93話 冥界配信開始
配信開始ボタンを押す。意外と久しぶりだな。それこそユグドラシルの試練の時以来だし。
あの時、俺はどんな感じでやってたかな? 俺の普段のキャラってわけじゃないから思い出すのに苦労する。
配信をする目的は二つある。
一つは俺、つまり押出迅は無事であるという事ともう一つは今謎のダンジョンに飛ばされているためユグドラシルの攻略者の招集に応じることが出来ないという事だ。
『久しぶり~』
『ジョーカー! 待ってたよ!』
『ユグドラシルの攻略者の配信?』
『いやまだ招集はないはず。普通のダンジョン攻略なんじゃないか?』
コメント欄が勢いよく流れていく。視聴者数はどんどん増えていき、一気に50万人程度に到達する。
こんぐらい人が居たら伝えても良いかな?
俺は視界の端で隠れているフィリアさんとオルウィスクの槍を確認すると、カメラをそっちに向けないように気を付けながら話し始める。
「ようこそお越しくださいました。皆様。お久しぶりの配信となりまして申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが私から世間の皆様にお伝えしたいことが2点ほどあります」
恭しく頭を下げながらそう伝えると早速本題に入る。
「今現在私は少し遠い場所のダンジョンに潜っております。したがってユグドラシルの攻略者への参加は今のところ厳しいという事をお伝えさせていただきます」
『少し遠いダンジョン?』
『確かに風景はダンジョンだな』
『でも別にわざわざジョーカーがユグドラシルの試練以外のダンジョンに潜る必要ある?』
何故このダンジョンに潜っているのか。その理由はあんまり考えてなかったな。
だってダンジョン配信者ってのはそこにダンジョンがあったら潜るもんだろ? どっかの登山家みたいな理屈だけど。
まあすぐに戻ることもできないくらい遠いダンジョンに潜る必要性について何だろうな。いったん次の話もしやすいようにダンジョンの転移罠にかかったことにするか。てか実際にそうだし。
「実は普段のダンジョンで遊んでおりましたところ、罠に引っかかってしまいましてね。どうやら知らない場所へと転移させられたみたいなのですよ」
『罠で転移?』
『そういやさっきの探索者協会からのニュースで見た気がするな』
『あー、向井の友達のオーディンって奴?』
すご。あの話、こんなにコメントで流れてくるくらいメジャーなニュースになってんだ。
たかがいち配信者の友達なんだけどな。
ま、話が早くていい。
「その先で一人の少年と出会いまして保護いたしました。向井さんという配信者の友達のオーディンさんだとのことです」
都合よすぎるかな? でもさ、こうでもしないとアイツ無茶しそうだもんな。
『オーディン君、運良すぎ』
『な。数いる探索者の中でジョーカーを引き当てるなんてラッキーだよな』
『にしてもオーディン君の姿が見えないけど』
やっぱ見せないとダメか。ま、この仮面を取り外してローブを脱げばすぐさま押出迅に元通りになるからそれは問題ないんだけどな。
カメラの死角に隠れ、押出迅になってからカメラ前に姿を現す。
「み、皆さん。俺は無事です。向井っていうダンジョン配信者がまだ探していると思うので彼にも言っておいてください」
できれば大鹿の魔物から逃げてくれていれば嬉しいんだけど……。ま、それだけ言うと俺はそそくさとカメラ外へと行き、またジョーカーの姿へと変わってカメラ前に出てくる。
「申し訳ありません。彼は今突然の事に驚き少し怯えているようですのでこの辺で」
いつまでも押出迅の姿のままでいる訳にはいかない。いつまでもカメラ内に二人の姿が同時に映らない事よりも押出迅は怯えていることにしてカメラ内に映らない事にしておけばいい。
……てか今後の事考えてなかったけど今からここの攻略するんだよな?
近くで隠れているフィリアさんに目配せをするとこっちを睨んでいるような感じがする。
早くしろって事か。でも今からカメラをきるとせっかくの久々の配信なのに視聴者を落胆させることになってしまう。
「少々席を外します。お待ちください」
それだけ言うと俺はカメラのマイク機能をミュートし、フィリアさんの方へ向かう。
「フィリアさん。このままカメラを回し続けたいんですけど……」
「私が映らないようにすれば問題ない」
「いやでもどうやっても一緒に戦ったら映っちゃうと思うんです」
「だがそれでは敵に居場所がバレてしまうじゃないか」
はてさてどうしよう。さっきからこの調子だしあんまり説得できそうにないけど。
そう思っているとフィリアさんが持ってる槍の方から声が聞こえる。
『そんなもの。ワシが魔術をかけてしまえば問題ない。それ』
そう言うと槍から何かの力がフィリアさんのもとへと放たれる。
その力に包まれ次に姿を現したのは先程までの桃色のミディアムヘアに金色の瞳だったフィリアではなく、黒色ミディアムヘアに黒い瞳の女性であった。
「オルウィスク様、これは」
『ワシが気まぐれに開発した魔術じゃ。どうじゃ、それならばフィリア神とバレる心配もあるまい』
「ですが神性は隠せないのでは?」
『それも隠しておいた。ま、どうせカメラの風景でバレるけどな。わっはっは!』
へえ、こんな能力あるんだ。便利だな。てか俺のジョーカーマスクもこれの派生形なんじゃ。
「取りあえず大丈夫ですよね? じゃこっち来てください」
「お、おいあまり引っ張るな」
フィリアさんの手を握り俺はそのままカメラの前へと姿を現す。
「皆さまお待たせいたしました。ご紹介いたしましょう。今回のダンジョンを攻略する仲間になります」
「……初めまして。フィ……」
(あ、ネットでは本名は止めといた方が良いですよ)
「ふぃ~~~。コホンッ。レイです。よろしく」
『ふぃ~?』
『何だそれ可愛い』
『滅茶苦茶美人じゃん、レイさん』
『ジョーカー、実は中身相当色男なんじゃないか?』
俺がカットインしてしまったばっかりにフィリアさんが謎の鳴き声を上げる生物になってしまった。
まあいいか。俺に支障はないし。
「では攻略を始めます。Ready for it?」
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