この社会、正義って誰のもの?
〔場面:都内の古本喫茶。4人がコーヒー片手に“正義”について話している〕
千束「ねえねえ、“リベラリズム”と“コミュニタリアニズム”って、どっち派?」
夏美「えー? わたしは断然、みんなで助け合う派。なんか、“個人の自由が大事!”って言われてもさ、そんなに自由なら税金ゼロにしてほしいよ、まったく〜」
圭介(苦笑して)「そりゃ極端すぎる。でも夏美の言うのも分かる。税金って、“どこに消えるか分からない感”あるもんな。俺らみたいな零細にとってはさ。」
ひとり(小声でモゴモゴ)「あの……あの、それは“リバタリアニズム”……ノージックって人が……えっと、“最小国家”を……」
千束(即ツッコミ)「あー、それそれ! “国は手出すな”って考え方ね? でもそれだと、困ってる人はどうすんのって話になっちゃうじゃん?」
ひとり(目を伏せつつノートに書く)「そ、それに比べてロールズの“リベラリズム”は、“無知のヴェール”って……じ、自分がどんな環境に生まれるか知らないままで、公正な社会制度を考えよって……」
夏美「ちょっと待って、無知のヴェールってなに? なんか魔法っぽい!」
千束(笑って)「うん、魔法っぽいけど、実はめっちゃまじめ。たとえばさ、自分が貧乏人として生まれるかもしれないって前提なら、“生活保護”とか“教育のチャンス”とか、ちゃんと用意しとこって思うでしょ?」
圭介「でもな……そんな公平って、どこまで現実で通用すんのかね。人間ってさ、やっぱ“自分ファースト”だろ」
ひとり(少しだけ語気を強めて)「で、で、でも……サンデルは……それを“空虚な正義観”って……否定したんです……えっと、ひ、人間は……“共同体”から切り離せないって……」
夏美(目を丸くして)「え、じゃあ私が近所の商店街好きなのって、政治哲学的に正しいの?」
千束「そうそう! サンデル先生なら“その土地の伝統や文化の中にこそ正義がある”って言うと思うな〜。古い街並みを守るとか、夏祭りとかさ。」
圭介(真顔で)「つまり“街の正義”は“自由経済”の上に乗らないってことか。新しいビル立てて経済活性化ってだけじゃ、割り切れないよな。」
ひとり(ノートをぎゅっと握って)「あの……“共通善”って……コミュニティの中でしか育たないから……い、いわゆる“普遍的価値”は……存在しないって……」
千束「わたしはそういうの好きだなー。だって、“誰かの物語”に正義があるって、すごく人間的じゃない?」
〔静かな間〕
夏美「つまり、正義って“法律”とか“制度”じゃなくて、“うちらの物語”の中にあるってことか。」
圭介「……かもな。誰の目線に立つかで、正義って変わる。ロールズもノージックも、サンデルも、それを突き詰めてるんだろう。」
ひとり(少し笑って)「じ、自分がどこに属してるか、わからないとき……誰かと話すのが……正義を見つける第一歩なのかも……」
千束「じゃあ、今日の会話も立派な“政治”だったってことで!」