこで行われているのはサイファの真への個人教授。

エロイベントは……ない。

魔法の使えない真には何をやっているのかすらわからない。

サイファは真がヒいていようともお構いなしにノリノリで言う。


「ということでやってみろ!ミドリマコトよ!」


「無理っス。つうかやり方わかりません!」


それは無理だ。

真は魔法が当たり前にある世界の人ではない。

そんな真を見て、サイファは機嫌よくハイテンションで笑いながら話を続ける。


「まあそうだろうなあ!だが、貴様は余に教えを請わねばならない!それこそ足の指を舐めてでもな!」


「全身舐め回しましょうか?」


「セクハラか!」


「じゃあちゃんと教えてくださいよ!」


「ああ。わかった!」


ニヤッと笑いサイファが手を動かす。

すると地面に落ちていた小石が宙に浮く。


「基本は魔方陣を指で書くこと。魔法陣はフェオドラの説では自然法則に介入する方法だ。どう動かすかを入力するのだ!」


「いやだから!その魔法陣を動かす方法!」


「なあに、たやすいことだ。今からやる動きを真似しろ」


まずい。真は思った。

レッスンに名を借りてなぶり殺しにするつもりではないか?

サイファの表情はそれを暗示している。


「さて……行くぞ!」


サイファは宙に何かを書くかのように指を走らせる。

それを真は多少のラグはあるが正確に同じ動きをしていく。


「死ねオカマッ!」


指を動かし終わったサイファが叫ぶ。やはり殺る気であった。


「だりゃああああああああッ!」


真は同じ動きをするために叫びながら必死になって指の動きをトレースする。

全てを書き終えた瞬間、石つぶてに変化が現れた。

真に向かって飛んできた石つぶて、それが空中で止まり、すぐに地面に落下した。


「……これが魔法……ですか?」


「チッ!」


舌打ちの音が鳴り響く。真はイラッとした。


「あーあ!ダラダラ石つぶてを投げつけてオカマ野郎の心が折れるとこ見たかったな!見たかったな!」


あからさまに残念がりながら態度悪く言う。


「センセーいい加減にしないと暴れるよー。ぶっ殺すよー」


キレそうになりながら真が返す。


「るせえ!前世の決着つけるか。今つけるかぁッ!こちとら余も部下もお前に殺されとんじゃあッ!」


「お前のせいで俺死んだよな!おあいこだよな!何その理不尽!友達いないだろ。お前友達いないだろ!」


真が指を指しながら友達いないだろと繰り返す。

それを聞いて顔を真っ赤にしながらむきになってサイファが返す。


「ムキーッ!ちゃんと友達おるぞ!フェオドラに……フェオドラに……フェオドラ?」


少し考えるがフェオドラしか出ないようだ。


「一人だけかよ!しかもお前ら殺した一味のリーダーじゃん!つかレーガンのおっさんとかとは友達じゃねえのかよ!」


「フェオドラの保護者じゃん!お前友達の親と友達になれんのか!なれんのか!」


「うん。今考えたら無理」


無理だった。


「じゃあグー姉は?」


「うん……怖い」


サイファは目をそらす。


「へたれ」


ぼそりと真が言った。


「るせー!つうかフェオドラがいいのだ!余が認める唯一の魔法使いじゃ!」


それを聞いた瞬間、真は指を指して笑う。


「ぷぷー!負けたの?負けたの?」


その瞬間サイファがキレた。


「雷撃!」


予告なしに魔法で攻撃。

魔法。真はまだ理解してない。

だが真には秘策があった。

それはそのままサイファの動きをそのままトレースすること。

先ほどの石つぶて、同じ動きで落ちたということは魔法は相殺できる。

そして真の身体能力なら一度見れば動きはトレースできる。

勝てる!真はそう思った。


「ぬはははははは!トレース!」


サイファと全く同じ動きをする。

ぱあんッ!という音がして電撃の火花が消える。


「ほう、相殺か。そこまで理解したか!褒めてやろう!……ここまでが基本じゃ!次からがフェオドラの開発した分じゃ!」


そう言うとサイファは鉄球を撒き始めた。


