事故
それは蒸し暑い夜だった。
降り頻る雨はモアモアとした熱気を不必要に煽る。
「パーキングより本社へ戻ります‥どうぞ」
「了解。帰社後は点検実施して下さい」
定期連絡をして国道に入る。
雨の日は嫌いだ。
ただでさえ車の数が多いのに学生や老人といった徒歩組まで送り迎えでごった返す。
要は帰宅ラッシュに合わせて渋滞が発生しているのだ。どんなに仕事に慣れてもイライラする。
最近はシフトもキツイ。
「みんなア◯ゾンも楽◯も使いすぎだろ!」
暇すぎる車内で普段の愚痴をぶち撒ける。
最近ではウー◯ーイーツとか言う簡易配達も増えてきた。だがそんなのは我々運送業界の助けにはならない。
「身を削り‥しけた銭見て‥汗拭う‥瞼落ちれば‥次のシフトか‥」
訳の分からない短歌を呟く。
世間ではブルーカラーだのホワイトカラーだので結局はキツイ労働がしたくないだけだろう。
働けば分かるが背広組にも辛い事はある。
逆に土方や百姓にも楽しみはある。
皆それぞれが頑張って社会が回っているんだ。
「金と休みが少ないから誰も来ないんだよ。言わせんな恥ずかしい‥」
なかなか前が進まない事をいい事にボヤキが増える。
「やっとか‥あぁ〜戻ったら点検か〜ダリ〜‥」
ワイパーの速度を上げてトラックを前進させる。
田島義文・35歳の男。
独身で彼女なしはテンプレだ。
コンビニバイトや工場派遣などもしていたが、いつしか運送会社に勤めるようになった。
免許も取って早5年。
人と関わらない仕事が性に合っているが最近の悩みはやはり‥
「朝から晩までブーブ走らせてこれしか貰えんのか!もう終わりだよこの国‥」
景気低迷だけならまだ良い。
休みが少ないのが一番身に堪える。
そうこうしている内に本社が見えてきた。
人や車の往来も減ってきた。
「オラこんな国嫌だ〜オラこんな国嫌だ〜‥米国へ出るだ〜‥米国へ出たなら銭ば貯めて〜‥パツキンとイチャイチャするだべ〜、ガッ!!」
アホ丸出しで歌った瞬間、道路を自転車で横切る馬鹿者が来た!!
「うわっ!!」
キキッ〜〜!!
急ブレーキが間に合わない!!
ハンドルを急いで切るが、その先が問題だった。
ドンっ!ガシャーン!!
‥キュウィン!キュウィン!キュウィン!
派手に自転車を轢き潰した後に近くの外壁に思い切り衝突した‥
雨で視界が悪い上に信号や横断歩道が無いエリアだった。疲労と不注意による事故だ。
雨音の中にセキュリティアラームが虚しく響く‥