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暁のホザンナ  作者: 青柳ジュウゴ
53/78

53 思考と恋慕 - 4 -

よろしくお願いいたします。

「ヨシュアさまあああん!」


 里長の館まで戻り、貸していただいている二階の部屋の扉を開けると同時にヨナが勢いよく飛びついてきた。その小さな身体を抱きとめる。


「随分とお、遅いのでぇ、心配してましたあ!」


 ぎゅううと小さく細い体でしがみつくかのような少女を、ゆっくりと床の上に下ろした。不服そうにこちらを見上げる少女の頭をゆるく撫でてやれば、恥ずかしそうにしつつも嬉しそうに顔をほころばせるのだった。


「お待たせてしまいましたね、すみません」

「本当ですよぉ、ヨナ、心配で心配でぇ!」


 お邪魔にならないようにぃ、ずっと待っていたんですからぁ。

 こちらの服の裾を握りしめながら、ヨナは目を潤ませている。日が沈みすっかり暗くなった屋敷の中には明かりが灯り、少女の薄い色彩の瞳が光を反射してゆらゆらと揺れていた。

 ルアードと共に資料室から屋敷に戻ったのが昼を過ぎたばかりの頃だから――結構な時間、アーネストと剣を交えていたことになる。


「そいつに心配の必要はないだろ……」


 呆れたような物言いはルーシェルのものだ。窓の側に座り込んで行儀悪くも片膝を立てている。やややつれた多様な表情で、ぐったりとしたかのようにこちらを見ていた。長いつややかな黒髪が床の上に流れてとぐろを巻いている。彼女の使い魔であるリーネンも同様に疲労の色が濃い、ぺたりと手足を投げ出して座り込んでいた。


 彼女らのそばには小さなローテーブルが一つ。軽食でも囲んでいたのだろうか、色とりどりの果物や菓子を乗せた皿がいくつか並んていた。

 どうしたのだろうと疑問を投げかけるよりも先にヨナがきっとルーシェルを睨みつけた。


「お優しくてぇ、お美しいヨシュアさまですものぉ! 暴漢に襲われたりするかもぉ、知れないじゃぁ、ないですかあ!」


 ぼうかん。

 思わず繰り返していた。

 暴漢、とは。乱暴を働く男性のことを指すが、果たしてこの里にそのような事をする人物がいるだろうか。いや、ルアードやオリビアのおかげなだけで実際いなくはないのかもしれないが。そもそもの話がである。


「返り討ちだろ」


 ルーシェルは呆れもしないとばかりに溜息混じりである。

 自分自身それなりに腕に自負があるのだから、別段過大評価だとは思わない。疲れているのかいつもよりもルーシェルの覇気はないが、呆れ返ったような赤い眼差しにしかし真白い少女は何が気に入らないのか違うもんと更に声を荒げていく。


「ヨシュアさまはぁ! お優しいのでぇ! なくはぁ! ないでしょう!?」

「貴様にはあれが一体どう見えてるんだ……」

「あれとはなんですかぁ、あれとはぁ!」


 ヨナが信じられないとばかりに叫ぶ、すぐ感情的になるのは彼女の悪い癖だ。


「ヨナ、私でしたら自分の身くらい守れますから」


 小さな彼女の肩に手を添えて抑える。そもそも自分は戦天使なのである、この身を案じてくれているのはとてもありがたいのだがいらぬ心配だろう。霊力は確かに殆ど使えないが、それでも剣には覚えがある。悪魔であれば容赦はしないのであるし、人間やエルフ達にそう簡単に引けを取るようなことはないだろう。それはヨナ自身も良く知っている筈である。だというのに、何故か少女は聞き入れない。


「そんなこと言ったってぇ! キスしてくれなきゃ死んでやるってぇ! 人間に言われたらぁ! ヨシュアさまはぁ! どうするんですかぁ!?」


 それはもう鬼気迫る表情である。思わず目を瞬かせた、明後日の問いかけである。

 とはいえ、全く無いことではないのかもしれない。真剣な少女の眼差しにふと考えてみる、自分を襲う人間、に、懇願されたらということだろうか。前提条件がおかしな気もしたが、問われた以上は一応一考するべきなのかもしれない。ふむ、と。しばしの間思案してみる。


