表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/95

男と女

「ここまでが桃井が『軍神』と呼ばれるようになった出来事だ」


「……黄生さんは?」


真は聞く。

桃井の現状はわかった。

王女なのだ。

姿が変わってしまっていてもいい。

友人に会えるのだ。

真は気になった。

では黄生は来ているのだろうか?と。


「ああ、ジークフリートを名乗る組織があちこちで目撃されているんだ……」


「北欧神話!」


真は身を乗り出す。


「でもジークフリートだとニーベルンゲン版ですね。

キリスト教伝来以降のものです」


麗亜が口を挟む。


「つまり……」


「転生者だ……と思う。

少なくともオージンの関係者だ。

だが、黄生であるという確証はない」


「……そうか」


苦虫を噛み潰したような顔。

それを見てフェオドラがたずねる。


「真はどうしたい?

黄生が来てるとしたら?」


フェオドラが聞く。

それはグー姉のお説教からずっと考えていたことだ。


「まだ……わからない……

でも、今度こそハッピーエンドを迎えたい……全員で……」


「そっか。それならいいよ」


フェオドラは笑顔になる。


「あ、そうそう。

真に言うの忘れてたけど……」


フェオドラが急に真面目な顔になる。


「まだ混乱してるだろうから、私は焦らない。

だから……いつか答えを聞かせて。

私はね、私は元男だから……

男でしかも友達だと思ってた人に告白されたら混乱するっていうのは、良くわかってるよ。

正直言って、気持ち悪いよね」


「いや……そんなこと……」


真は何を言っていいかわからなかった。

確かに極限まで混乱しているのは確かだ。


「まあ、普通そうですよね。正直きもいですね」


麗亜が同意する。

空気が読めないのではない。

フェオドラが否定して欲しかったのではないと理解していたからこそ同意する。

麗亜も元ロボットなのだ。

フェオドラほどのショックはないにしても混乱させるだろう。

そういう意味では赤口(フェオドラ)の問題は他人事はなかったのだ。


「言われてみると結構……心がえぐれるね……いや事実だ。ありがとう麗亜。

私に麗亜、それにここにはいないけど桃井……みんな君が好きだ」


「いや私は……」


麗亜が思わず反論する。


「死ぬのわかってて、それでもついて行って、転生までして追いかけてきたんだろ?」


「それは……私もわかりませんッ!」


声を張り上げる。

麗亜にもわからなかったのだ。

たった一年しか生きていないのだ。

人生の経験が圧倒的に足りてなかった。

麗亜は情報収集プログラムだった。

だから情報としては感情というものを知っていた。

だが、どれほど情報を集めたとしても、理解できないこともあるのだ。


「そっか……まだわからないか……

まあ、そういうのも含めてゆっくり考えればいい。

私はね、真。

私が君を好きだからといって、君に本気で愛してくれとは言わないよ。

今の君は自由なんだ。

だから、君は君のしたいようにするんだ」


「いやでも、友達が真剣に言ったことで……」


真の中でまたあらゆる情報がごちゃごちゃと駆け巡る。

目が泳ぎ、頭が痛くなってくる。

真はエロゲを愛する紳士である。

ゆえにTSやら人外への耐性はあった。

……あったのだが、自分がその主人公になるとは思っていなかったのだ。

確かに何度か桃井に恋愛っぽいアピールをされたことがあるが、

その当時の真は、自身が一年で皆の前から消える存在なのだと思って考えないようにしていた。

みんなは隠しているつもりだったが、真は知っていたのだ。

自分の命があとわずかであることを。

だから、あきらめていた。

仲間から逃げていた。

恋愛なんて考えたことも無かった。

エロゲやマンガのような誰かの作ったストーリーだけで満足だったのだ。

それが転生し、生身の身体になり、人として生きることができるようになった。

そして、今まで他の世界のような話だと思っていたことが自己に降りかかったのだ。

そうすると一気に考えることが増えた。

自分の置かれた立場のせいで一度も考えたこと無いような悩みだった。

真は生まれてはじめての悩みにどこまでも苦悩していた。


一方、フェオドラはそんな真の事を理解していた。

