青山1
真に勉強を教えだしてから一ヶ月。
その日、ブルーこと青山匠は、今まで声を荒げたことない男は激怒していた。
「なんて残酷なことをしたんだ! お前らは!」
青山に呼び出された赤口、桃井ともに意味がわからず困惑する。
「勉強の事だ!」
「ま、真の勉強の事か!」
「そうだ!」
「なにがいけないんだ! あのままで社会に出たら大変なことになるぞ!」
「出られないんだ……」
「どういう意味だ!」
赤口が青山の胸倉を掴む。
だが、青山は逆に睨み返し、その眼力だけで赤口に圧力を掛ける。
「緑は一年で使い捨てなんだ! そのことを疑問にも思わせないために必要なこと以外の教育はしないんだ!」
「だって……グリーン辞めたって生きて行かなくちゃ……」
桃井の言葉を聞いて青山が怒鳴る。
「そういう意味じゃない! この一年が終わったらすぐに死ぬんだ! 三年も生きられない! なんの疑問も持たずに死ぬように……怖い思いも寂しい思いもしないように何も教えないようにしてるんだ! それをお前らは なんて酷いことを!」
そのとき赤口の頭の中に最初に顔合わせをしたときに注意を受けた言葉が浮かぶ。
「……緑に同情してはなりません。あれはそう作られた人形です……あれは……そういう……意味なの……か?」
「そうだ」
「……なんでだ……なんでそんな酷いことができるんだ……」
「酷い? 何を偉そうに! お前らはおかしいと思ったことはないのか?」
「なんの話だ」
「今回の敵。 警視庁の発表によると末端まで含めて総数15万人の勢力だ。 これは1995年に毒ガスを撒いた宗教法人の10倍の勢力。暴力団全体と比べても2倍以上だ。
それをたった5人で倒せるとでも思っているのかい?」
「そ、それは……警察や自衛隊も……」
「15万人って言ったら、市町村で例えるとかなり大きい部類に入るよ。それを東京都全体で5万人欠ける程度しかいない警察官が捜査できるとでも?
あいかわらずお目出度いな。
緑だ。緑で足りない分を埋めているんだ。
彼らは僕らの戦闘力が足りない分をすべて緑に背負わせているのさ。
知ってるだろ? 彼らは誰よりも強い。そして数も多い。圧倒的な組織力だよ。
その代償が個々の緑の寿命だったのさ!
彼が俺らの戦いを支えているのは知っているだろう?
いや支えてるんじゃない。もう、彼だけが戦っているという現実をわかっているだろう?
俺たちがバカなポーズをつけてる時だって、彼だけは戦ってる。
俺たちの家族の護衛もやってる。
一人にそれだけの負担をかけるってことがどんだけ歪んでいるかわかるだろ!
つまり……」
「つまり……?」
「おかしいんだよ、全てが。計画そのもののが狂ってる。
全てが狂ってる!
戦隊が事件を解決しなくてはならない。
だが、それをするだけの経験も戦闘力もない。装備も少ない。
君らみたいなマスコミ受けのいい人材がヒーローでなければならない!
戦闘のプロじゃヒーローににはなれない!
滅茶苦茶だろ?なあ?
そんな現実と理想のギャップを埋めるための都合のいいツールが緑ということだよ。
知っているかい?現在の日本の児童養護施設に入っている子供の総数を……そして行方不明の子供の人数を……外国人の子供も含めてだ……」
恐ろしい話を聞くことになるだろう。そう二人は確信した。
なぜか口の中が乾く。
「ここ50年で児童養護施設の子供は不自然に減っているんだよ……ほとんどいなくなっているんだよ……そして行方不明の子供は何倍にも増えている……ここから推測すると緑はな……緑はどこから子供を手に入れているってことを……」
「もう止めろッ!」
赤口が怒鳴る。
威勢はよかった。だが奥歯がカチカチと鳴っている。
桃井は正体不明の吐き気に襲われ、えづく。
「止めないよ! 誰の犠牲で今の社会が維持されてるか知っておいた方がいい! 特に君らのような奴らは、だ!」
「なぜ……? お前はそんなことを知っている?」
当たり前の疑問。それを投げかける。
「ああ、親父が元レッドでね……緑が戦いの後にすぐ死んだ事を死ぬ間際まで後悔してたよ。
酷いことをしてしまったってな……」
社会を知るということ、それは同時に自己と社会をの関係を知ること。
社会から切り離された自己と、社会という得体の知れないものの中で生きていく自己とを理解し学ぶことでもある。
死が近いから人間として生きることを教えない。
それでいいのか?
本当にそれで幸せなのか?
結論は出ない。出るはずがない。
赤口は何も言えなかった。言い返せなかった。
悔しい。自分は何でもできると思っていた。自分は赤として選ばれた。
誰よりも強くて賢い。圧倒的な全能感。
でもそれは違っていた。
友人すら助けられない。
ただの愚かな男。それが自分の正体なのだと……
だが、その時だった。
「私が! 私が責任を持ちます! 彼が幸せになるように……だから……彼を人間として扱いますッ!」
「ペットじゃないんだ! 意味がわかっているのか!」
「わ、私は……私が真ちゃんを守る! 怖い思いも寂しい思いもさせない! そのために……そのためにアイドル辞める! ずっと一緒にいる!」
そう言い放つ桃井の表情、それは真剣そのものだった。
だが青山はそんな桃井にも容赦しない。
「軽々しく言うな! だからお前はガキなんだ! お前らと緑の間に何があったのかは知っている。 だが、断言しておく! あれは善意じゃない! 桃井、お前の事が好きなわけでもない! 緑に情なんてない! あれはただの任務だ! チームの人間関係も緑の仕事だ!」
……たしかにそうなのだろう。だが赤口にとっては青山の言い方は許せなかった。
「おい! 青山その言い方は……」
「それでもいい! 私は、私は……思いに答えてくれなくてもいい! 私が……私が一緒にいたいの!」
本気なのだろう。少なくともただ単に雰囲気に呑まれているようには見えなかった。
そんな必死な桃井を見て青山の激怒した鬼の表情は顔は、安心したような慈愛の笑みに変わる。
「……よかったよ。 お前らがまともで…… 世の中にはこのことを知っていても緑の犠牲は当たり前って恥ずかしげもなく言い放つクズも多いんだ……そうじゃなくてもわかったような振りをして何もしない連中ばかりだ」
そう、うれしそうに語る青山。心の底から褒めているのだろう。
そんな青山を前に赤口は嫌な予感がしていた。
そう。赤口は気づいていた。
レイプ目の桃井。
いつからだろう? 桃井は完全に暴走していた。
青山の認識ではただの心優しい少女に違いない。
だが、目の前の少女はの危険性はこの一ヶ月で思い知らされた。
青山を見る。感動のあまりうっすらと涙を流していた。
赤口の心に罪悪感が生まれる。
そして、罪悪感から逃げるように桃井に目を向ける。
そこには桃井はすでに消えていた。
嫌な予感は確信に変わる。
「ぬおおおおおッ! っちょッ! 青山ぁッ! 緑がピンチだ! エマージェンシーだ!」
「な、なんだ赤口! どうした!」
「ぴぎゃあああああああああああああああぁッ!」
叫び声が響く。
「遅かったか……青山! 行くぞッ!」
青山の襟を掴み、赤口は駆け出した。
赤口も青山も桃井も形は違えど真のことを思っていた。
昨日……家に帰れなかったので、もう一話あとで投稿できるかと……
そしたら、二日ほどお休みします。




