番外編 ヘルズマジシャンのディーノと○スターポポ
今日の分と番外編を投稿します。
ヘルズマジシャンの総長ディーノこと出川大輔と真が出会ったのは4月の入学式のことだった。
この日、ヘルズマジシャンは伝説になる予定だった。
入学式が行われている講堂をバイクで襲撃、式自体を台無しにする。それが計画だった。
どこまでも幼稚な計画。だが、ディーノたちは真剣であった。
勉強はできない。
スポーツもダメ。
これといった特技もない。
人格全てが否定される思いだった。
全てが壊れてしまえばいい。
自分の人生も壊れてしまえばいい。
でも一人で破滅するくらいなら全てを道連れにしたい。
彼らの敵もこの世界だったのだ。
ただ彼らには解決方法を模索する知能も機会もなかったのだ。
ディーノ達は計画通り入学式が始まったことを確認。正門に走り出す。
そこに立ちはだかったのが緑真だった。
ミスターポ○のような表情をした特徴のない顔をした新入生。
構わずバイクで突っ込む。あたふたと避けるところが見たかったのだ。
しかし全く避けるそぶりがない。
殺してしまう。
人を殺してしまうという恐怖が頭によぎった。
やめておけばよかった。
後悔するがもう遅い。
ディーノは目をつぶった。
衝突の感触はあまりも小さかった。
なぜなら、目の前のミスター○ポみたいな顔の男がバイクを足で押さえつけていたのだ。
冗談みたいな光景だが、ピクリとも動かない。
そんなことをされたらディーノが放り出されるはずなのだが、それすら起こらない。
タイヤが地面にめり込んでいるようにさえ見える。
「お前……何者だ……」
ディーノは呆然としながらつぶやく。
「んー。入学式ダメにされると困る人?」
困った顔で答える。
圧倒的な力を見た恐怖と目の前の男の薄い存在感がディーノを混乱させる。
固まっているディーノを仲間が煽る。
「ディーノさん! そのガキ早くやっちゃってくださいよ! ワンパンくれりゃあ泣き出しますって!」
――無理だ。絶対に無理だ。目の前のターミネーターにワンパンで殺されるイメージしかわかねえ……
ディーノは怯えていた。だが、仲間の手前、戦わないわけにはいかなかった。
ディーノはやけになった。バイクから降りて指を刺しながら怒鳴る。
「てめえゴラァッ!なにイグアナぶってんだこの野郎ォッ!」
わけがわからない。言った本人にも意味がわからない。
もう引っ込みはつかなくなっていた。
拳を握り殴りかかる。
空を飛んだ。
投げられたのだと気づいた。
一本背負い……のようなものだった。
背中を強打。
肺から強制的に息が排出される。
あまりの苦しさに動けないでいるとミス○ーポポに話しかけられる。
「大丈夫?」
――お前がやったんじゃあああああッ!
心の叫び。声にはならなかった。
「出川君になにすんじゃボケぇッ! 殺っちまうぞ!」
――本名で呼ぶな!
仲間が襲い掛かる。
その瞬間、ディーノこと出川は自分を見下ろすミ○ターポポの顔が女性のなまめかしい顔に変わってにやりと寒気がする笑いを浮かべたのを見た。
「お前ら! に、逃げッ!」
そう叫んだときにはもう遅かった。
仲間の悲鳴。
一方的かつ圧倒的な暴力。
もう、不良辞めます。いい子になります。だから……だから……
その日、ヘルズマジシャンは事実上の壊滅をした。
6月。
七三分けに髪型を変えたディーノは悪魔に呼び出された。
悪魔は、前回とは違って小学生の男の子のような顔になっていた。
「……先輩に頼みがありますです」
カツアゲだ!と本能的に察知した。
これから永遠に貢がされられる。
幾らなのだろうか。値段によっては警察署に駆け込むしかない。
だが、果たして警察で止められるのであろうか。あの悪魔を。
ディーノの心を絶望が支配した。
「これやって感想書いてメールで送ってくれ、ください」
――はい?