真は今まで特殊な環境にいた。

友情は、多少理解できているのだろう。

だが、恋愛はまだ理解できないだろう。

だからこそちゃんと考えさせなければならない。

自分が拒否されたとしても、全員が拒否されたとしても、ちゃんと考えさせねばなならない。

経験をつませ、考えることによって人間にしなければならないのだ。

情というものを教えなければならない。

自分が死ぬことで誰かが悲しむことを未だに完全には理解してないはずだ。

理解させねばならないのだ。

そうでなければ、また躊躇なく死に向かうだろう。

自分たちのために死んだ前世のように。

それだけは避けねばならない。

だからこそお願いする。

考えてくれと。

それが真を苦しめるとしてもだ。

フェオドラは悲しそうに……それと同時に笑みを浮かべて言った。


「友達か……少し悲しいけどいいんだ。それで。

私たちはね。

みんなそれぞれ問題を抱えているんだ。

だから、真剣に考えて欲しい、私たち全員の事を。

ちゃんと時間をかけてゆっくりとね。

それだけが望みだ。

その結果はどんなものでも受け入れるよ」


真の精神は限界を迎えていた。

考えがまとまらない。

どのポイントが自分の中で引っかかるのか、それすらわからない状況になってしまっている。


「わかった……ちゃんと考える……全員の事……」


目を回しながら顔を真っ赤にしてなんとか答える真。


「あの……フェオドラお姉さま……

真ちゃんが限界を迎えているようですが……」


「んー、わかった。

じゃあ、最後に。

私は、軽い気持ちでセフレからはじめてもらってもいいよ!」


ウインク&サムズアップ。

それがトドメだった。

突然、ぷっつりと糸が切れたように崩れ落ちる真。


「っちょッ!

真ちゃんが泡吹いて気絶しました!

誰か人を! 誰かー!」


「うわ! 真! 大丈夫か!

最後のはギャグだったんだ!

オチつけないとまずいと思っただけなんだ!」


薄れいく意識。

真には二人の悲鳴が聞こえたような……気がした。



真はベッドで目覚めた。

辺りを見回す。

するとグー姉が横に座っているのが見えた。


「目覚めたようですね。

ああ、安心してください。

バカ二人はいませんから」


真は安心した。

二人の事が嫌いなわけではない。

今は、混乱するので二人に会いたくはなかっただけなのだ。

深いため息。

それを見たゲー姉がいたずらっぽく言う。


「フィーに襲われない方法教えましょうか?」


「マジですか!?」


真はその話に食いつく。

襲われること自体はどうにでもできる。

しかしながら、できれば穏便に時間稼ぎをしたいのだ。


「ええ。とても簡単です。

なるべく女の子扱いしてください」


「え?」


その考えは真の中には無かった。

真にとって赤口は勉強や遊びを教えてくれた兄のような存在。

真面目で融通が利かない兄。

それが真にとっての赤口なのである。

それはフェオドラになっても変わらない。

例え今が芸人気質で、ひたすらエロい女性でも真にとってはフェオドラは赤口なのだ。

それを率先して女として扱うという発想は全くなかった。

またも悩む真。

それを見て、微笑みながらグー姉は続ける。


「あの子。

小さい頃から最強の魔法使いとして扱われてたから、女の子として扱われたこと無いんですよ。

あの子はいつも魔法使い協会のボスや学園長として扱われてました。

あの子を女の子扱いするのって、今世のお父さんだけじゃないかなあ。

だから女の子扱いされたらテンパって一発で大人しくなりますよ」


正直ハードルが高い。

頭を切り替えねばならない。

それでも真はそのアイデアにすがった。


「うんそうする! 俺やるよ!」


「そうですか! じゃあ、ご褒美にフィーが暴走したら美味しくいただいても見逃してあげます」


「すんません。 そっちは厳しく取り締まる方向でお願いします。 いやマジで」


そういう真を見てグー姉は機嫌よく笑う。

真のためを思ってだろうと思われる提案。

フェオドラの友人としての立場でもおかしいところはなかった。

だが……真が窓の外を見た一瞬……その一瞬だけグー姉は邪悪な笑みでニヤリと笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