ニケ
夕闇の中薄暗い部屋。
ハリケーンランプの明かり。
木製の机、椅子、ベッドが炎が作り出す光に照らされていた。
麗亜はベッドに突っ伏していた。
恥ずかしくて真の顔を見たくなかったのだ。
真を好き。それを指摘されたのがどうしようもなく恥ずかしかった。
麗亜は情報収集プログラムとしての本能であらゆる文献を読み漁っていた。
その情報量から麗亜は恋愛というものを理解しているつもりだった。
ところが実際それを問いかけられたとき麗亜は混乱した。
わからないのだ。
麗亜には物事を客観的に考える癖がある。
視点を変えて分析をする。
すべての分析を終えても自身が真を愛しているかはわからなかった。
好意はもっているはずだ。
偶然といえども一個の魂を持った存在になれたのは真のおかげだ。
だから、ただのプログラムの頃からずっと真のことを見ていた。
真を好きだ……と思う。
実際、フェオドラとの絡みで真の所有権を主張したことはある。
だがそれは、ただのノリであって深く考えたものではなかった。
それが恋愛感情なのかは麗亜自身にもわからなかった。
「うううううううう……」
頭をぐちゃぐちゃとかきむしる。
どんなに知識を溜め込んでいようとも自我が芽生えてから一年しか経っていない存在。
経験が圧倒的に足りていなかったのだ。
自分の中にある羞恥心。
その原因すらも麗亜は自身の中で理解していなかった。
麗亜が部屋から出ずに頭を抱えていると、コンコンというノックの音がドアからした。
「麗亜ちゃん。いる?」
寮の監督生のニケの声がした。
麗亜は飛び起きて慌ててドアを開ける。
「あ、ニケちゃん。なにか用ですか?」
いつもと変わりない姿。
悩んでいること自体を隠したかったのだ。
ちゃんとそれができていると麗亜は思っていた。
そんな麗亜を見て、ニケは違和感すら感じてなかったように見えた。
「いやー。なんか部屋から出てこないってグーちゃんに聞いて。
あれ?まだ来てないの?」
「いえ。お姉ちゃん来てませんけど……」
ニケは一瞬おかしいなという顔をした。
「あれー? 先にこっち向かったんだけどな……まあいいか。
部屋入るよー」
「あ、椅子出します」
麗亜はニケを部屋に招き入れニケに椅子を差し出し、自身はベッドに腰掛けた。
麗亜がベッドに腰掛けたのを見て、ニケがいきなり切り出した。
「まー。引きこもるんだから悩みなんだろうけど……真君のこと?」
ニケの言葉。
瞬間、電気が走ったかのように麗亜は身体を震わせた。
それは明らかな過剰反応だった。
ニケはその様子を見て黒い笑みを浮かべてニヤリと笑いながら言う。
「まーあの子。昔からハッキリしないんだよね!
悩む必要ないよ。ゆっくりやりなよ!」
違和感。
その一言を聞いて麗亜の顔が青くなった。
それは明確な疑惑。
真に対して『昔から』と言った。
昔から知っているのだ。真を。
ありえないことではない。
あの人だとしたら。
現に赤口《フェオドラ》、青山|《魔王》、桃井|《王女》はこの世界に来ている。
黄生なのか?
黄生だとしたら……それはおかしい。
フェオドラが気づいていない。
震える唇。
搾り出すように麗亜は聞いた。
「ニケちゃん……あなたは何者……なんですか?
黄生さん……ですか?」
疑問を投げかけられ椅子に座り不敵に笑うニケ。
笑いながら麗亜に語りかける。
「言ってなかったっけ。ヴァルキュリアの麗亜ちゃん。
麗亜ちゃんはグーちゃんと同じで物語の主役ではないだろうし……
……まあ答えてあげてもいいかな」
両の腕を胸の前で組んで笑みを浮かべる。
それを見て麗亜は息を呑んだ。
ランプに照らされたニケ姿、それは伝説のフェンリルのようにすら思えた。
「私の本名はニケ・キリュウ。サクラ・キリュウは私の母?……いや違うな。
この場合、親子関係になるのか……それとも姉妹?
うんまあ似たようなものかな」
仕事で家に帰れないー!
先週は暇だったのにー!
次話はストックが溜まり次第ということで……
すいません。




