特撮戦隊最後の戦い 前編
「フハハハハハハッ!我はただでは滅びぬ!
特撮戦隊どもよ!我の最後の攻撃で貴様らの大事な地球を滅ぼしてくれる!」
宇宙皇帝デスマーチ三世はそう叫び両の手を高く掲げた。
戦隊ロボ『俺TUEEE!』の『ロボットなのに近接攻撃!斬』を受けたデスマーチ三世は全身から血の代わりに火花を吹き出しながら最後の大魔法の呪文を唱える。
その瞬間、デスマーチ三世はまばゆい光に包まれ、光の中で体が分解されていった。
光が消え、そこにはデスマーチ三世の一部分すらも残っていなかった。
ほっとしたのも束の間、コックピットに緊急通信が響きわたる。
「こちら本部! 宇宙空間に突然現れた巨大な物体がとてつもない勢いで地球に接近しています!あ、あれは……敵の要塞『エンドレス仕様変更』です。デスマーチ三世は要塞を地球にぶつけるつもりのようです!い、今モニターに出します」
その放送を聞いた瞬間、真は覚悟を決めた。
コンソールを出し、スーパーユーザー権限で自分以外のコックピットを脱出ポッドモードにし、強制射出。
全員が無事脱出したのを確認し、すべての安全装置を解除、ブースターを最大設定にし、レバーを引く。
ゴオオォッ!という音とともに俺TUEEE!が浮かび上がり、上昇するスピードを増していく、その最中、グリーンは宇宙への脱出角度を計算し、マニュアル操作で俺TUEEE!を操る。
普段では味わえないGを感じながらどこまでも高く飛んで行った。
一年ごとに悪の組織が現れ、無差別テロを行うようになってから半世紀が経過した。
ヒーロー達のその戦いの記録は私生活を含めて全国放送され、人気番組のひとつとなっていた。
そしてありとあらゆるプロパガンダに利用される。
いまやヒーローは政治的に重要な存在になっていたのである。
緑色を除いては……ではあるが。
グリーンはとある一族から選出されることになっていた。
緑一族。
ヒーローやその家族知人を守り。安心して戦うことができるように警備や裏の仕事全般を請け負う。
ヒーローの変身中の安全を守るため他のメンバーのポージング中にカメラの撮影範囲外で戦闘員と死闘を繰り広げ、必殺技の決めポージング中に怪人を足止めし、他のメンバーやその家族、知人への誘拐や暗殺を防ぐために闇から闇へ敵を葬り去る。
レイティングに気を使い子供が見ても大丈夫なように演出された戦いを作り出すという歪んだ任務を成功に導く影の集団である。
今期のグリーン。
緑真は表向きは工業高校の電気科に所属する学生である。
ヒーロー専門紙ですら最初からいないかのように扱う、さえない彼の真の姿は公安調査庁に所属する緑一族の工作員だった。
そんな彼が機体を乗っとって要塞に突っ込んでいく理由。
それは他のメンバーの命を守るため。
そう、普通の方法では要塞を止めることができないと判断し、自爆特攻を覚悟したからである。
ロボとともに宇宙に出た真。
そこには夜空にきらめく星が浮かぶ空間があった。
モニターに青い地球が見える。
地球を見るのも最後だろう。
そう真は思った。
仲間たちの顔が頭によぎった。
まるで家族のように接してくれた仲間たち。
家族のいない真に生まれて初めてできた大切な存在。
彼らを死なせるわけにはいかない。
そのために犠牲になれる。
真は少しだけ嬉しくなった。
残された友人たちが傷つくなんて考えもせずに。
真はモニターに映し出された数字を見る。
まだ目標との距離は遠かった。
真はワープ航法を使う準備をする。
ワープ航法。
一般へ開放されていないテクノロジー。
それどころか、一般も政府も軍も研究所も所有していない。
それをなぜか緑の一族だけが所有している。
戦隊の装備品のスーツや武器、ロボなどの中核の技術。
それは、緑の一族の門外秘であった。
そのいくつかは一般に提供されたが、同じものは誰にも作れなかった。
真はワープ航法のパラメーターを入力。
決定ボタンを押した。
光が見え、コックピット内のすべての物体の輪郭がぶれる。
一瞬振動が起こったような気がした。
次の瞬間、先ほどの場所とは違うところにいた。
ワープは成功した。
真はモニターで要塞の近くにいることを確認。
そのまま、推進装置を最大にして突っ込んでいった。
「警告! 警告 ! ロックオンされました」
警告を伝える音声と警報が鳴り響く。
ロックオンされた多数のミサイルがロボに向けて発射された。
真はミサイルの存在をを無視して突っ込む。
真は知っていた。
このロボが相手の要塞を何百年も上回るテクノロジーで作られていると。
なんの訓練も受けてない学生が、いきなり戦場に送り出されても死なないようにできていると。
圧倒的な戦力で無駄な動きをしながら民衆が安心して見ていられるようになっていると。
爆風に包まれるロボ。
無駄だった。
ロボは無傷だった。
真はそのままの勢いで突っ込んでいく。
要塞の姿がモニターに映し出された。
「警告! 警告! ロックオンされました」
警報は鳴り止まない。
主砲が発射されたのが目視で確認できた。
目視で確認できるほどに大きな光線が見えた。
それは真が予想したよりも強力な攻撃だった。