98話 過去
目が覚めるとそこはどことなく幻想的な見たことのある景色であった。
「無事でよかったのう」
いや~無事ではなかったような。
「てかここって本当にある場所だったんだ」
「当然じゃろう」
死にかけの時に来ただけだから実際に存在していると何だか少し不思議な気分になる。
夢の中で見た景色が実在していた時と同じ感じだな。
「オルウィスク様。まさか本当に生きていらっしゃったとは」
「槍越しとはいえ話したであろう」
「オルウィスク様なら身体が死んでも精神だけでこの世に留まれるのかと」
神の世界にも死ぬとかあるんだな、とか思いながら周囲を見渡す。
どこか幻想的な世界。周りには草木が生え、その中心には大きな泉がある。
今までで一番澄んだ透明感のある水がその泉を満たしている。
「あれ? 何で助かってんだ? 俺」
「入り口が開かれたからのう、ワシが魔術を用いて転移させた」
魔術? 何だその非科学的な説明は。
「何が非科学的じゃ。そもそも異能とやらもそうじゃろうが」
「それもそうか」
てかそうだったこのジジイ。人の心の中覗いてくんだった。めんどくせえ。
「それも聞こえておるからの。もう時間がない。早めに要件を伝えておきたいのじゃ」
時間がない? その理由を教えるつもりはないようだ。
パンと指を打ち鳴らすとそこには三人分の椅子と1つの大きな机が用意される。
「せめて茶でもしながら話そうとしようか」
時間がない割に時間がある奴の話し方をするんだなと思いながら、施されるのならば施されておこうと宙で茶が注がれたティーカップに手を伸ばす。
「……あ、ちなみにその茶には色んな昆虫と動物の臓物が煮込まれておってな」
「ぶーーーっ! 何だよ! 飲んじまったじゃねえか!」
「ホッホッホ! 冗談じゃよ。普通の上等な茶じゃ。変なにおいもせんだろうに」
確かに言われたゲテモノの匂いはしないけど、匂いくらい魔術で簡単に消せるんじゃないか?
この爺さん、やっぱり油断ならん。あっちから一方的にこっちの思惑さぐれるのせこくないか?
「ていうか思ったんだけどよ。爺さんってそんな風に相手の思考を読み取れるんだろ? なら何でリベルって奴が反逆する前に気付かなかったんだ?」
「おい。不躾な質問はよせ。相手はこの世界で最も偉い方だぞ」
「元、だろ」
「なにを!」
フィリア様が俺の方を睨んで威嚇してくる。最初みたいな警戒心マックスって感じじゃなく、あくまで窘めるだけみたいな感じで。
おっ、距離近づいたか?
「そういえばお主、ワシの事は爺さんでフィリアの事はフィリア様なんじゃな」
「えだって最初にそう呼べって言われたから」
「いやそうじゃなくてだな。ワシの事も……」
「フィリアだ」
何かを言いかけた爺さんの言葉を遮るようにフィリア様がそう言う。
どういう意図なのか一瞬分からずにポカンとしていると、こう続ける。
「フィリアで良い。その……さきの戦いでは助かったからな」
あ、そうか。フィリア……からは俺が槍を投げて助太刀したようにしか見えないのか。
まあ間違いではあるけど間違いではないみたいなところあるしそのままにしとこ。
「おっけ。分かったよフィリア。そんで爺さん。何を言おうとしてたんだ?」
「ん、あー、コホン。リベルの反逆に気付かなかった理由を説明しようとしておったのだ」
何故か意味ありげな顔を浮かべたあと、そう言うと爺さんは話し始める。
「まあまずその話をする前に話さねばならぬことがある。この世界には元々、ワシ、オルウィスクを主神とし数多の神々がおった。その中には愛と美の神フィリアそして雷神ギルバーツもおった」
「ギルバーツ?」
全然聞いたことのない神の名だ。まあそれは前からだけど、この二人から聞いた話の中でという意味で。
「奴は神界で最も強靭な肉体と高度な神性を持っておった。ギルバーツが居れば神界は安泰とまでいわれるほどにな」
「彼は本当に強かった。神性だけで言えば史上最高でしょう」
二人ともが太鼓判を押すほどの存在か。
「でもそんな奴が居てどうして負けたんだ?」
「……以前ワシの跡継ぎのような神がおった。光の神バルドル。ある時、バルドルはギルバーツを連れ、神界にある下界を観察する大水晶へと赴いた。そこにはバルドルとギルバーツしかいなかった。つまり他の神々の力が及ばぬところであった」
二人きりにしたって事か。確かに最強の存在を仕留めるんだったら出来るだけ人が少ない方が良いか。
「大水晶のもとには既にリベルとその配下の者がおった。そこで騙し討ちにあったんじゃ。ギルバーツは流石じゃな。騙し討ちであろうと適切に対処し、無事であった。だが」
「バルドルは違った」
「そう。バルドルは戦闘に特化した神ではない。騙し討ちにあい、そのままリベルに捕らえられたのだ」
なるほど。つまりリベルはバルドルを人質にしたのか。
神界を制覇するほどの神でも、ギルバーツが一人の所を襲うのですら勝てないと踏んだからこその選択肢か。
「そしてギルバーツは神性を奪われ、そのまま成す術もなく大水晶から下界へ落され二度と神界に戻れぬようになった。更にバルドルもそのまま殺された」
「思い出したくもない事です。あれほど心優しい神は他に居ない」
フィリアが苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。
確かに自分の身内がそんな汚い手段で殺されたと知れば誰しもが怒り狂うものだろう。
「バルドル様は全ての神から愛され尊ばれていた。リベルはそれも気に喰わなかったのだろう。何せ主神の跡継ぎには自分がなるはずだったのだから」
「自分がなる筈だった?」
「うむ。フィリアの言う通り、奴は最初ワシの跡継ぎじゃった。じゃが、度重なる悪行によってその権利をはく奪したのじゃ」
「へえ。自分のせいでその地位を追われたのに、それを逆恨みしてバルドルを殺したと」
「真意は分からぬが、ワシらから見ればそのようにしか見えんのう」
真意は分からない? やっぱりその時は相手の心の中を読む力がなかったのか?
「とにもかくにもそこから悪夢のような日々が始まったのじゃ」
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