目の前の悪魔が差し出したのはアニメタッチの女の子のイラストが書かれた箱。
『姉マゲドン お姉ちゃん発情しちゃう!』
いわゆるエロゲだ。
悪魔の意図が全く意味がわからない。
トラブルのにおいがする。とりあえず断ってみよう。
「え、えっと……うちパソコンないんで……」
すると悪魔は何かを差し出す。
ノートパソコン。これを買えということだろうか?
「えっと……こんなの買うお金ないっていうか……」
「あげる。ゲームもインストールしてある、です?」
意味がわからない。
だが、目の前の悪魔は真剣な顔をしていた。
そして土下座。
「もう……師匠の感想文提出とレッドの宿題と学校の宿題と訓練と出動と電気工事士の資格の講習でいっぱいいっぱいなんじゃああああああッ!うわああああああああんっ!
苦手な姉ゲの感想文なんて書いてる暇ないんじゃああああッ!」
号泣。
この数ヶ月で何があったのだろうか。
目の前の悪魔が初めて人間のように見えた。
「そういうのはお友達に言うべきじゃないかな……」
「やったら一発でばれたんじゃあああぁッ!
あの馬鹿ども、ス○ト○分が足りませぬって書きやがったんじゃあーッ!
電気部のあほーッ!
師匠が師匠が……超怖かったんじゃああああッ!」
――レベル高っけえぇなおい
なぜか、かわいそうになってきた。
だが関わらない。同情しない。怖いから。
そうディーノは決めた。
だが、次の一言で全てひっくり返る。
「友達だよね……」
「はい? いつ友達になった!」
悪魔は懐から漫画を取り出す。
湘南ヤンキー烈風なんたらかんたらロードな伝説がアレする漫画だ。
「これに喧嘩したらトモダチって書いてあった!」
目が真剣と書いてマジだった。
そもそもあれは喧嘩なのか?
ディーノの記憶では一方的な虐殺だったはずだ。
「タイマンしたら宿敵と書いて友だろ!」
本物のキチガイだ。断ることなんてできない。そう悟った。
物だけ受け取って逃げよう。
そう思いながら目の前の悪魔の顔を見た。
笑顔なのに鬼の表情。
「逃げたら……わかるよね?」
――ひいいいいいいいいいぃッ!
「緑真です。一年生。よろしく。ヘルズマジシャンのディーノ先輩」
逃げることはできない。
ディーノは震える手でノートパソコンを受け取った。
その日の夜。
「大輔ちゃん! 大輔ちゃん! おねえちゃんは……おねえちゃんは……」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!おねえちゃーんッ!」
新たな世界の扉を開けたディーノがそこにはいた。
ここに広域エロゲギャング・ヘルズマジシャンが誕生した。
工業高校は真面目に授業を受けると案外忙しいです。
人によっては学校の宿題(電気系のレポート+情報系のレポート)+資格講習会(工事系+IPAの基本情報処理)+普通科対象の大学受験の講習(普通科教師の嫌味つき)+予備校(推薦?学校名だけで断られますよ!)+自分の勉強(受験+学校では教えないけど就職に必要なJAVA)となります。
一度『実業科のくせに全国模試を受けに来た』という意味不明な理由でサッカー部顧問の普通科の教師に鼻血が出るまで殴られました。
そのかわり普段の授業は超ヌルゲーです。
たまに応用とか電験3種とかを鼻歌交じりに攻略するニュータイプがいるのですが、そいつらの話を聞くと
「いやあ、家庭裁判所にお呼ばれしちゃって……」
「XXて族にいた市長の甥を半殺しにしちゃって……(なぜか本人の鼻は不自然に曲がっている)」
「うちXX教でさ……大学行くの禁止されてるんだよね……」
「親がヤクザだからここで就職できないと……」
と、すげえヘヴィなお話が聞けます。
なるべく関わらないで生きていきたいものですね。




