「ズレてるから、生まれるもの」②
舞台:夜の屋上テラス。雨上がりの街を見下ろしながら、四人は缶コーヒー片手に語り合う。
夏美(空を見上げて):「でもさー、善と悪とか、男と女とか…なんで私たちって、何でも“分けて”考えたがるんだろうね?」
ちさと(軽く伸びながら):「それが“わかりやすい”からでしょ? 白か黒かってハッキリしてれば安心するし。でも、現実って、だいたいグレーじゃない?」
ひとり(蚊の鳴くような声で):「じ、実は…“二項対立”って、ずっと西洋哲学が使ってきた構造で…デリダはそれを…こう…“壊す”っていうか、“揺らす”というか…」
圭介(缶コーヒー片手に):「“壊す”じゃなくて“解体”だな。デリダの“脱構築”は、単に二項対立を逆転するんじゃない。“善と悪”は互いを必要とする存在で、その境界線がじつは曖昧だって示すんだ」
ひとり(目を伏せながら):「“善”は、“悪”がなきゃ定義できない…。でも、その“善”って言葉で思ってることと、実際の感情には“ズレ”があって……」
ちさと(ひとりの肩をポンと叩いて):「その“ズレ”が“差延”ってやつでしょ? それがあるから、完全な意味の固定なんてできない…って」
夏美:「つまりさ。“善”が“正しい”って決めつけた瞬間に、“悪”が切り捨てられる。けど、実はその“悪”がなきゃ“善”の意味すら成り立たない…ってこと?」
圭介:「そのとおり。しかも、言葉で定義しようとした時点で“ズレ”が生じる。『善』という言葉は、もはや“本当の善”ではない。そこに“コピー”の限界がある」
ひとり(小声で早口):「わ、わたし、ステージで“演奏”しても…音が思った通りにならなくて…ズレてばっかで…でも、それって…意味がないわけじゃなくて…むしろ、そこから何かが…」
ちさと(にっこり笑って):「そうそう! ひとりちゃんの“音のズレ”があるからこそ、あの曲はあんなに“生きてる”んだよ」
夏美(腕を組んで):「正義の反対は悪、じゃなくて、たぶん“別の正義”ってやつね」
圭介:「そうやって揺らぐことで、新しい意味や関係性が見えてくる。境界線を曖昧にすることが、“考える”ってことなんだろうな」
ひとり(ぼそっ):「…ズレてる自分にも、意味があるかも…しれない、です…」
ナレーション(千束)
二項対立なんて、現実にはそう簡単に割り切れない。
「正しさ」と「間違い」なんて、時代や状況で変わるし、
本当の“意味”は、いつもその“ズレ”の中にあるのかもね。