桃井4
懐かしい思い出を思い出しながら、桃井は目覚めた。
天井。
ひたすら真の名前が書かれた白い壁。
真の名前を書いていたら寝てしまったらしい。
やることなど何もない。
ただ薬を飲んで寝ているだけだ。
生きながらにして死んでいる生活。
だが、死ぬわけにはいかない。
真の死体は見つかっていない。真は絶対に生きているはずだ。
涙が流れてくる。
喪失感。
後悔してもしきれない。
涙を流しながらベッドに横になっていると、外から何かの音が聞こえた。
カツンッ……カツンッ……カツンッ……
足音。看護士だろうか?
ガチャガチャと鍵を開ける音がする。
そして扉が開く。
桃井は入ってきた人物を眺めていた。
看護士ではなかった。
就職活動中の大学生のようなスーツを着た女性。
それなのに抜き身の刀のような鋭さを持つ美形の女性。
「父オージンの命により貴方を迎えに来まちた」
――うん。残念な人だ。
「か、噛んでませんからね! 私はブリュンヒルデ。 勝利と復讐そしてヤンデレを司るもの」
――うん。やっぱり残念な人だ。確信した。
「あなた! 私のこと残念な人って思ってますね!」
ブリュンヒルデ。オージンの娘にして北欧神話最狂の地雷女。
ニーベルンゲンの指輪において妹の息子のジークフリート(シグルス)を胎児の頃からストーカーし、記憶喪失になったジークフリードが八百長で別の男と結婚させたことを恨み、背景を調べもせずに思い込みで暗殺し、真相を知って後を追う。
ジークフリートを殺したものを兄であっても手段を選ばず破滅させていくクリームヒルトと双璧をなす残念なヤンデレ。
基本的に二人とも人の話を聞かない。
「で、そのヤンデレ残念な人が何の用ですか?」
「少しはオブラートに包みなさい! だからオージンパパの命により貴方を迎えに来たの! すぐに出ますよ!」
「はあ……私出られませんよ。……ここから」
桃井が監禁されている病院。
任期が切れたとはいえ戦隊のピンク。
生半可な警備ではない。
それに出たいとも思ったことはない。
「大丈夫ですよ。全ての人に『眠って』もらいました」
黒い笑みがこぼれる。そしてその笑顔のまま桃井に質問を投げかける。
「真君に会いたくないですか?」
生気のないぼんやりとした表情だった桃井の瞳の奥に光が宿った。
「真ちゃん! 真ちゃんは生きてるの!?」
「ええ無事ですよ。 今、一番下の妹と一緒にいます」
桃井の目が一気に曇る。
レイプ目。
「妹? いもうと? 真ちゃんの好物……真ちゃんの守備範囲は……いやでも好物……こうぶつ……真ちゃんの貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操が貞操がああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「大丈夫ですよ。妹一歳ですし」
「本当」
異常なほど晴れ晴れとした表情になり目を輝かせる。
「見た目はミドルティーンくらいですけど」
「だりゃあああああああああああッ! 今すぐ連れてけ! 今すぐだあああああああああぁぁぁぁぁッ!泥棒猫を裁かないと裁かないと裁かない裁かないと殺す殺す殺すころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」
「連れて行ってあげます。もちろん真君の貞操も保障します。ただしこちらの要求を呑んでくれたら……ですが」
楽しそうに黒く笑いながら条件を告げる。
この日、桃井は病院から消える。
そして……




