109話 次なる一手
「はあ、はあ、はあ、はあ」
全身がズタボロの状態で向井は周囲を見渡す。
状況は最悪。部隊は壊滅状態に陥っていた。向井が手を伸ばす方向には黒田の身体が横たわっている。
どうしてこうなったのか。黒田と永井の二人が向井の先行部隊入りを祝って、三人で攻略を始めた筈であった。
いつも通りに事が進み、そしていつも通りに任務を終え、よき門出を迎える筈であったのだ。
「どうして、どうして」
向井は言葉に詰まりながら宙に浮く存在へと目を向ける。
巧みに気流を操り、腰かけるようにして宙に浮くその存在は向井にとって見覚えのありすぎる人物であった。
「どうしてこんなことを! 永井さん!」
一縷の望みにかけた嘆き。だからこそ敢えていつも通りの呼び名でその存在を呼んだ。
一方で宙に浮いたままのその存在は全く動じることもなく、向井が持っていた筈の炎の巨人の剣を手にしながらこう告げる。
「どうして……か。向井よ。俺はな、最初からお前を狙って潜伏してたんだ。正確に言えば狙っていたのはこの剣だがな」
それだけ言うと、永井はゆっくりと降りてきて倒れている向井の目の前まで歩いてくる。
「……あの嬢ちゃんについては悪かったよ。だがな、分かってくれ。殺したのはせめてもの情けだ」
「は、はあ? ふざけんなよ? 永井ッ!!!!」
気力を振り絞って作り出した向井の焔は誰がどう見ても特級探索者の器に相応しいだろう。
それほどまでに燃え盛っていた猛火は永井が手を払うだけで鎮火される。
圧倒的実力差、それでいて圧倒的なまでにその瞳の奥は冷徹だ。
これまで共に過ごしてきた仲間に向ける目ではない。
向井の焔を一瞬にして消した永井は向井の胸倉をつかむと、そのまま宙に浮かすほど持ち上げる。
「お前が持っていたあの剣は本来この神界を焼き尽くすほどの力を持つ神器だ。その神器に適合しているお前は後々、厄介になるだろうと思って消しに来たのさ」
永井のその言葉で向井は目の前の存在が人ならざる者であることを理解する。
「お前は何者だ?」
その問いかけに永井は一瞬ニヤリと笑みを浮かべ、こう答える。
「神だ」
刹那、凄まじい衝撃波が向井を襲う。
全身の骨という骨が砕けていくような音と共に向井の身体はくの字に折れ曲がり、吹き飛ばされていく。
そしてやがて、ダンジョン内部の壁に衝突するとそのまま向井の意識に霧がかかり始める。
「じゃあな。冥界でまた会おう。坊主」
その言葉を最後に向井の意識は完全に消失した。
♢
「ん? 帰って来たのか? ヨルム」
「ああ。今用事が終わったとこだ」
「ふーん。あっそ」
ヘルブレインはさして気にかける事もなくヨルムと呼ぶ神から視線を外す。
彼女にとって余程興味のなかったことなのだろう。
だが、自由の神リベルの目には留まったようである。
「ヨルム。その手に持ってる剣はもしや」
「はい。神器『レーヴァテイン』にございます」
そう言って差し出すのは向井が持っていたあの炎の巨人の剣であった。
永井改めヨルムはこの剣をリベルの下へと届ける目的があったのである。
「どれ。へへ、やっぱこいつがなきゃ落ち着かねえな」
そう言うとリベルは巧みにレーヴァテインと呼ばれたその剣を使い、炎を操り始める。
向井ですら出せない出力の炎を軽々と操り、少しして満足したかのように剣の振りを止める。
「巨人に持ち逃げされた時にはどうしたもんかと思っていたが、まさか人間の手に渡っていたとは」
「……見ておられたのですか?」
「ああ、見てたぜ。しっかりとな」
そう言うとリベルはジロリとヨルムの瞳を覗き込む。
ヨルムはそれに動じることなく、見つめ返したままその場を動くことはない。
やがて根負けしたかのようにリベルが笑みを浮かべて顔を天へ向ける。
「お前が何をしようが別にどうだっていいか。俺達は家族だからな。多少の事には目を瞑るさ」
そう言うと、リベルはこの話は終いだと言って手を振る。
「んな事よりいい所で帰ってきたな、ヨルム」
リベルは楽しげにそう告げると次なる一手を宣言するのであった。
「爺さんの隠れ家を見つけた。あのジジイを始末しにいくぞ」
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