103話 殲滅部隊の紅
「ねえねえ! ここ広すぎない?」
黒田が原っぱをお得意の磁力の反発を用いて高速移動しながら尋ねる。
「通常のダンジョンの階層と比べれば10倍以上の大きさはあるんだろうな」
同じく黒田の能力によって象られた砂鉄の船の上に座った向井が答える。
「10倍!? そりゃ凄いねえ」
周囲を見渡すと広々とした地形が広がっている。それはここ『ユグドラシルの試練』ではよくある光景である。
「なあ、このカメラ慣れねえんだけどさ。公開しなきゃダメかい?」
「いいじゃん。公開した方が面白そうだしさ」
「仕方ねえな。ほい」
そう言うと永井はドローンカメラを打ち上げ、配信を開始する。
配信するチャンネルは向井のアカウントなどではなく、探索者協会の公式アカウントで配信する。
ここで配信することによりすべての探索者の動向が基地内部にて把握できるようになるという事である。
『おっ、ここあの高校生配信者の子いるじゃん』
『あの子、可愛い~』
『全員若くね? ちょっとここ見てみるか~』
配信を始めると同時にコメントが流れてくる。こうしてコメント欄の動向によってもどこで問題が生じたのかを理解するのに容易くなる。
したがって、この『ユグドラシルの試練』攻略はまさに全世界の国民と共に行われていると言っても過言ではないだろう。
「へえ、こうやってコメント見るんだ~」
「おいおい、俺についてのコメントが一切なくねえか?」
「そりゃあ。ねえ、向井君?」
「面倒な事を俺に振るんじゃない」
「おい、今俺の事、面倒な事って言ったか?」
「自分についてのコメントが少ないことを気にしてるオッサンなんて面倒以外何物でもだろ」
「ぐさあっ!」
「む、向井君。結構言うね」
黒田が始めた永井へのいじりはいつの間にか向井が主犯へと仕立て上げられていたようである。
『あのオッサン、誰だ?』
『オッサンであることは分かるんだけど』
『美少女と美男子に囲まれてるだなんて。あのオッサン、羨ましいぜ』
一連のやり取りにより、永井の呼び方はオッサンへと変貌したようである。
恨めしそうに向井の方を見てくる永井に対して、向井はにこりと笑う。
「良かったな。コメント増えたぞ」
「よかねえよおおおお! 俺はまだ29だ!!!!」
「オッサンじゃん」
「オッサンだな」
『オッサン……』
『何かオッサンのこと可哀想になってきた』
『まあ、高校生に比べりゃオッサンか』
『オッサンのお陰で同時視聴者数、殲滅部隊の中でトップだぞ!すげえwwww』
「え、トップ? 俺のお陰で? ……ならオッサンで良いか」
実際には29歳は一般的に見ればオッサンと呼ばれる歳ではないが、トップと呼ばれて嬉しくなったのか、永井はその呼び名を認めてしまう。
それを見て、更にコメントが加速していく。
「……二人とも、気を引き締めろ。居るぞ」
遠くから見えるのは大きな狼のような形をした魔物であった。
その威圧感は他のダンジョンでは感じられないほどに濃密である。
だが、一度あの大鹿の魔物を相手している向井にとっては大した強敵には見えなかった。
「行くぞ!」
永井の合図に三人とも黒田の能力から飛び降りる。
「磁力槍!」
最初に動き出したのは黒田。
磁力で集めた砂鉄で作った大きな槍は空中で形作っていく。
そうして磁力の反発によって超加速させられたその槍が凄まじい速さで魔物に向かって飛んでいく。
『速っ!?』
『あの能力超強そう~』
並みの魔物ならばその一撃で致命的なダメージを与えられるのだろう。
だがここは最難関ダンジョン。
凄まじい速さで飛んでいった磁力の槍はその巨体からは想像もつかないほどの軽い身のこなしで回避される。
「甘いな」
空中に飛び上がった魔物は更なる追撃を回避する術はない。
水の力で作り上げられた巨大な手が魔物の身体をがっしり掴むと、勢いよく大地へと叩きつけられる。
巨体が地面に沈められる衝撃音からしてかなり手応えがあったのだろう。永井はニヤリと笑みを浮かべる。
「へえ、水を操るだけじゃなかったのか」
「おっ、気付いたか。そうさ。俺は大気中から水を形態変化させて使う事もできるんだ」
『オッサン、強すぎwwww』
『あんな大きいモンを水で作れるとか凄すぎんだろ』
『私も水操れるけど、普通に水の弾とかしか作れないんですけどー』
見かけによらず、オッサンもとい永井もこの攻略に参加できるほどの上級探索者の中でも選りすぐりの存在という訳であろう。
洗練されたその異能は鮮やかなものであった。
「ケッ、予想通りだがまだピンピンしてやがる」
地煙から姿を現した狼の魔物はあまり大きなダメージを負っているようには見えない。
かの『番人』と呼ばれた魔物と同等かあるいはそれ以上の強さを誇っている。
「ユグドラシルの攻略者」以前の話とはいえかつての白崎と龍牙を蹂躙するほどに強い番人と同等と考えれば、その脅威のほどは計り知れない。
現に永井の攻撃を受けてもなお無傷なのだから。
「どうする? 向井。他の奴らは20人くらいで相手してるみたいだ。増援を呼んでも良いぞ」
「いや、このままで構わない」
永井の提案を一蹴すると、向井はゆっくりと目を閉じ炎の剣を構える。
もとより一人で行動するつもりであった向井にとって、増援を呼ぶという選択肢は最初から存在していなかった。
「永井さん。魔物を捕縛できるか?」
「お安い御用だぜ」
そう言うと永井は再度大きな水の手を創り出し、それで魔物を捕えようとする。
しかし、その技は先程見たからか、魔物はその俊敏な動きでそれを回避する。
「かかったな」
魔物が回避し、地面に着地した直後、魔物の足がゆっくりと地面へと吸い込まれていく。
激しく動けば動くほど、どんどん身体が沈んでいくのである。
「ありがとう。黒田さん。俺をあの魔物に向かって勢いよく飛ばしてくれ」
「え、あ、うん。分かった!」
向井の指示を聞いた黒田は一時的に動けなくなっている魔物と向井の両方に磁力を付与する。
刹那、向井が大地を蹴ると磁力の引き付けあう力によって勢いよく魔物に向かって飛んでいく。
その手に握るは友がくれた炎の剣。
「レーヴァテイン」
すべてを焼き尽くす焔が凄まじい勢いで燃え上がる。
そして次の瞬間には、魔物の身体を二つに分かり、その遺体を業火で焼き尽くす姿が映し出された。
「……す、すげえ」
「あれでホントに特級じゃないの?」
艶やかな赤で彩られた戦場は、友のために戦う一人の男の異色さを浮き彫りにしているのであった。
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