「それは……、自殺は許されないことですし。人を護るのが私の役目ですし」


 それで尊き神の愛し子の命が守られるのであれば、安いものではなかろうかという結論に達したのだが。


「ほらあああぁ! もおぉぉぉ!」


 ざあ、と顔色をなくした後ヨナは大爆発した。


「ダメですからねぇ!? 絶対に絶対にぃ、ダメですからねぇぇぇ!!?」

「ですが、」

「ですがもなにもないですもんんー!」


 御自分を大事にしてくださいよぉとヨナは泣きついてきた。小さな体でこちらにしがみつく、そんなに駄目な事だっただろうか。天使は人に仕えるよう神に創造されたものだ。悪事に手を染めるようなことは到底許容できないが、そうでなければ拒否する立場ではないのではなかろうかとも思う。


 視界の端に映るルーシェルはといえば、リーネンと共に不愉快であると言わんばかりに顔をしかめていた。片膝の上に肘を乗せて、気だるげに前髪をかきあげている。


「ヨナちゃんってちょっと盲目的すぎなとこがあるよねぇ」


 にこにこしながら梓がすい、とこちらの側までやってきた。


「梓さん」

「みなさんがいない間にですね、ヨナちゃんともいっぱいお話したんですよ。なんかこう、意気投合しちゃって」


 えへへぇと屈託なく梓は笑う。


「お菓子もいっぱい持ってきて、女子会ですよ女子会。ルーシェルさんも楽しかったですよねぇ」


 ね、ね、と。

 梓がご機嫌で促すのだがルーシェルといえばやはり顔をしかめたままだった。いや、先程よりもさらに深くなった目元はそれこそ最高潮に機嫌が悪そうに見える。ほのぼのとした梓とはあまりにも対照的だ。


「梓はぁ、色々とぉ、わかってるやつですぅ」


 こちらの腹のあたりに顔を埋めたまま、ヨナが何やら。どうやら随分と梓の世話になったらしい。


「ヨナちゃんも愛が深いよねぇ」

「当然ですぅ! 悪魔は全く! 全然! わかってませんがぁ!」

「貴様らは私をどうしたいんだ……」


 声色は既に疲れ切っている。どうやら自分がアーネストと共に外に出ている間中つきあわされていたようだ。あまりおしゃべりではなかった筈だが、一体どういう風の吹き回しだろう。


「どうもずっと恋バナしてっぽいんだよねぇ」


 背後から声が上がる。

 おや、と振り返れば、オリビアに声をかけてくると言っていたルアードとアーネストが連れ立って部屋へと戻ってきた。にこにこと満面の笑みでいるエルフの青年とは対象的に、彼の背後にいる黒髪の青年は気まずそうにやや俯きがちである。


「あ、ルアードさんもアーネストさんもおかえりなさい」


 ふわりと微笑む梓に、アーネストは大仰なまでに肩を大きく震わせた。


「お疲れ様でした」

「あ、いゃ、」


 見る間に顔が真っ赤に染まる。声が上ずる。

 おやおやと言わんばかりにルアードがアーネストの前から僅かに身体をずらす。室内からふわりと椅子に乗ってやってきた梓と向き合う形になったアーネストは、あからさまに挙動がおかしくなっていた。


 珍しくおろおろと狼狽える彼を梓は不思議そうに見上げていた。常とは違う様子のアーネストに対しこてんと小首をかしげる。さらりと肩あたりで切り揃えられた黒髪が少女の滑らかな頬を滑り落ちていく。


「疲れちゃいました?」


 優しい声で問いかける。

 白と黒の色違いの瞳がゆるく溶け出す。柔らかな色、慈しみに溢れた声が、まなざしが、隠しようもなくアーネストを捉えていた。ぴ、と。聞いたことのない音がアーネストの喉から発せられる。


