92話 冥界散歩
「……なんかここ味気ないな」
「ここは死者の国だ。そう感じるのも仕方が無いだろう」
黒く燻んだ色合いが広がった荒野のど真ん中を歩いていく。
時折現れる坂を登る以外にすることは無い。
もちろん戦闘をすることもない。ダンジョンとは違って魔物は居ないらしい。
「てかホントにヘルブレインを倒したらここから抜け出せるんだろうな?」
『無論じゃ。この世界は奴が管理しておるからのう。奴がこの世界から出入りをする事ができるのは一重に奴が持っておる冥界の鍵のお陰じゃからな』
「ふーん」
もう一回あいつと戦うのかー。それも今回は分身体なんかじゃなくて本体が相手らしい。
勝てんのか俺?
「ちなみにフィリアさんは戦えないんだよな?」
「私は戦闘はからっきし駄目だ。せいぜいそこら辺の岩を砕ける程度。だが治癒ならば任せてほしい」
そこら辺の岩を砕ける程度じゃ戦闘はからっきしっていう判定になるんだー。へえ。
『ヘルブレインを倒すのはかなりの神性が必要じゃ。それこそ神と同等の。以前の戦いでワシが神性をその槍に付与してやりはしたが、それだけじゃ倒せぬだろう。何せ迅よりも神性を持っておる多くの天使たちが奴には敵わんかったからのう』
「うむ。かくいう私もこの回復の力がなければ今頃、現世に姿をとどめてはいなかっただろう」
「え、じゃあどうやって倒すんだよ?」
『……さあ?』
「おおいっ!?」
『じゃが奴を倒せんかったらお主もフィリア同様永久に牢獄に取り残されたままじゃ。道は他にないのじゃよ』
それを全知全能の神から言われちまったら他の策があるんじゃないかって考えるのが無駄に思えんじゃねえか。
いやでも待てよ? こいつって今神の座から引きずり降ろされた野良の神ってことはもしかして知能とか全部止まってるんじゃ……。
『迅よ。一応、この距離でもお主の心の声は聞こえておるのだぞ?』
「ですよね~。全知全能の割には使えないだなんて思ってないですよ」
「無礼だぞ貴様。本来であればこの方は貴様なんぞが気安く話しかけてよい存在ではないのだぞ!」
爺さんをおちょくってたら横の美女に怒鳴られた。まあ俺のおちょくり方も大分酷かったのは認めるけど。
爺さんと違ってこのお姉さん、この段階で既に殴るモーションに入ってるから気が抜けないぜ。
「てか現状を向井に伝えないと。あいつが俺を探しにダンジョンの奥まで潜り始めたら嫌だし。爺さん、ここからダンジョン配信ってできるか?」
『ワシの魔法を使えばそれくらいは造作ないじゃろうが、それをしてしまえば敵に見つかりやすくなるぞ』
「どうせコソコソしてても結局同じ奴と戦う事になるんだしいんじゃねえか?」
『本当か?』
「テキトーだ」
槍越しにため息が聞こえてくる。爺さん……ではなくどうやら今のはフィリアさんかららしい。
爺さんは槍の向こう側で大声で笑っているのが聞こえてくる。
「そういやさ、今度はこっちに神性? とやらを付与してくれねえか?」
そう言って俺が取り出したのはもう使えなくなってしまったあのリボルバーだ。
使い勝手が良くてずっと気に入って使っていたけど、ヘルブレインの分身体との一戦でただのガラクタになり下がっちまった。
もしかしたら潜在能力を引き出せば使えるんじゃないかと思ったけど、無駄だったし。でももしかしたら神性を付与したら直るのかも、という一縷の望みをかけて頼んでみるが。
『無理じゃ。それでは直せん』
そんな返事が聞こえるだけであった。
残念。結構愛着湧いてたのにな~。
せめて家にでも飾っておこうか。
「貸してみろ」
「へ? あーうん」
ちょっとだけ落ち込んでいると意外な方向から声がかかる。
フィリアさんが興味を持ったことに若干驚きながらもアイテムボックスの中から取り出したリボルバーを預ける。
「……」
「?」
リボルバーを受け取ったフィリアさんはゆっくりと瞳を閉じると途端に無言になる。
少ししてどこか温かい風が吹き抜けていく。そしてその風がフィリアさんの手元へと集まっていき、リボルバー全体に広がっていく。
「ど、どう?」
無言の時間に耐えかねて声を掛けると、フィリアさんの目が開き、こちらを向いてにこりと微笑むと一言。
「……うん。やはり無理だった☆」
「そこまでいって無理なんかい!」
「はっはっは、冗談だ。ほら」
冗談かよ。言いそうにないキャラしてると思ったら案外そういうお茶目なところはあるらしい。
「ついでに私の神性も付与しておいた。これからは壊れても自己修復してくれる」
「ええっ!? すご! ありがとう!」
『おいおい、フィリア。神性とはそのように粗雑に渡すものじゃないぞ。神性が底を尽きれば……』
「オルウィスク様もお渡しになったでしょう?」
『ワシはもう長くないからじゃ』
「それなら私とて同じです」
何の話をしてるんだ? もしかして前からこうもホイホイ貰ってる神性って実は結構貴重だったりする?
「とりま爺さん、今から配信つけるから頼んだ」
『仕方ないのう。ほれ』
そうして俺はアイテムボックスの中から取り出したジョーカーの仮面を付けると配信開始のボタンを押すのであった。
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