75話 謎の世界
「……あれ? なんだここ?」
確か俺の体はヘルブレインとかいう神に焼かれてたはず。だが下を見ると火傷をした跡すらない綺麗な体のままである。
いや待てよ。よく見たらジョーカーじゃなくて俺自身の体だな。
それに周囲を見渡すと謎の光の玉みたいなのが地面から湧き出てくるような幻想的な世界に包まれている。
そこで俺はすべてを察した。
「あー、俺死んだのか」
死後の世界ってこんな感じなんだ。テレビとかじゃ三途の川が流れてるとか言ってたけど、本当にあるのは川っていうより泉みたいな奴なんだな。
そんなことを考えながら取りあえず周囲を歩いてみようと思い立ち、ゆっくりと足を動かす。
うん、普通に動けるみたいだ。ていうか死後の世界ってこんなに不親切なんだな! どこに行けばいいのか全然教えてくんないじゃん!
「迅」
あーあ、てか俺マジで死んじゃったの? だったら白崎とか他の先行部隊のメンツに申し訳ないことしちゃったな。
あんだけ啖呵切ってあたかもこの部隊の主軸は俺だっていう面して仕切ってたのに結果的に俺が一番最初に死ぬとか普通に無責任すぎるんだよな。
「おい、迅よ」
イグナイトにも呆れられてるんだろうな。せっかく俺を見込んでくれてダンジョン配信まで始めたってのにその相手が結果的に早めの階層で野垂れ死んでるんだからさ。
ステータス数値とかいう神から与えられた不安定な指標だけでファーストはもしかしたら俺かもしれないとか自惚れてたけど、蓋を開けてみれば大したことのないちっぽけな存在だったってわけだ。
あー、面目ねえ。
「無視してんじゃないわい! 迅よ!」
「うわ!? な、何なんだよいきなり!」
突然耳元で大きな声が炸裂し、反射的に後ろを振り返るとゴツンッと鈍い音とともに何者かの額と俺の額が衝突する。
「何だよ。てか誰だよ」
痛みが走る額を擦りながら大声の原因ともなる人物の方を見ると、そこには御伽噺に出てくるような魔法使いのローブを着た老人の姿があった。
一応……会ったことはないよな? ていうか如何にもな死後の世界の住人だよな~。多分天寿を全うしたんだろうな。
急に孤独を味わい始めたかも。この世界に来る大半の人がこの老人くらいの年寄りの方が多いって考えたら俺って下手したら一生同い年くらいの人に出会えないんじゃないか?
あ、でも死んでるし一生とかないか。
「いきなりではないわい。さっきからワシの事を無視しおってからに」
「無視?」
無視した覚えはないけど多分現状を把握するのに必死すぎて何も他の事象が意識に入ってこなかったのだろう。
もしかしてずっと話しかけてたっていう事なのだろうか。だとすれば他人の耳元で大声で叫んでいる割にはこの態度なのには合点がいく。
「ていうかさっき俺の名前呼んでたよな? なんで知ってんだ?」
「ええい、それも含めて今から教えてやるわい。まったく近頃の若者ときたら自分の要求ばかり押し付けてきよってからに」
「あ、近頃の若者とか主語を大きくするとただの知識不足が露呈するからやめた方が良いですよ」
「やかましいわい! この全知全能の神オルウィスクが知識不足なことがあるわけないじゃろうが! このたわけが!」
なんか突然中二病みたいなことを言い出すなぁ、この老人。てか全知全能って小学生くらいで言うのやめない?
目の前の老人が急にコミカルに見えてきた。
「オルウィスク? さん? 俺会ったことないと思うんだけど、生前に知り合いだったか?」
「生前? 何を言っておる? 会ったことがないのは当然じゃ。今初めて会っているからのう」
会ったことがない? じゃあどういう事? あ、そうか。俺って一応表彰式の時にテレビに顔つきで名前出てたっけ。
それで見たから名前は知ってるってだけなのか。なら下の名前で呼んでくるのはキモイな。
「お主今だいぶ失礼なことを考えたじゃろう?」
「え、いや?」
「誤魔化しても無駄じゃ。ワシは全知全能の神。お主の考えることなど手に取るようにわかるしのう」
ゴン太侍。
「ゴン太侍」
「おー凄い」
「いや特殊能力か何かと勘違いしとるじゃろ。まったく、奴らが異能とやらをばら撒いたせいで心を読めたとて神の証明にならんではないか」
「神の証明? 本当に自分の事を神だと思ってるのか?」
「思っているのではなく“そう”なのだ」
やっぱり本当にそうだと思ってるイタい奴じゃないか。
「お主、こうしている間にも仲間が死に向かっているのだぞ? 如何にこの空間が他の空間よりも時の流れが遅いといえどこうしている間にもだな……」
「いやいや俺だって助けにいきたいのは山々だけど、死んでるんじゃどうしようもできないし」
「死んでる? あー、そういえばさっき死後の世界が云々とか言っておったな。何じゃお主、死んでると思っとるのか?」
「違うのか?」
「正確に言えば部分的に正解じゃ。今のままではお主は死ぬだろう。だからこそこのワシがお主を精神体だけこの地に転移させたのじゃ」
そういうとオルウィスクと名乗った老人はにやりと笑みを浮かべ、こう続ける。
「封じられとるお主の力を解放してやろう。さすればあの忌々しい神にも一矢報うことができるじゃろう」
ご覧いただきありがとうございます!
もしよろしければブックマーク登録の方と後書きの下にあります☆☆☆☆☆から好きな評価で応援していただけると嬉しいです!




