魔法使い組合
「話を元に戻そう」
フェオドラは真面目な顔になる。
グエンドゥルも無言で頷く。
「私はねえ。ほんの少しだけ特殊な人間でね……
真がこの世界に来ることがわかっていたのでね、ちょっとだけ張り切りすぎてね……」
顔を真っ赤にしてもじもじしている。
それを見てため息をつきながらグエンドゥルが代わりに続ける。
「私が代わりに説明しましょう。
そこの馬鹿はな。はっきり言って、この世界最強の魔法使いです。
最強といってもいろんな種類があるのはわかりますよね?
財力、政治力、軍事力、個人の強さ。
……全て持っているんです」
「はい?」
「うん。ばかげてるでしょ。
そこのバカな、結婚させられるのがイヤで結婚しないだけの権力を得るためだけに魔法使いの組合を作りやがったんです。
しかもイタリアマフィアの組織を真似て。
武力、資金力、技術力の全てにおいて国内最強の組織ですよ」
◇
この世界の殆どの魔法使いたちは壁にぶち当たっていた。
今まで蓄積されてきた理論。
体系化らしきものはされている。
だが、どうしても個人の才能からの経験則ばかりなのである。
使えるものはごくわずか。
ゆえに実践や集合知化が全くされていなかったのである。
そしてごく一部の才能ある魔法使いも、なぜ自分が魔法を使えるのかということがわからなかったのである。
そこに現れたのが、フェオドラの理論。
科学を踏まえたうえで誰にでも魔法が使えるようになるという誰もが望んだ理論。
もっと知識が欲しい。
もっと結果が欲しい。
もっと……
その知識へのあくなき探究心を満たす彼女の提唱する理論に魔法使いたちの多くがすがった。
そして、フェオドラはそんな魔法使いたちに微笑みながら言うのだ。
「これ以上の知識を求めるのであれば組合に入ってください」
こうしてフェオドラはそのチート能力である魔法の才能と、誰でも魔法を取得できるように体系化した魔法理論、そして組合の組織力よって学園を乗っ取った。
この時フェオドラ、わずか10歳であった。
フェオドラの創立した魔法使い組合は兄弟姉妹の契りを核とする組織である。
イタリアンマフィアのオルメタの掟を基に赤口が血の掟を作り、今まで横のつながりが殆どなかった魔法使いに組織を立ち上げたのだ。
第三者が同席する場合を除いて、独りで他組織のメンバーと会ってはいけない。
組合の仲間の夫や妻に手を出してはいけない。
バーや社交クラブに入り浸ってはいけない。
どんな時でも働けるよう準備をしておかなくてはならない。それが妻が出産している時であっても、組合のためには働かなければならない。
約束は絶対的に遵守しなければならない。
夫や妻を尊重しなければならない。
何かを知るために呼ばれたときは、必ず真実を語らなくてはならない。
組合の仲間、およびその家族の金を横取りしてはならない。
組合に対して感情的に背信を抱く者、素行の極端に悪い者、道徳心を持てない者は、兄弟の契りを交わさないものとする。
組合の秘密を口外してはならない。
これは血の掟である。
破ったものには容赦はしない。
とは言っても、フェオドラは野蛮なことを嫌う現代人として25年も生きてきた記憶がある。
本物のイタリアンマフィアのようにリンチして殺した挙句に口に小石をつめて放置というのは気が引けた。
そこで、魔法を使えないようになってもらった。
古い文献にそんな呪詛が載っていた。
相変わらず理論が間違っているので誰にも再現できない魔法。
それをフェオドラは復活させた。
解呪方法も理論が間違っているため誰にも解呪できない。
フェオドラ以外には。
殆どの裏切り者は、数ヶ月で心のそこから反省して泣きついてきた。
それ以外のものについては、誇りを持って、若しくは、やむにやまれぬ事情で裏切ったものには、できる限り短い日数で元に戻したし、人質などがとられていれば全力で救い出した。
庇うにも値しない裏切り者に関しては魔法が使えないまま放置した。
すると、裏切り者からもフェオドラに心より忠誠を誓うものが出てきた。
組合員は命を掛けて守る。
裏切り者には制裁を加える。
組合に入ればありとあらゆる恩恵を与える。
そして相互に持ち合う研究成果という秘密。
血と兄弟姉妹の絆。
これを巧みなバランスで行った結果、魔法使い組合は最高の結束力を持った集団に成り上がったのだ。
まさにファミリーを作り出したのだ。
◇
「初めては真と……って決めているからね!」
ウインク・アンド・サムズアップ。
――殴りたい。
「地方自治とかの概念も持ち込んだよ。クソ領主どもが善政をひかなければならなくなる様は大笑いさせてもらったよ! まさに『地方自治は民主主義の学校』だな。クククククッ!身分制度で守られた貴族どもが民主議会政治の茶番担当の参議院議員に泥仕合で勝てるとでも思っているのかね!」
誰がここまで赤口を壊してしまったのだろうかと当の真犯人は思った。
「と、まあ元政治家でチート能力者のバカが世界をところどころ破壊してまわったわけです。
ですが、結局は政府の権力外の権力組織を作ってしまったというわけです」
「政府に抹殺される?」
「それをするには組織が強力すぎました。
フィーには国王ですら喧嘩は売れませんよ。伯爵位だって家のじゃなく自力で手に入れましたし。
人質をとれば組合員が全力で取り返しに来るし、暗殺者を送れば手加減された挙句に半殺しで戻って来ますよ」
「じゃあ、何が問題?」
グエンドゥルが答える前にフェオドラが答える。
「もう一つ……いや、二つか。
化け物じみた組織が現れてねぇ。
貴族共が共倒れを狙ってるのさ」
「もう二つ?もしかして……」
「そうだよ……大切な仲間だよ……」
フェオドラはつらそうな顔をしてうつむく。
それを見てグエンドゥルが代わる。
あの怖い笑顔でだ。
「さて……ここからは真ちゃんへのおっ説教です」
「はい?」
「あなたが勝手に死んだせいで、お友達の人生が滅茶苦茶になってしまった。あなたはそのことをちゃんと理解しなければなりませんよ」
「いやでもあれは」
「黙って聞け!」
有無も言わせぬ迫力。
「……はい」
フェオドラがクスリと笑う。
「実はね。彼らが私の前に現れてから1ヵ月も経ってないんだ……
そしてね……みんなのその後の事……私も知らないんだ……
ブルー……青山は言ったよ。
『間もなく真が現れるだろう。決着はその後につけよう』ってね」
「実際、フィーは私にその後の話を聞いてません」
「私はね。
最後にキレて失敗しちゃったけど、それでも一生懸命生きたから前世に悔いはないんだ。
そんな私が、彼らの事を聞くのは正直……怖いんだ……
一緒に聞いてくれるかな?」
心底悲しそうな顔。
「わかった……」
真は答える。
「では、はじめましょうか……」
ふじわらごんざれす は うつ を ためている
次ターン鬱。




