111話 最強の神
ダンジョンが人間界に現れるより少し前、最強の神とは誰かという話で神界は盛り上がっていた。
そんなどうでもいい話で盛り上がるほどに神界は平和であった。たまに現れる神界の『迷える魂』を討伐するか人間界を維持管理するかしか仕事がなかったからであろう。
最強の神として必ず挙がっていた名前は『雷神ギルバーツ』。圧倒的な神性かつ必中の攻撃である彼の雷からは何者も逃げられずに敗北を喫する。
更に近接においてもその強靭な肉体から繰り出される大槌の雷は世界を揺るがすほどであった。
二人目に挙がるのは、『自由の神リベル』である。
彼が司るのは文字通り『自由』だ。想像できるものは彼が持つ神性の範囲内であれば、すべて実現することが出来る。
攻撃を消したいと思えば消せるし、相手の防御を崩したいと思えば勝手に相手の鎧がボロボロと崩れさせることもできないことはない。
おまけに彼の神性は、ギルバーツほどではないにしろ、神界ではトップレベルに高いため、大抵のことは実現可能であった。
とはいえ、尊ばれることはあまりなかった。リベルはかなり素行が悪かった。
その力を悪用し、他の神を罠に嵌めたり、魔物達を引き連れて神界の宮殿内で大暴れしたりとかなりの問題児であった。
そこにギルバーツが駆け付け、制圧するというのがいつもの流れであるほどであった。
つまり彼を止めるには最強の神を以てしてではないと不可能であったというのだ。
そしてこの二柱の他にもう一柱、最強の神として挙げられていた神が居た。
「何で神性もねえのに衰えてねえんだよ、クソジジイ!!」
「ホッホッホ、これでもまだ全盛期の半分程度の力しか残っておらんがのう」
次から次へと繰り出される魔術の応酬は自由の神であるリベルすらも翻弄していた。
「隙あり!」
リベルと対峙しているオルウィスクに対し、ヘルブレインが冥界の焔を纏った黒い剣で横腹目掛けて振り下ろす。
剣がオルウィスクの身体へと触れた瞬間、まるで蜃気楼かのようにオルウィスクの身体が消失する。
「神性も持たぬ人間に二度も敗北しておる神程度に後れは取らんよ」
オルウィスクがその言葉を放った次の瞬間、ヘルブレインの足元の大地が意思を持つかのようにヘルブレインの脚に絡みついていく。
「じゃあの」
そしてそのまま大地の槍はヘルブレインの身体をいとも容易く貫いた。
「ヘルッ!!!!」
ヨルムがすぐさまヘルブレインの下へと駆け寄り、突き刺さった大地の槍を抜き去ると、負傷部へと手を当てる。
ヨルムの力は『操る力』である。彼にとって体内の血流や血液の成分を操り、傷口を即座に塞ぐことは容易な事である。
「……すまない。下手を打ってしまった」
「反省は後だ。今はオルウィスクを倒すのが先」
「ヨルム! お前はヘルを治しておけ。その間、私が相手をする」
そう告げるとリベルは二人の前方に立ち、オルウィスクにレーヴァテインを向ける。
「ヘルブレインとヨルムを連れてきたのは失敗だったんじゃないか? のう、リベルよ」
「はっ! お前には分からんよ。家族の絆故の強さってのはな!」
リベルが走る。
大地が脈を打つかのように揺れ動く。
対するオルウィスクも凄まじい数の魔術を放つ。
その一つ一つがすべて無効化されていく。
「無駄だぜ? 神性の通ってない魔術程度なら消し放題だからな!」
「それはどうかのう?」
そしてレーヴァテインがオルウィスクの身体を貫かんと振り下ろされた次の瞬間、リベルの足元で魔法陣が展開される。
「お主に気付かれぬよう魔術を発動すれば良いだけの事よ」
刹那、凄まじい爆発がリベルを襲う。
オルウィスクは爆風に巻き込まれぬよう、自身の周りを魔術による障壁で覆う。
「「リベル様!!」」
予想外の力量。予想外の出来事。
自分たちが最強と信じていた存在が今、追い詰められているという事実に二柱の神は驚きを隠せずにいた。
だが、それも仕方のない事であろう。
かつて、神界で最強の神として三番目に挙げられていた主神が相手なのだ。
全盛期にはギルバーツにも引けを取らぬほどの強さを持つ老神に負けても何ら不思議はない。
ならば何故オルウィスクは迅にリベル討伐を任せたかったのか。
「……はっはっは。やるねえ、ジジイ」
意識外からの爆発。それも主神の魔術による高強度なものだ。
それを受けてもなお、笑みを浮かべながら悠々と立ち上がる。
その耐久性は驚異的なものであった。
「だがそんなポンポン撃っててもいいのか? そろそろ魔力が尽きてきた頃なんじゃねえのか?」
「嘗めるなよ。小童が。ワシの魔力は無限じゃ」
その時、オルウィスクの身体がその場から消えた。
そして次の瞬間、治癒しているヘルブレインとヨルムの前に姿を現した。
「まずはお主らから消す」
オルウィスクの手に纏われた魔力は二柱の頭上へと多重の魔法陣を展開する。
そして雷神ギルバーツにも引けを取らぬほどの蒼雷が二柱の神を貫かんとする。
「黙ってやられるかよ。ヘル、手を貸せ」
「言われなくとも分かっている」
刹那、ヨルムとヘルブレインの両方の力が合わさった黒焔がオルウィスクの創り出した蒼雷と衝突する。
元の和やかであった湖の畔は、その衝突した尋常ならざる二つの力によって地獄絵図に彩られていく。
そしてその結末は案外、あっけなく終焉を迎えた。
「ジジイ。お前の行動は大体わかってたぜ?」
刹那、オルウィスクの胸部を貫くレーヴァテイン。
リベルはいつの間にかオルウィスクの背後へと移動し、決定的なダメージを与えることに成功する。
そしてそのままレーヴァテインは燃え盛り、オルウィスクの身体を焼き尽くしていく。
「くっ、一匹でも……減らしておきたかったんじゃがのう。どうもうまくいかん」
「鼠に自分の神性を全て与えちまったのが間違いだったな、ジジイ。神性がありゃ、もう少しマシな戦いにはなったろう」
レーヴァテイン。それは世界を焼き尽くすほどの焔を宿す神器。
そして肝心な魔力を供給する器官がその神器によって貫かれた今、オルウィスクは碌な魔術を打つ力も持っていない。
「……神性があっても衰えたワシの力じゃ、マシな戦いにしかならん。ならば他の者に託す方が良いじゃろう?」
「まだ喋れるのかよ。ウチの奴らはさっきの一撃凌ぐだけで気失ってんのによ」
「ホッホッホ、お主の部下は軟弱じゃのう。ワシんとこのは強いぞ? なんせワシが一から育てたんじゃ」
「……くッ」
そう言うとオルウィスクは最期の力を振り絞ってリベルの身体を大地へと叩きつける。
そしてその姿を見下ろしながらこう言うのであった。
「自由とは、案外不自由なものじゃぞ? 全知全能のワシが言うんじゃから間違いない」
それだけ言うとかつての主神の肉体は活動を停止するのであった。
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