「次は真似しても無効化はできない。プロセスが複雑だからな……死んだらすまんな」


そう言うとサイファは指で魔法陣を描く。

その複雑な動きは真がトレースできる範囲を超えていた。

一瞬で描き終えサイファは叫ぶ。


「ガウスキャノン!!!」


SF好きな真はその名前を聞いて密かに歓喜した。

名前から考えられるのは電磁投射。いわゆるレールガンではない。

プラズマ兵器でもない。

一番近いのはリニアだ。電磁石で鉄球を加速、火薬を使用せずに金属球を発射する。

現在でもマニアが作って遊んだりしている武器である。

銃刀法でも規制されていない。

だが規制されていないということは兵器としては致命的な問題ある。

家庭電源や電池では弾丸の速度が遅く威力が低いこと。

だが、ここにいるのは雷を発生させられる魔法使い。

高出力の電気で打ち出すことができる。

撒いた鉄球が恐ろしい勢いで真に突っ込んでくる。

そこで真は、サイファにわからないようにあらかじめ用意していた先ほどの雷撃の魔法陣を描く。

雷撃が一瞬で鉄球とサイファを襲う。

単純な出力で雷に勝てるわけではないのだ。

溶けた鉄球から発っせられる血のような臭いの煙。

その中でもサイファは無傷であった。

ガウスキャノンでの攻撃と同時に雷撃をなにかの手段で防御したのだ。


「ふむ。一度で覚えたか。では……これはどうだ?余の新しい魔法だ」


サイファはにやりと笑う。


――『余の新しい魔法だ』ですと!


真は実験台にされてることを確信した。

そしてサイファが恐ろしいことを口走る。


「『ぷらずま』ってやつ!次はそれだ!」


――この世界にプラズマ兵器があるですと!


真は驚いた。プラズマ兵器。あるはずがない。

要求される出力が高すぎるのだ。

レールガンですら実用化はされていない。

そしてレールガンクラスの兵器ならかわすのは不可能。

というか死体すら残らないだろう。

そう確信し真は焦った。すぐにやめさせなければ。

昔の真でもプラズマ兵器は荷が勝つ。

そもそも個人に向けるような兵器ではないのだ。


「っちょ待て!それはさすがに死ぬ!死ぬから!」


負けを認めるかのように両手を胸の前で交差させ、胸の前でバツを作る真。

だがサイファはそれを無視して魔法陣を描く。

そして死刑宣告が下される。


「喰らえ。ミドリよ!荷電粒子砲!!!」


サイファの前でプラズマ状になった気体が光を放つ。

ドンッっという音がし、真の身体は吹き飛ばされる。

吹き飛ばされる直前、真は見た。

光がサイファから数十センチ先まで一瞬で飛んだ後、いきなり消滅するのを。

吹き飛び地面に叩きつけられる真。

空気が肺から強制的に吐き出され呼吸が詰まる。

息を強制的に取り込む苦しさを感じながら真は無理やり身体を起こす。


――次が来る!


真は確信していた。

……だが次の瞬間、真の見たもの。

それは同じように吹き飛んで目を回して気絶しているサイファの姿だった。

荷電粒子砲。粒子を亜高速で打ち出す兵器。

摩擦でプラズマ化した物質が電磁波を撒き散らしながら目標の原子そのものを消滅させる。

亜光速ゆえにかわすことは不可能。

ただし、実用的な射程距離を確保するためにはとんでもなく莫大な電力を要する。

一説によると1万メガワット~5万メガワット程の電力が必要になる。

荷電粒子が数十センチで消えた理由。

単に電力不足だったのだ。

そしてそんな超高出力の兵器を不完全といえど数十センチも打ち出したのだ。

サイファが無事なはずがない。

死人が出てもおかしくはなかった。

それなのに平気で実験を行う、違うベクトルのバカの集まり。

頻繁に爆発事故を起こしていた20世紀以前の科学者たちのようだ。

真は思った。

不完全であろうともプラズマ兵器クラスの魔法を使えるサイファに勝ったフェオドラ。

どれだけの化け物であるのだろうかと。

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