「お、お、お前の方がずっと可愛いだろう……!?」


 耳まで真っ赤にした表情を隠すかのように口元に手の甲を押し付け、引き絞るような声で叫んだのである。


 瞬間、がしゃん、と。

 背後から派手な音が響き渡る。


 そこには呆然と立っている隼人がいた。その手は不自然に宙に浮いたままで、からんからん、と。足元でお盆が転がっている。周囲に散乱するのは砕けたコップ類。


「……どういうことだ?」


 無表情のまま。

 目を見開いた隼人がアーネストに詰め寄る。


「い、いや、」


 あまり普段表情を変えることのないアーネストが明らかに動揺しているのだが、隼人は目を見開いたまま座った眼差しという非常に複雑な表情のまま見据えていた。蛇に睨まれた蛙とはこのようなものなのだろうか、上背ならアーネストの方がずっと上なのだが形容しがたい覇気をまとった隼人に押されているのである。


 散らばった食器類を何処かに控えていたのだろう、メイド達が音もなく現れて風のように始末していった。こちらもニコニコと満面の笑みである、一言も発していないというのにわかっておりますよと言わんばかりの非常に晴れ晴れとした笑顔であった。


 ぐい、と。


 隼人は視線を一切動かさないままアーネストの襟首を掴み、そのままぎりぎりと締め上げ始める。暴力沙汰は流石に良くないだろうと静止しようとするのだが、いつの間にか床の上に蹲っていたルアードに止められた。必死に笑いをこらえている表情でダメダメ、と。首を横に振っているのだ。


「ちょっと……ちょっとこちらでお話よろしいでしょうかこの野郎、」

「ま、まて俺は、」

「話ならいくらでも聞いてやる」


 先程と打って変わって今度はアーネストがどこぞへと引きずられていってしまった。一体どこにそれほどの力があるのだろう、隼人はアーネストをものともせず襟首を掴んだまま廊下の先に消えていったのである。


 彼らの姿が見えなくなった途端、それまで堪えていたらしいルアードはぶふっと。盛大に吹き散らかした。

 

「いやーあいつ復讐全振りだったからさあ、なんか安心したよ。まあ隼人にとっちゃ冗談じゃないんだろうけどさ!」


 言いながらげらげらとルアードは腹を抑えて大笑いしている。当の梓はと言えば顔を真っ赤にしたまま微動だにしていない、呆然と立ち尽くしているのである。


「梓ぁ、良かったじゃあないですかぁ!」

「う、う、う、うん……そう、なんだけど……そう、なの、かな……?」


 駆け寄るヨナに、そう言いながら両手で頬を抑えた梓は椅子ごとぺたりと床の上に座り込んでしまった。突然の事に事態がよく飲み込めていないのか、疑問符が彼女の周囲を乱舞している。

 悪魔達は興味なさげにけだるげにしたまま。最早付き合うのも馬鹿らしいとばかりにこちらを見もしない。窓の外を見やるばかりで完全無関係を貫いている。


 人の子らの交わすやり取りは酷く愛おしいものだった。親愛、情愛、友愛。誰かを愛するということ。大切に想うということ。


 騒がしいと言われるのかもしれないが、このような世界とは無縁だった自分からしてみれば酷く興味深くて、この場に共に居ることが単純に喜ばしい。天使、悪魔、人間、異世界の住人。生きとし生ける者、神の子達。愛し愛される事が許されて、幸せを掴み取ろうと足掻く人の子の儚さと愛しさ。


「なんだこの惨事は……」


 階下からやったきたオリビアの呆れ果てた声に、確かに惨事ではあるかもしれない、とは思った。


   ※


 日が落ちれば皆自宅へと戻っていく。温泉を利用する者は多いが、暗くなった時分に集落から離れた場所へと赴く者は殆どいなかった。以前滞在していた街ほど活気があるわけではないが、それでもここで暮らすエルフ達は穏やかに賑やかに暮らしているようだった。


 幾重にも張られた結界の中だからだろう、『魔』に怯える事もなく、人から姿を隠す必要もなく。ただただ平穏である。竜人の襲撃がないとは言えないらしいが、そもそも『食料』扱いされていないのだから理由なく手を出してくるとも思えない。


 森の中の集落、濃く生い茂る木々。伸びやかに草花。夜空一面に瞬く星々、一等明るく地を照らすのは白く輝く大きな月。風が枝を揺らし葉音が柔らかく耳に届く。闇が覆い尽くして尚美しい地上の世界。


