国境なき……
赤口の参議院議員の任期もあと3年になった頃、とある団体のニュースが世間を賑わせていた。
『NGO国境なきレンジャー』
壊滅的にネーミングセンスがない。
だが、このネーミングセンスのなさこそが戦隊関係者であるという証であった。
彼らの活動は正義。
彼らが正義と思ったことを国家や政治そのた一切のしがらみを無視して実行すること。
なぜそんなことができるのか?
彼らは世界各国の引退した戦隊戦士たちだったのだ。
圧倒的戦力で各地の紛争に勝手に介入してどちらの軍も蹴散らしたり、政治的見地から放置されてるテロリストグループを壊滅させたり、政治的に逮捕されない巨悪の犯罪や隠された政府の公文書を勝手に暴いて証拠付きで晒し者にしたりしている。
実際、戦争は減り治安は改善された。
だが戦争によって収益を得ていた企業から多数の失業者が出て、飢えた兵隊が死んだ目をしているそれが現状だった。
企業も標的であった。
不正がされていると判断されれば、裁判もなく正義が執行される。
無差別に牙を剥く正義。
必要悪など一切認めない、暴走する正義。
実際、官僚組織全体に正義を執行されて社会体制の崩壊した国すら出現した。
犯罪組織だけではない世界中の社会の体制側、企業、公務員、軍人、政治家、その全てが恐怖した。
そして緑の一族も。
確かに一部の市民や政治活動家は手放しで喜んでいた。
自分たちの生活すら巻き添えになるというのに。
いまや国境なきレンジャーの問題は一年ごとに現れる悪の組織など歯牙にもかけないくらいに大きな問題へと発展していた。
そして、その頭目。
女性ではないかと噂される謎の存在。
赤口にはそれが誰なのわかっていた。
二年前に引退した戦隊戦士のためだけに作られた強固なセキュリティを誇る病院。
壊れた戦士を外に出さないためだけに存在する病院から脱走して消息を絶った桃井。
彼女しかいない。
政府からも何度も非公式に聴取をされている。
桃井はどんな人間か?
どんな思想の持ち主か?
政府に弓を引くような人間なのか?
もうすでに死んだことにしておきながら虫のいい話だ。
対外的には桃井は任期終了の一年後に癌で死んだことになっていた。
彼女の悲劇は何度も何度もテレビで報道され、最大限利用された。
真の死は小さい扱いだったというのに。
赤口には彼女の事などわかるはずがない。
赤口という男は彼女に最後まで必要とされなかったのだ。
真が死ぬまでには友人程度までには関係を修復できた。
だが、それだけだ……今の彼女が何を考えているかなんてわからない。
赤口に言えるのは真と出会って初めて彼女に自由がもたらされたということ。
そして真の死によって、全てが壊れたということ。それだけだ。
「真ちゃんが……死ぬ必要は……なかった……私たちは何もできなかった……」
赤口には虚ろな目でブツブツと呟く彼女の顔が忘れられないでいた。
結局、特撮戦隊は敗北したのだ。
本当の敵は……この世界。
桃井は本当の敵との戦いに赴いたのだ。
では、赤口は……?




