氷結の黒薔薇 FINAL EXTRA〜それぞれのミライ〜
氷結の黒薔薇を最後まで読んでくださった皆さんへの、感謝の1話です。
〈アンファンス・ピリオド005年 6月12日 アルトリア宮殿〉
「アイちゃーん!22歳のお誕生日、おめでとうっ!!」
「「「「「「おめでとーー!!」」」」」」
新たなアルトリア皇帝となったエルシアのコールに続いて、反逆に関わった者たちが祝福する。
俺はソウジ。かつて反逆者ゲートとして世界を塗り替え、今は世界中の悪意の芽を摘み続けている男だ。
「アイが22歳か。初めて会ったときはええと、たしか……」
「12のときよ。もう10年間の付き合いでしょ!?」
今日の主役、アイが呆れた顔で指摘する。
この5年で、パープルグレーのショートドレスがよく似合う超絶美人に成長したこの人。どの国へ行っても人を釘付けにするんだ、一緒に歩くこっちはモヤモヤしてるぜ。
「それはともかく……本当にありがとう、みんな。私の誕生日を盛大に祝ってくれて」
アイがハンカチを片手に顔を隠す。
「私っ、生まれてきて、よかったって……!」
「アイ……」
「ううっ……!お姉ちゃんにつられて、私も涙がっ……!」
高校生になったソニアが、感極まった表情でうなずき続ける。
「グスッ……」
やべっ、俺もなんだか……
「よかったって……じゃあこれからも、”氷結の黒薔薇”アイちゃんをよろしくねーッ★」
……無邪気アイの一言で、涙は引っ込んだ。
「お前なぁ……!」
黒薔薇の形をした眼帯のズレを戻しつつ、俺は今日の幹事2人に声をかけた。
「ところでメビウス、そしてエルシア陛下。事後処理お疲れ様。皇帝、騎士として大変だっただろ?」
さらに洗練された佇まいとなったメビウスが、爽やかに笑う。
「ハハハ。労いどうも、相棒。姉様のサポートをしつつ、アルトリア帝国と傀儡だった各国との交渉を図ったり……”アンファンス・ピリオド”って暦も、もっといい名を考えられただろうに」
そんなメビウスを見て、エルシアがクスッと笑う。
「メビウスには助けてもらってばかりだったなぁー。ロイモンド校長先生のコネと信頼もあってこそだし。この5年で、少なくともアルトリア帝国の治安と格差は、当時の8割改善したからやりがいはあったよ」
髪を下ろしたことで、かつてのレクエリアムを彷彿とさせる姿。
だが、人柄の良さがその違いを可視化させている。
「待っていましたわ。ソ・ウ・ジ……♡」
「久しぶりだ、反逆者!」
謎のオーラを感じて振り向くと、ルシファーと蘭が不思議な笑みでこちらを見ていた。
ルシファーは俺と目が合うなり、ネクタイを引っ張り始めた。
「やっとあなたと同棲できたと思ったら!仕事を理由にアイと……!裏切り者――と言いたいところですね」
「っ!!ストッ――!わ、悪い……」
「浮気者の鼻、折ってあげようか?アハハ!」
オマケに蘭もそれに乗っかってきた。
補足しておく。俺はルシファーとした約束を守るため、5年前彼女と同棲を始めた。ただ、蘭もルシファーが面倒を見るということで、3人同じ屋根の下……なんて、羨ましい……はずの生活を送っていた。
「しゅ、週2日間だけしか世界を回らないから、鼻はやめて……!」
「みんな、立派になったなあ」
テーブルの端ではワインに舌鼓を打つ、ロイモンド校長の穏やかな姿が。
俺たち反逆チームは無事に王都総合学園を卒業し、ソニアもあと2年したら経営大学に進学する予定だ。
校長も、ソニアの卒業を見届けて定年退職するらしい。
そんなこんなでパーティは進み、閉幕となった後。
俺はあらかじめ購入しておいた花束を抱え、宮殿近くの霊園に向かっていた。
「3人にも報告しておかないとな。世界はより良くなりつつあるって――」
ランドフェイト家の墓の前に膝を下ろし、花束を供える。
人望の厚かった彼女のことだ。手入れしてくれる人たちの温もりを感じる。
「――マナ、俺はこれからも世界を変え続けるよ。迎えに来た時、最高の報告ができるように……」
一瞬、マナの声が聞こえたような気がした。
いや、聞こえたんだよ。確かに……。
そして……俺はアルトリア皇族の墓の前に立った。
マナの墓とは対照的に、これまでの悪事に対するツケと言わんばかりに、汚れや枯れた花が突き刺さっていた。
(メビウスたちも忙しくて、手が行き届いていなかったのか……)
汚れを拭き、花瓶の水を替える。そして2つの花瓶のうち、左には黒薔薇を、右には青薔薇を添えた。
「レクエリアム、ブレイド……。お前たちは今、どうしてる……?アイナローズと、再会できたか……?」
途中、通り雨に降られる中でも、俺は今の世界を報告し続けた。
「……世界が忘れても、俺は忘れない」
「ただの暴君じゃない。レクエリアムは妹想いの優しい人だってことを」
「そして……俺たちは世界に、氷結の黒薔薇を咲かせ続けていくことを」
――終わり
今まで、本当にありがとうございました。
氷結の黒薔薇を、ゲートたちの反逆を、どうか忘れないでいただけると嬉しい限りです。




