桃井5
青山たちが死亡した時の数分前。
ブルー研究所への救出作戦。
そのために桃井はヘリに乗って移動していた。
桃井たちのヘリから、輸送機が編隊を組んで飛んでいるのが見えた。
護衛の戦闘機に見つかる。
冷や汗が流れた。
だが、護衛戦闘機は桃井たちを無視して行ってしまった。
そして桃井は見た。
輸送機が一斉になにかを投下したのを。
それは燃料気化爆弾だった。
沸騰液膨張蒸気爆発。
液体の突沸による爆発。
それが起こった。
音速以上のスピードで迫る爆風。
その衝撃破が低空を飛行するヘリを襲った。
一度ではない。
全方位から何度も爆風と衝撃破がヘリを襲った。
煽られ、コントロールを失う。
巨大な火球が見えた。
そしてヘリは高温に包まれた。
ヘリが墜落した。そこまでは覚えていた。
街が燃えている。
人間の姿はなかった。
爆風による一酸化炭素中毒、衝撃波による圧死、車の中で蒸し焼きになったものもいたのだろう。
皆殺しに近かった。
桃井はブルー研究所から提供された量産型戦隊装備のおかげかかろうじて生きていた。
パイロットや仲間がどうなったかはわからない。
他の機に搭乗していた仲間の安否も全く予想できなかった。
吐く息が熱く、体がうまく動かない。
喉の中は焼けていないように感じられた。
喉が焼けていたら、あっという間に窒息して意識は失われただろう。
咳が出る。血が口から流れ出た。
糸を引く唾と混ざり合った血液。
それが喉の奥からあふれ出てくる。
衝撃波によって内臓が傷ついたのだろうか。
「……桃井!……桃井!生きてるか!」
スタンの声が聞こえる。
スタンリー・マーシュ。アメリカの元パワーレンジャーのレッド。
レッド退役後、軍に入隊。正義の味方を続けたいという考えだった。
中東で地獄を見て戦後PTSDを発症。
生活が破綻したところを桃井が軍事アドバイザーとしてスカウトした。
桃井の部下であり、右腕とも言える存在であった。
桃井は力を振り絞って通信に答える。
「スタンさん…… なんとか生きてます。 でも……動けません……そちらはどうですか……」
「ああ、こちらも酷いもんだ」
「お願いがあります……」
「わかってる。今助けてやるから待ってろ」
「私は放っておいて一般人の救助を優先してください」
「おい! あんたがいなかったらチームを誰もまとめられねえ!」
「スタンさんが……後を引き継いで……ください、ゲホッ……ゲホッ……」
口の中に血がたまっていた。
喋るのに邪魔な血を吐き出す。
「おいッ! 大丈夫か!」
「私は……大丈夫です……」
嘘だった。
皮膚の感覚がなくなるほどひどい火傷を負っていた。
装甲のおかげで即死は免れた。
だだそれだけだった。
あと少しで確実に死ぬだろう。
ああ、これで真のところに行けるのだな。
そう桃井は確信した。
根拠のない幸福感が桃井を包んだ。
それが肉体が死への準備を行っているのだということを桃井は理解した。
実際、幸せなことだろう。
桃井は死の先にあるものを知っている。
愛する男のもとに行けることを知っている。
神との契約。その履行が間近に迫っている。
それを知っていたのだ。
あとはそのまま幸せに死ねばいいだけだった。
だが、そんな幸せな気持ちをぶち壊す声が聞こえた。
「見つけたぞ! 悪の女王よ!」
軽薄な声。
「「未来戦隊ジョン・タイター!」」
五人の声がハモり、ポージング。
あまりにもバカバカしい様にイライラとしながら桃井はそれを眺めていた。
「一般人を助けなくていいんですか?」
そう桃井が疑問を口にすると、レッドが力強く断言した。
「悪の組織の人間など死ねばいい!」
「この街に……ただ住んでただけの人ですよ……」
「うるさい! 悪なのだ! 悪なのだ! 悪は死なねばならないのだ!」
「救いようのない馬鹿ですね……そこの緑の人はどう思います?」
グリーンは無言だった。
「じゃあ、そこの青い人は……ゲホッゲホッ!」
「政府に家族が人質にとられている。家族のためにお前を殺さなければならない……」
「それならおとなくし戦ってあげようかな…… お姉さんはそういう素直な答え好きですよ」
桃井は血を吐きながら立ち上がる。
もう限界を超えていた。
「国境なきレンジャー代表! 桃井鏡花!」
力強く叫んだつもりだった。
もう動けなかった。足が言うことを聞かない。
「「超次元キャノン!」」
ポージング。
どこから取り出したのか大きい砲台を五人が不自然な姿勢で構えている。
七色の光が砲身から漏れる。
愚かな子たちだ。
まるで真を守れなかった私たちのように。
そう桃井は思った。
通信が聞こえる。
「すまない! すまない桃井!」
スタンの声。
「後は頼みます……」
それが、桃井の最後の言葉だった。
◇
「さて、これで役者は揃ったのう……」
オージンが満足そうに微笑む。
ヴァルホル。その一室。
オージンとブリュンヒルデ、そして桃井が椅子に座って会談していた。
「で、桃井ちゃんは何を望むのかの?」
王のように力強く、そして居丈高に桃井は答える。
「完璧な……完璧な妹だ。最高スペックの真ちゃんの妹を望む」
「はいッ? ちょっと何言ってるかわからない!」
「妹だ……妹ですよ!妹!妹!妹!妹!妹!妹!妹!妹!妹!妹!妹!妹!妹!妹!」
「えっとブリュンヒルデ……意味わかる?」
「師匠が妹という劇的再開。泥沼の近親相姦。妊娠そして破滅エンド。結構なお手前です」
意味がわからない。いや、わかるのだが理解したくない。
オージンはそう思った。
よく見たら桃井はレイプ目でいる。
ブリュンヒルデもつられてレイプ目になっている。
深く考えるのはやめよう。
彼らは誰一人としてオージンの手の平の上では踊らない。
そんな彼らを望んだのはオージンなのだ。
「えっと、真ちゃんは元の身体に戻して向こうにリリースしちゃったから、血の繋がらない妹ということで……」
「え? なにそれ……なにそのおいしいポジション……」
第二章 完
桃井死亡。
ちなみに幹部はスタン、カイル、カートマン、ケニーです。




