はじめてのせんとう いせかいへん (血まみれ)
「ぐぁあああああああッ!ああああああああッ!アアアアアアアッ!」
最初に倒した男が絶叫し体が不自然に盛り上がる。
毛が生え、牙が伸びる。
ステロイドの過剰摂取どころではない身長三メートルの筋肉ダルマ。
頭部は凶悪な表情をした豚。もしくは猪。
「ありゃま……凄いのきましたね……」
麗亜がつぶやく。
そんな空気を完全に無視して豚が喚く。
「人間ごときがよくも! よくも! 舐めたまねをしてくれたなぁッ!」
そう言いながら、倒れている仲間の一人に手を伸ばす。
男は腿を切られていたせいでアッサリとつかまる。
「ひいッ!兄貴ぃ!な、何をッ!」
大きな口を開け頭に食らいつく。
バリバリッという音を上げながら男の頭は噛み砕かた。
怪物は男の身体を持って引っ張る。ぶちぶちぶちッと音がし。
男は頭を失っていた。
何度か咀嚼して怪物は何かを吐き出す。
血まみれの髪の毛と骨が地面に落ちた。
真は嫌悪感を隠そうともせずに問いかける。
「……おい。 豚ぁ。 なんで仲間殺した?」
「仲間ぁ? 餌に何言ってんだ? ああーッ?」
真は押し黙る。怒りを抱えながら。
女を傷つけるヤツは気に入らない。
仲間を殺すヤツだけは絶対に許さない。
「恐ろしいかぁ! 怖いかあ! 泣き叫びながら命乞いをしろォッ!」
そう言いながら、頭のなくなった男を振りかぶった。
怪物が投げつけようとしたとき、確かに真はそこにいた。
だが、実際に投げつけるために振りかぶった瞬間、真はそこから消えていた。
怪物が男を放り投げた瞬間、真は怪物の足元まで迫っていた。
「ちょこまか逃げてねえでさっさと死ねぇッ!」
怪物は殴りかかる。
その拳は迫力のあまり巨大に見え、相手の心を絶望感で塗りつぶしただろう。
……普通の人間相手ならば。
半歩だけ相手の内側に移動、マシェットで横から拳を撃ちつけそらす。
パリング。
そのままマシェットを返し腹に目掛けて横薙ぎする。
血しぶき。
腹から何かがずるりと落ちた。慌てて腹を押さえる。
怪物の腹から落ちたものそれは怪物自身の臓物だった。
怪物は自分の腹から流れ落ちる臓物を不思議そうに眺めていた。
真は返す勢いで足を削ぐ。腹を押さえながら崩れ落ちる怪物。
そのとき怪物は見た。
ゴミを見るような無感動な目つきで自分を見る子供。
その瞳の奥。
そこに喜怒哀楽のそのどれでもないものが見えた。
いや、何もなかった。
無。
あれは人間なのか? あんなものと戦ってしまったのか。今更後悔する。
嫌だ! あんなものに殺されるのだけは嫌だ。
無が迫ってくる。
恐怖のあまり声すらだせない。
自己という存在が世界に飲み込まれて消えるような感覚。
怪物は絶望に包まれた。
「仲間に謝って来い」
冷たい眼差しをしてそう呟いた真は、そのまま当たり前のように自然な動きで刃を横にして胸を突く。
そして刺さった刃を回してそのままえぐる。
怪物が顔をゆがめた瞬間。
怪物からマシェットを抜き、刃を頭の上で回し、そのまま首を横薙ぎ。
喉から鮮血がほとばしる。
心臓を抉られ、喉を裂かれ、叫び声をあげることもできずに怪物は絶命した。
「仲間殺してんじゃねえよ……クソが!」
無表情のまま毒づき、傘を振るようにマシェットを振る。
血振り。居合道などで行われる刀についた血を払う動作。
真の学ランは赤黒い血に染まっていた。




