72話 終わりの見えない階層
「これで半分は攻略できたでしょうか?」
「そうであることを願ってるわ」
終わりが見えない広大な階層。ダンジョンの中だと考えさせないほどに青空が広がる不思議な空間ではあるが、それでもあまり変わらない景色には飽き飽きしてくるというものだ。
最初の方こそ、白崎の成長ぶりに目を見張り若干楽しんでいたものの、あまりにも途方のなさに徐々に俺も白崎もこの階層を攻略するのに嫌気が差しはじめていた。
「向こうも連絡がないという事は収穫がないっぽいですね」
「一応、連絡してみますか」
そういって俺はイヤホン型の無線機をポンッと押し、通信を繋げる。
「シルクハットさん、そちらはどういった状況でしょうか?」
『こっちはまだ何も見つかってないね。そっちは?』
「こちらもまだまだ何も見つかっておりません」
『そうか……いったんここで引き返すかい?』
「いえ、再度ここまで戻ってくるのに同じ時間を要すると考えると出来ればチェックポイント的な場所まで行きたいものですが」
それか攻略し終わった地点まで来てもらって拠点を造ってもらうとか? うーん、その場合龍牙さんの向かった方に造ってもらうか、それともこっちが攻略した方に造ってもらうか悩ましい。
草壁さんの異能は一日に使える限度があるから、両方造るのは無理だしな。
「とりあえずもう少し探索してみましょう。些細なことでも何か見つかれば連絡をください。もし何もなく探索を終了する場合はまた私から連絡させていただきます」
『了解』
まあそうだよな。連絡がない時点で向こうも何もないってのは分かっていた。だがこうして定期的に連絡を取ることは安否確認の面においても重要だ。
……って天院さんが言ってた。
「それにしても退屈ですね」
「ね」
『こっちからしたら規格外の戦闘がいつまでも繰り広げられるから飽きないんだけどな』
『戦ってる本人達からすれば当たり前に倒せるようになってるから同じことの繰り返しなんだろうな』
『いやいや普通にステータス数値1千万とかの魔物相手にそんな事考えられる余裕あるの凄すぎだろ!』
コメント欄的には楽しんでもらえているみたいで何よりだ。
それにしてもイグナイトの配信に現れていた光の戦士みたいな敵はいつ出てくるのだろうか?
魔物相手に疲弊している暇じゃないんだけどな、こっちは。
何せあいつら空間転移もするし異能も効かないしでめちゃくちゃ倒すの一苦労だったんだよな。まあ、前は黒龍と戦った後だったからってのもあるけど。
「今日のイグナイトの配信でも何も見つからなかったっぽいわね」
そういって白崎ことシロリンが配信終了とだけ表示された画面を見せてくる。なるほど、イグナイトの配信を見ながら探索していたのか。
確かにイグナイトが一度通った方向を探索するよりも違う方向を探す方が効率的だ。……お、俺も思いついてたもんね! 普通に初歩中の初歩だもんな!
「って16時間!? ですか!?」
そして配信終了という文字の下の方を眺め、配信時間が異様なほど長いのを見て驚愕する。
長すぎない!? 危うく配信中にジョーカーの演技すんの忘れるくらいには動揺したんだけど!
「今日は特別長いわね。“ジョーカーが追い付いてきやがった”と要所要所で言ってたみたいだし、あなたの事を意識していたんじゃない?」
なるほどね。にしても16時間ぶっ続けでダンジョン攻略をするなんてよっぽどな負けず嫌いだな。
『イグナイト配信終わったか~』
『じゃあ今日はもうジョーカーVSイグナイトは見れないってこと?』
『マジかよ~』
あー、そうなんのね。俺的には会ったところで別に盛り上げられる自信なんてないし寧ろ一生会わない方が良いんじゃないかとまで思ってんのに。
「今のうちに抜かしちゃう?」
「フフフ、それもまた一興ですね」
シロリンの茶目っ気のある問いかけに微笑みながら返事をした次の瞬間であった。
脳に直接訴えかけてくるかのような凄まじい威圧を前方に感じ、すぐにそちらの方へと目を向ける。
「何、あれ?」
前方に浮かんでいるのは大きな黒い船。そう、文字通り船が空中に浮かんでいたのだ。
「わかりません! いったんこの場から離れましょう!」
嫌な予感がする。それと同時にイヤホン型の無線機から連絡が入る。
『ジョーカー! 前方に船が現れた!』
向こうにも同じものが!?
「こちらも現れました! おそらく同種のものかと思います! 皆さんは転移石ですぐに逃げてください! 何か嫌な気配がします!」
光の戦士の時に感じたものよりもさらに濃密な気配。聖なるものなのかはたまた邪悪なものなのか。
だが途轍もなく強いことは確かだ。
『それが……できないんだ』
「何がですか?」
『転移できないんだ。転移石の力がどうやら封じ込まれてる』
その言葉を聞き、愕然とする。三人と別れてからかなり時間が経っている。俺が今から助けに行こうにもかなり時間がかかる。
「できるだけその船から距離を取ってください! 私もすぐに向かいま……」
俺がそこまで言った瞬間、船からやたらと大きな物体が俺の行方を遮るように降ってくる。
凄まじい衝撃音とともに姿を現したその正体は二階層目に出会った巨人のボスを少し小さくした存在。
そしてそれは一体だけじゃない。次から次へと降ってくるその中には龍のような姿をした魔物や他の巨人たちの姿、そして以前の光の戦士のような存在も見える。
なるほどな、助けにも行けないってか。まさか転移石の力を封じられるとは盲点だった。
だがよく考えてみればそうだよな。敵は空間転移を扱うんだから、その対処もできるよな。
「……不味いですね」
今までにないほどの焦燥感が走る。やばい、本格的にどうすりゃいいんだこれ?
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