96話 冥界の神
『神との闘い?』
『神っていうかどっちかっていうと悪魔って感じの見た目だけどな』
思った通り、コメント欄の誰もこれが本当の『神との闘い』であると認識している様子はない。
だけどまだこれでいい。結局、この配信を見た、あの世界にいる誰かが知ってくれさえすればそれで良いんだ。
正直、俺だけこんなクソみたいな役回りはごめんだからな。
「早速試してみますか」
そんなつもりで撃ち放ったリボルバーによるエネルギー弾はヘルブレインに当たることなく、そのまま壁を穿つ。
ま、この距離で当たるとは思っていない。この手合いを相手にした場合、リボルバーは当てるってよりも相手の選択肢を減らすって意味合いの方が大きい。
「ふむ。厄介な。神性が付与された武器が増えおったか。まったく、無闇に神性をたかが人間一匹に与えるとは愚かだな。それが何を意味するかも知っておるというのに」
「何を言っているのでしょう?」
大地を蹴り、ヘルブレインの下へ肉薄した俺は、超近距離でリボルバーを構える。
この距離間ならば俺が攻撃に巻き込まれることはない。
そしてこの攻撃を回避したヘルブレインの行動をこの槍で咎められる。
だがその思惑は意識外からの黒焔で消し飛ばされる。
「おっと、いつの間に仕掛けていらっしゃったのでしょう?」
「ふん、取り繕ったようなわざとらしい話し方が嫌いでね。それを無くすのならば教えてやろう」
「結構です」
黒焔を寸でのところで回避した俺は態勢を立て直し、グングニルを構える。
対する相手もその華奢な腕に似つかわない黒い剣を構える。
「正面衝突と参りましょうか」
その瞬間、凄まじい衝撃波が周囲を襲う。
神速と表現できるほどの速さで打ち出された両者の獲物は互いの間におけるど真ん中で衝突し合う。
一方は槍、もう一方は剣。
突きという最も攻撃力に長けたはずの一撃は黒い剣の強烈な一撃で止められる。
流石は本体ってところだな。てか今更だけど神様と打ち合ってる俺っていったい何なんだよ!
自惚れちゃっても良い? だってさ、この世界の頂点と打ち合ってんだぜ? まあフィリアさんと爺さんの力が無かったら俺の攻撃、一切通らなくなるらしいからやっぱりここまで戦えてるのは俺の力のお陰じゃないんだけど。
『うおおおおお!!!!』
『これだよこれ!!!!』
『ていうか本当に、ジョーカーは一体何と戦ってるんだ?』
『人にしか見えないという……』
状況を把握できていないコメントがちらほらと見受けられる。
場合によっては俺が女性に襲い掛かってるようにも見えるのだろうか?
どうしてこうも神とやらは人間に近しい見た目をしているのかね? 紛らわしい。
「さて、まだまだショーはこれからですよ」
ショーで言うところの今はまだ序章に過ぎない。
だが一個ずつ着実に積み上げていくのも面白くない。ここらで変革でも加えたらどうだろうな。
「何を笑っている?」
「へ? あー、すみません。つい夢中になっちゃいまして」
俺は相も変わらず自己顕示欲が高いみたいだ。
今もどうやって相手を倒そうかじゃなくてどうやって視聴者を湧かせようかという事を考えている。
「甘い!」
甲高く鳴る金属音が俺の手元からグングニルを弾かんとするのが分かる。
だが、手元から離れる寸前で俺がヒョイと投げると、グングニルはまるで生き物のように柔軟に動き、ヘルブレインから繰り出される更なる一撃を防御する。
以前戦った時よりもどういう訳かこの槍を上手く使えるようになった気がする。それもあの爺さんの意志が宿っているからか?
「くっ、神性付与の影響で制限がなくなったか。本来であれば人の身に定着せんほどの力が見えるな」
時折聞こえてくる何を言っているのかよくわからないヘルブレインの独り言も、俺が演じるジョーカーのSHOWを盛り上げる効果にしか思えない。
「さて、クライマックスですね」
そうして次の瞬間、0距離から放たれたリボルバーは確実に相手の姿を捉えていた。
刹那、爆発音が響き渡る。地煙が立つ中、その攻撃を黒い剣一本で耐え凌いでいる相手を目にした俺に躊躇いはない。
一歩先へと踏み出した足は大地を割る。そしてその一歩を動力としてしならせた腕が握るのは一振りの槍。
「さあ、チェックメイトです」
そうして俺の腕から射出されたグングニルは音を置き去りにするほどの速さでヘルブレインへと迫っていく。
この槍は投げれば確実に獲物へと突き刺さる。
まさに対象の体を貫かんとした次の瞬間であった。ヘルブレインを狙ったはずのグングニルは、何故かフィリアさんが相手する化け物の体に深々と突き刺さっているのであった。
ご覧いただきありがとうございます!
もしよろしければブックマーク登録の方と後書きの下にあります☆☆☆☆☆から好きな評価で応援していただけると嬉しいです!




