天国
目が覚めた。僕は全く知らない所にいる。そこは、白くて四角い部屋があるだけで、椅子も、机も、何もないただの部屋だった。
少しでも状況を把握しようと辺りを見回すと、そこに一人の男がいることに気が付いた。年は20前後くらいだろうか。好青年といった印象を受ける。他に出来ることもないので、彼に話を聞くことにした。
「あの、すみません。」
「何でしょうか?もしかして、ここがどこだなんて聞いたりしませんよね?」と、笑いながら青年が言う。部屋の雰囲気と全く合ってない。それにしても、何故僕の考えてることが分かったのだろうか…
「あ、いえその…まあ、そうなんですが…」
「ああ、やっぱりそうでしたか。同じ事を説明しすぎて飽きてしまったので、出来れば説明したくないんです。」
「はあ、そうですか。すみません。」
「仕事だからちゃんと説明させて頂きますね。簡潔に説明させて頂くと、ここは死後の振り分けをする受付です。」
「じゃあ、あなたはここで何をしているのですか?」
分かり切っている質問を敢えてしてみることにした。
「受付嬢のような物をさせて頂いております。まあ、男ですが。」と、はにかみながら青年は言う。ここが死後の世界とは思えないくらいだ。
「そうなると、僕は今死んだんですよね。迎えはいつくるんですか?」
「待ってればすぐ来ますよ。それにしても、死んだっていうのにやけにさっぱりしてるんですね。」
「毎日が退屈であまり生きているのも楽しくなかったものですから。とはいえ、自分から命を投げ出す訳にもいきませんから。」
「そうですか。本人がそう思ってるなら僕はそれでいいと思いますよ。」
やはり、この場には似つかわしくない調子で彼は、どこかへ行ってしまった。
どれくらい、待ったのだろうか。何しろ時計はおろか窓すらない部屋にいると時間の感覚がおかしくなって当然だ。
時計を探して部屋を見回すと部屋の隅の方に、黒いコートを着た子供が立っている。見るからに根暗な感じで関わりたくない。
その子供をずっと見ていても仕方がないので、視線を他の場所に移すと、そこには白い服を着た青年が立っていた。受付嬢の彼よりも真面目な感じのする青年だ。
その青年が近づいてくる。何か言っているようだ。しかし、声が小さくて、全く聞き取れない。これが迎えなのだろうか。
「やあ、君を迎えに来たよ。早速行こうか。」
私の予想は間違っていなかった。やはり、彼が迎えのようだ。
「あなたに着いていけば良いのですか?」
「はい、そうですよ。」
そう、良いながら彼が歩き出す。先ほどまではなかった、扉がそこにはあった。
「ああ、またか。あの人もついて行っちゃったよ。なあ、次は天国に行けるかな?」
と、黒いコートを着た子供に受付が話しかける。
「さあ、どうだろうね。さっきの彼もダメだったしね。しかも、あっさりと。」
「本当は死にたくないと願うだけでいいんだけどな。そうすれば、天使に連れて行ってもらえるのにさ。」
「僕はずっと待ってたさ。ただ、勝手に彼が死に神について行っただけのことだろう…。」
それからも彼らは軽い調子で談笑をしていた。その部屋には似つかわしくない調子で。
何かを手に入れるというのは自分から望んで欲した人にしか与えられないのだろう。だからこそ、彼は地獄に行ってしまったのだ…