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カラオケ休憩がある会社。

作者: ほな
掲載日:2026/02/27

 普通、喫煙者はタバコ休憩だのと言って仕事の途中に席を抜けて、休みをとる人が多い。

「あー頭回らん。ちょい行ってくるわー」

 あの人もまた、タバコ休憩の為に席を立つ。

「とても不公平だと思わないか?こっちは休まずに仕事してんのに、いや仕事はせんとも、頑張ってモニターと睨めっこしてるだけだけど!タバコを吸うって理由だけであんな堂々と休憩をとっても許されるということが!」

 それを見て、うちの部長さんはちょっとぷんぷんしていた。気に入らないのだろう。

 それが普通だから仕方ないのだろうのに。正直私にはどうでもいいけど。

 休みたいなら休めばいいのでは。

 でも、確かに隣の人が休むとこっちも休みたくなるのは仕方がないようだ。

 タバコ休憩が始まって早々、私を含めた数人かが椅子に背を垂らして、ぼんやりとし始めた。

「これはよくない!こんな腐った環境は帰るべきなんだよ」

 熱く語る部長さんはほっといて、今日分のタバコ休憩を楽しむ私だった。

「変えてやる。こんな会社、変えてやる!」

 タバコは吸わないけどね私。



 いつもの事で、当たり前だと思っていた事が本当は当たり前じゃない事ってよくある事だ。

「……まじで言ってる?」

 ある日の会社の掲示板にはこういうのが書かれていた。『カラオケ休憩の導入』と。

 読んでみるとタバコを吸うのに仕事時間に認められるのは不公平で、喫煙者だけが得をするとか。非喫煙者の中にもタバコを吸わないのにタバコ休憩のつもりで会社を抜け出すとか。

 不公平極まりない事なので、非喫煙者にも何かのアドバンテージがあるのが公平だという事で。

 社内にカラオケブースを作ったからカラオケ休憩でも行ってこいとの事。

 タバコ休憩と同じ扱いをしてくれるらしい。

 とうのタバコ休憩を仕事扱いしてくれるかは書いてないけど、今までの事からすると多分仕事の延長線上にあると見る事なのだろうか。

「…やばっ」

 さっきからほのかに歌声が聞こえると思えば、早速カラオケで休憩をとっていた部長さんの声だった。こんな朝っぱらから?

 でも、吸う人も朝に一服とか言って外で吸ってくるな。じゃあこれもありなのか?

 よく、わからない。本当にわからない……

 うちの会社、やばくない?


「うぉおおー!とても仕事が進む気がするぞー!」

「うるさい……」

 カラオケ休憩を行ってきた部長さんはとても上機嫌に、ちょっと掠れた声で挨拶をしてきた。

 部長くらいになると、こうやってカラオケ休憩って言うありえんものも作れるのだろうか。出来なさそうだけど。

 ぶっちゃけカラオケは休みでは?

 でも喫煙もまた休みか。

 もうよくわからないことになってきた。どっちもOK?どっちもだめ?

「霧島さん?なんか悩みがありそうだね!カラオケでストレス発散してきたらどうだい?俺はさっき行ってめちゃくちゃ叫んできたよ!」

 なんだか、アメリカの人が日本語をやってる感じになった。カラオケでここまで変わるの…?

「いえ…大丈夫ですよ」

「いやいや。その声は完全に駄目だな。早くカラオケで声帯をパカッと開いて来なさい!」

「ぁー………はい」

「さぁさぁこっちだよ?歌があなたを呼んでいる!」

 仕方なく、部長さんによって強引にカラオケブースへと引きずり込まれる私だった。

 めんど……って言うのは駄目か。

 私の為に言ってくれたのだろう多分。落ち込んでると思われたのかも知れない。

 そんな事はないけど、まぁ。

「ふぅー…」

 一人用のカラオケブースに入って、そのまま座る。幸い中を見るのが難しい形になっていて、別に歌わなくてもバレないだろう。

 こんな朝っぱらから歌なんてやってられるか。

「霧島さーん?歌声が聞こえないよー?もっと叫ぶぞ!ぅわー!!」

「うるさ…」

 なんでこんなに声が通るのよ。さっきカラオケで叫んでたんじゃないの?喉どうなってるの。

「歌わないのならば、それなりの覚悟は出来てるって事なんだよね?」

 なんで私にこんな事をするのだ。なんで私がこんことをされなきゃ…これはいじめじだ。

「うわわ、なに入ってくるんですか!」

「歌わないからね、機材トラブルなのかと思って」

「違いますよ!歌いますから、一人にさせてください。そっちが落ち着くから…」

「そうかそうか。それは悪かったな。じゃあ、楽しんでくれ。帰って来たら、大声で報告するんだよ?お歌の時みたいに、大きくな」

「はいはい…」

 まじでめんどい……会社では仕事だけしたらいいじゃん。なんで休憩も押し付けるの?休憩は自分がちゃんと雰囲気を見てとるもんじゃなかったの?

「はぁぁ…」

 いいやもう。歌うか……


「ただいま…」

「なんか、声……大丈夫?」

「わはは…歌ってみたらつい、調子に乗ってて……」

 すごい事になっちゃった。

 気づけば一時間くらいカラオケブースに引っ込んで歌うばかり。喉が裂けても叫ぶと言う、とても野蛮な歌い方…

 ストレス発散は出来たけど、それ以上に…

「疲れた……」

 なんだか、カロリーの消費がすごい。カラオケってこんなに大変だったのか。

「おぉ、霧島さん!楽しんでいただいたみたいでなによりだ。実はあれ、うちにあったのを持ってきたものでね」

「ほぇー…」

 お家であんなのがあるんだ…部長だからお金もそれなりに稼ぐのかな……

 あんなカラオケブース、高いんだろうな。

「んで、どうだったかな?初めてのカラオケ休憩をした人として、アリと思うかい?」

「へ?まぁ、アリなんじゃないですか」

 お家に一つくらいいたらいいんじゃないかな。カラオケに行く必要となくなるし。

「うむうむ。そうかそうか。君みたいな人が言ってくれたんだから、きっと許されるに違いないだろう。社長もきっと喜んでくれるはず」

 社長も喜ぶ?許される?

「ちなみにだけどね、カラオケ休憩はまだ社長も知らない、うちの部だけの文化でね。あまり、ほかの部の知り合いには言わないでくれ」

 それ大丈夫…?

「言われたらクビだからな。ま、クビにしたいなら仕方ないけど」

「言えませんよ…」

 やべー会社だな…いや、うちの部がおかしいのか?いやいや、うちの部長さんがおかしい極まりなだけだ。きっと、そう。

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