桃井2
真との出会い。
それはあの一年より少し前、メンバーの顔合わせをし、初回の打ち合わせをしたときのことだった。
当時、真は表情のない半ば世界に溶けているかのような存在感のない少年だった。
当時、中学生だった桃井はこの少年が不気味に感じられた。
態度自体はへらへらとしているのだが、とにかく印象に残らない。
だが、へらへらとした彼の目の奥底には底知れない闇がある。
それが恐ろしく仕方なかった。
そしてその恐怖はあの出来事で覆る。
それは桃井が高校進学をせずに戦隊のピンクとしてアイドルとして活動をさせられ始めた頃だった。
桃井には人に言えない趣味があった。
エロゲ。それも鬼畜モノ。それとSM小説。
最初にやってみたときは嫌悪感が心を支配した。
だが、いままで見てきたどんなストーリーとも違った。
サド、O譲の物語、鬼六先生……
女性が堕ちて行く物語。支配と服従。
一見支配されたように見えるが、女こそが真の支配者。
今ではこれは究極の愛ではないだろうかとすら感じる。
桃井はどんどんその世界にはまっていった。
そして、あの日がやってくる。
「んー? これ何……って誰のよ! こ、こんな! 汚らわしい!」
イエローこと黄生桜が叫び声をあげる。
桃井は家に送れないハードコアな物件を通販で倉庫に送っていた。
それを見られてしまったのだ。
死刑宣告がそこに迫っていることを桃井は理解した。
桃井が頭を抱える。
心臓が高鳴り、なぜか気持ちが悪くなってくる。
罪悪感はない。それが自分だ。
だが、それを暴かれるのは嫌だ。
その時だった。
「あ、それ俺の。 えへへへー」
へらへらと笑いながら真が言う。
「なんなのあんた!こんな気持ち悪いもの持ってきて! 恥ずかしくないの!」
「そうだ! グリーン! 君は恥ずかしくないのか!」
レッドまで一緒に怒る。
桃井の中に嫌悪感が広がる。
レッドは昔からそういうところがあった。
正義感は強い。
行っていることも常に正論だ。
常にだ。
だが、相手の立場になって考えることができない。
融通も利かない。ただただ正しいだけなのだ。
そんな自分の非も認めない。
桃井の内面を知ったら怒るだろう。
怒ってやめさせるだろう。
どんな努力でもするだろう。
自分の都合のいいようにするために。
この男は自分など最初から見ようともしてないのだ。
彼からは逃げられない。
こんな男のヒロインにされてしまった。
いつかは全ての趣味を終わりにしなければならない。
黄生とレッドに怒られる真。困ったように頭をポリポリとかく。
「これはセクハラなのよ! あなたわかってるの?」
別に人様に見せようと思ったわけではない。
人様に見られないようにしたかっただけだ。
なぜこの人は人のプライベートを暴いて公然と裁くのだろう。
「さーせん……」
真は下を向いてとりあえず謝罪する。傍から見てもそこに心は込められていなかった。
その態度にイライラを募らせた黄生は真の頬に平手を打ちつける。
「桜ちゃんやめて!」
桃井は黄生にしがみつく。
真は自分の代わりに汚名を着て、さらには殴られているのだ。
真犯人は自分なのだ。
「なんでこんなヤツをかばうのよ!」
「お願い……おねがいだよぉ……」
涙を流す。理由は説明できない。
そんな桃井を見て黄生は怒りを飲み込む。
「……桃ちゃんに免じて今回だけは許してやるわ! 次やったら殺すよ!」
「グリーン。君もちゃんと反省しなよ。」
――この男ぉッ! どこまでいい子ぶるんだ!
桃井は黄生の尻馬に乗っていい子ぶるレッドを見て一気に苛立つ。
彼らのお説教を聞きながら真はへらへらと笑いながら頭をかいていた。
「桃ちゃん!こんなヤツ放っておいて行くよ!」
桃井は黄生に連れて行かれた。感謝の意すら伝えられずに。
レッドは桃井が言うほどは悪い人間じゃないです。




