キッズアイドル・本原カケル
本原カケル
本原カケル(もとはら かける)は、当時8歳(現11歳)のキッズアイドル。
20☓☓年、デビューシングル【アオゾラカケル!】が大ヒット。彼の明るい歌声が、大人達を癒やしてくれると話題に。
デビューシングルの大ヒットにより、キッズアイドル・本原カケル(以後、カケル)として各メディアに取り上げれ、知名度が少しずつ上昇する。
さらに、当時の超人気バラエティ、『あますぱからにが』にゲストとして呼ばれると、芸人達のボケへの返答や、クイズの可愛らしい珍回答がさらに話題になり、キッズアイドルに興味がない層までも一気に虜にした。
しかし半年後である20☓☓年〇月、突如としてアイドル活動の無期限休止を発表。理由は明らかにはなっていないが、当時はカケルの父親でありマネージャーである、本原雄三氏関連の事ではないかとの憶測が飛び交っていた。
(有志作成、本原カケル非公式サイトから引用)
「ううぅ…」
俺は家への帰り道を、泣きながら歩いていた。
今日もバイトでミスをしてしまった。今日だけじゃない、昨日も、一昨日も…
「全く、何度言ったら分かるんだ!!」…本当にその通りだと思う。
俺は昔からかなり要領が悪い。ミスばかりの人生を送ってきた。せっかく久しぶりにバイト受かったのに…これじゃあまたすぐにクビだ…
情けないよなぁ…弟は最近子供が産まれたらしいし、妹も夢を目指して受験を頑張っている。しかし俺は都会の隣の隣くらいの市にある小さなアパートで一人暮らしで、未だに仕送りもしてもらっている。
今日実家から届いた野菜、そして母さんからの手紙。
『調子はどうですか?無理はしていませんか?辛くなったら、いつでも帰ってきていいからね。そしたら、貴方の大好きな、唐揚げをたくさん作ってあげるからね。』
…父さん、母さん…ダメダメな息子で、ごめんなさい…
……でも、そんな俺にも、心が休まる所がある。それは…
『はじめまして、本原カケルです!がんばって、歌います!聞いてください、アオゾラカケル!』
本原カケル…約3年前にブレイクしたキッズアイドルだ。今もキッズアイドルってそこそこいるが、世間にキッズアイドルの存在が深く知れ渡るきっかけになったのは、多分カケルだろう。
カケルがデビューした時期は、俺が実家を離れて一人暮らしを始めた時期とほぼ同じだった。不安でいっぱいだった俺の心を、カケルはその明るさと歌声で癒やし、励ましてくれたんだ。
すっかり俺はカケルの虜になり、カケルは生きていく為に不可欠、とすら思っていた…あの日が来るまでは。
20☓☓年〇月、カケルのアイドル活動の無期限休止が発表された。
信じられなかった。何かのデマだろうと思った。でも、本当だった。
この前ライブに行った時、あんなに元気に歌っていたのに。その後の握手会で、俺が緊張してうまく喋れなかった時、『ゆっくりでだいじょーぶですよ!ボク、ちゃんと聞いてますから!』と優しく言ってくれたのに。
あの時もあの時も、本当は今すぐ辞めたかったのだろうか…後悔しかなかった。
その後、カケルの話題はメディアで一切取り上げられず、『本原カケル』は普通の子供に戻った。
きっと、今はどこかで元マネージャーのお父さんと共に、幸せに暮らしているんだろうな…『本原カケル』のファンであるただの他人の俺達は、彼らの幸せを願うことしか出来ない…
はぁ、カケルのことたくさん考えてたらしんみりして来た…早く帰ろう。
「♪………♪♪……」
…ん?歌声…?こんな時間に?
「♪♪♪………♪♪……♪」
とても綺麗で、繊細で…何だか、今にも消えそうな声だ…
……うぉっ!?あそこに子供がいる!ぶかぶかのパーカーでフード被ってて、顔は見えないけど…もしかして、あの子がこの歌声の正体…?
そ、それにしても、何で子供がこんな時間に出歩いてるんだ?親は何してるんだ、全く…
放っておく訳にもいかないしな…不審者だと思われるかも知れないけど、話しかけてみよう。
「…ね、ねぇきみ、こんな時間に一人でいるのは危ないよ」
「…………けて」
「?」
「たす…けて」
「っ!?ど、どういうこと!?」
「貴方の家に入れて下さい」
「俺の!?いや、きみのお家に帰ろう、俺も一緒に行くから…」
「…もうあそこには行かない」
も、もしや…
「………も、もしかして…DV…とか、されてる…?」
(頷く)
「そ、そっか…じゃあ、一緒に警察に…」
「それはダメ、お願い、貴方の家に入れて下さい」
ど、どうしよう…でも、子供の頼みだし…
「…分かった、俺の家、汚いし狭いけど…良い?」
「全く問題ないです、本当にありがとうございます」
礼儀正しいなぁ、この子…
「あ、じゃあ…きみの名前、教えてくれる?」
「僕…僕の、名前は…」
(フードを外す」
「本原、カケルです」
「…………え?」
初めまして、紫之宮雨音と申します。
ずっとやってみたいなぁと思っていた『小説家になろう』を、ついに始める決心をつけました。
どれくらい上手く書けるかは分かりませんが、よろしくお願いいたします。