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赤口の回想1

真が死んで二年後。

特撮戦隊のレッドこと赤口陽介しゃっこうようすけはヒーロー活動による年齢の特例措置により最終決戦直後の参議院選に出馬し当選、参議院議員となっていた。

メディア受けする若手政治家としての多忙な生活。

そんな赤口は懐かしいあの日々の出来事を思い出していた

にがくて苦しくて悲しい。だけど、幸せな思い出を。



真のエロ物件騒動があったすぐ後のある日、赤口は桃井に基地の中に呼び出された。

その日の桃井は様子がおかしかった。


「どうしたんだい……桃井……さん……?」


「話が……あるんです」


顔の表情は暗い。だが、その目には力がこもっていた。


「……なんだい?」


赤口はいままでそんな目で見られたことがなかった。

同級生や大人たちの誰もが赤口を褒め称えてきた。

愛の告白だろうか?

予定では戦いの中盤のはずだ。

最初からイチャイチャするというシナリオに変更になったのだろうか?


だがおかしい、今まで出会った女性は誰もそんな目をしていなかった。


「私……あなたのことが嫌いなんです…… そういう設定だとしても…もう、耐えられないんです……お願いです。 もう私を解放してください!」


衝撃の告白。

あくまで赤口の中でだが。

赤口の中で何かが壊れる音がした。


「なぜだ! なぜなんだ! 君は僕の婚約者だろ!」


肩を掴む。

心の底から嫌いな男に肩を掴まれて、虫が這った様な嫌悪感に桃井は包まれる。


「なぜだ! なぜだ! なぜだ! なぜだ! なぜだ! なぜだ!なぜだ! なぜだ! なぜだ! なぜだ! なぜだ! なぜだ! なぜだ! なぜだ! なぜだ! なぜだッ!」


揺さぶる。


「は、離してください!」


拒絶。


赤口にとっては初めてのことだった。

人からの拒絶。

尊敬されるのが当然、愛されるのが当然、それが赤口の人生だったのだ。

赤口には信じられなかった。そんなことはあってはならないのだ。


「……私は! 私は、あなたの自分しか見てないところが昔から嫌いなんです!」


「そんなことはない! 俺は常に正しいことを言っているだけだ!」


「貴方は、ただ正しいだけなのよ!」


意味がわからない。目の前の女の言っていることが何一つわからない。

昔から嫌い? それはあり得ない。 目の前の女は自分のもののはずだ。

自分の所有物のはずなのだ。


「貴方は、私の趣味すら知らない!」


「歌だろ!なにを言ってるんだ!」


「それはあくまで設定! そうじゃないの! 本当の私は別なの! でも、貴方は絶対に本当の私を許さない! あなたは絶対に私を見ようとしない! この間のあの小説! あれは私のです!」


「なんで今更グリーンを庇うんだ! 君があんなものを好きなはずがない! 君にはアレの意味がわからないだろ!」


「……やっぱり貴方はわかってない……私はああいうのが好きなんです! 内容を知らないのは真ちゃんのほうなんです! もう自分をいい子でいるのは嫌なんです! ……誰かの言うとおりに……優等生じゃなくても認めてくれる人がいるってわかったんです!」


わけがわからない。

赤口には目の前の女が化け物のように感じられた。

困惑。そして急に腹が立ってきた。

なぜ自分が拒絶されなければならない?

なぜこんな女にこんなにも心をかき乱され泣るのだ!

こんな状態は許せない!

そして赤口は男として最低の行動に出る。


「黙って俺の言うとおりにしろ!」


怒りで混乱した赤口は手を振り上げる。


――殴られる。


桃井は身構える。だが、


「そこまで」


レッドは不意に襟を捕まえられる。

そのことに気づくや否や、赤口は振り向きざまに何者かに殴りかかる。

設定上、一番優秀なもの。それがレッド。当然戦闘力でもずば抜けていた。

だが、今は相手が悪かった。

フワッとした浮遊感。

気がついたときには赤口の身体は地面に叩きつけられていた。


「がはッ!」


肺から空気が漏れる。

自分を上から覗き込むものがいる。

真だ。いつものように無表情。無感動。

それが癇に障る。


「き、貴様ぁッ!」


飛び起きた赤口は真の胸倉を掴み手を振りかぶる。

そしてそのまま一気に拳を真めがけて突き出す。


真は避けようともしない。

そんな無抵抗の真に対して拳を振りぬく。


「あああああああああ!」


叫びながら何度も何度も何度も殴る。

ゴツッ!ゴツッ!ゴツッ!という音が赤口の中に響く。

何度殴っても、何度殴っても、真は避けようともせず防御すらしない。

それが責められているように感じられ余計に気に入らない。

興奮のあまり殴った拳の痛みすら感じられなくなる。


「きゃああああああああッ!」


桃井の悲鳴。

激昂して無抵抗の真を殴り続ける赤口。


「俺はレッドだ! わかってるのか! 俺が一番偉いんだ! みんな俺の言うことを聞いていればいいんだ! クソッ! クソッ! クソッ!」


叫びながら殴る。興奮は収まらない。

避けようともしないその無抵抗な態度が余計に怒りを生む。


「馬鹿にしてるのか! やり返せえええええ!」


叫ぶ。

渾身の右フック。


ハンゲキ シテ イイ ノ カ?


そう聞かれたように感じた。

その瞬間、天敵に見つけられた小動物になったかのような絶望的な不安感が襲う。

真は半歩だけ赤口の懐に入り、赤口の拳が向かう方向についていくように転回する。

それと同時に殴りかかった来た拳側の腕を掴み、赤口の首に腕を巻きつけ、その転回に巻き込む。

殴った勢いのまま、バランスを崩されそのまま投げる。

気がついたときには赤口は地面に叩きつけられていた。


――ああ、さっきもこうやって投げられたのか……


謎の不安感のせいか急に冷静になった赤口は理解した。

完全に手加減されている。

自分の拳は避ける必要もなかったのだと。


「頭、冷えましたか?」


顔は腫れているが、相変わらずの無表情。


「ああ、冷えたよ……」


「ま、真ちゃん。 大丈夫……わたし、私……うわああああああん」


桃井が真に駆け寄る。

そして真にしがみついて泣き出す。


「うん師匠……じゃなくて基地の中だからピンク! 大丈夫っス!」


桃井の頭をなでて落ち着かせようする真。

子供のような笑顔。

そのとき、赤口は理解した。

真を心配して桃井は涙を流している。

桃井が真を見るその眼差し。


――ああ、そうなのか……俺が……馬鹿だったのか


生まれてはじめての敗北感。

文句のつけようのない完全な敗北。

それが苦い苦い思い出の始まり。

だが、それが幸せな日々の始まりだったのだ。

今なら理解できる。

あれがなければ自分は……

最初、入り身投げにしようかなと思ったんですけど解釈の違いが結構あるので変則首投げに。


他の投げ技だと、私の実体験だと、

四方投げ → ひじ脱臼

小手返し → 手首脱臼

合気落とし → 頭打って気絶

腰投げ → 頚椎ヘルニア

三教 → 袴踏んでこけて指骨折

全てオーバーキルなのでやめました。

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