 調べた事について少し考えを巡らせたいとオリビアに告げ、ヨシュアは一人屋敷の外に出ていた。あれだけ言ったのに! とヨナは酷く心配してくれていたが、大丈夫だからと言って部屋に置いてきている。先に寝ていて欲しいと告げたのだが、――起きていると。胸を張って宣言した少女の健気さを思い出し、小さく笑みをこぼした。


 集落から離れるよう歩を進めていく。

 自ずと足が向いたのは、先日真夜中にルーシェルと出会った場所だった。やや開けた、人気のない場所にぽつんとある岩へとあの日と同じように腰掛けた。降り注ぐ月光にそろりと瞳を閉じる。


 ――あの日は温泉を勧められ、断るのもどうかと思い遅い時間を選んだのだった。あまり肌を見せたくないのだというこちらのわがままに理解を示してくれたルアードには感謝しかない、一人で浸かった湯は静かで確かに気持ちのいいものだった。

 小屋に悪魔を残して置けないとサンダルフォンが言うので、彼の言葉を借りれば監視の為に残ってもらったのだが――己の肌に浮かび上がった赤黒い傷跡を見れば、きっと心配するだろう。だから肌を冷やす為この場所で夜風に当たっていたのだった。


 多くの木々が立ち並び、やや開けたそこは草原のように緑が辺り一面を覆っている。誰もいない木々のざわめきは心地よく、そよぐ風は優しく。あまりにも明るい月の光の下、少し、昔の事を思い返してさえいて。知らず唇が紡いでいたのは遥か昔に聞いた鎮魂のための歌だった。


 一人になりたかったのかもしれない。


 賑やかな彼らとの生活は苦ではないが、きっと。そうだったのだと思う。一人きりでの行動など何時ぶりだろう。サンダルフォンがルーシェルの側にいるのだからと少し気が緩んだ。熱い湯に浸かって弛緩した身体、火照る肌、豊かな緑を全身で感じていた。ぼんやりとしていた。だから、あの時反応が遅れた。


 知らず閉じていた瞳を開けば、そこには艷やかな黒髪をゆるくなびかせた悪魔の姿があったのだ。少し驚いたかのようにわずか見開かれた赤い瞳が、月の光を受けてきらきらと輝き、さながら宝石のようだと思った。

 他愛ない会話を重ねて、その先にこちらの傷のことを知られてしまった。


 戦場で受けた傷は生々しく、強制的に回復した肌は引き攣れている。勲章とも思っていないが恥とも思っていない、ただ、死に損ねた痕である。傷を受けすぎたせいか普段は見えないのに体温が上がると浮かび上がる赤黒い傷跡。見せるべきものではない、見ていて気分の良いものではない、のに。不意に伸ばされた彼女の手を自分は知らず受け入れていた。触れられたくないのであれば払いのける事も出来たのに、あの時自分は。それをしなかった。


 そろそろと伸ばされた彼女の細い指が胸の上をなぞる、まるでこちらに痛みを与えないかのように。恐る恐る掌で撫でていく、まるで拍動を確かめるかのように。そうして、どこか安堵したかのような表情を浮かべるものだから、――だから。なんだか嬉しく感じたのだった。このような気味の悪い傷をものともしないばかりが、まるで案ずるかのように触れてきたから少しばかり面食らったのだと思う。


 貴女が触れることはないと取った手のあまりの小ささ、指の細さ。振り払われない。驚いたようにこちらを見上げる赤い瞳が、揺れるように瞬く。ゆるく握り込んだのは。ほとんど無意識だった。


 りん、と。

 不意に涼やかな音が耳に届いて目を見開く。


 美しい月明かりの下、ふわりと視界一面に広がるましろい羽。きらめく銀色の髪。音もなく降り立つ天使は己の副官であり親友でもある一人の男。


「…………カレブ、」


 彼の名を小さく口にすれば、赤く切れ長の瞳が大きく見開かれた。


「随分と久しい名で呼ぶ」


 漏れ出る苦笑に、そういえばそうだったとつられて笑った。現在彼はサンダルフォンであり、カレブはかつての名である。自分も彼もかつての名を捨てた訳では無いが、位を継げば役職名で呼ばれる事が常であった。カレブと呼ばなくなって随分と経つのにその名を呼んでしてしまったのは――きっと、昔の事を思い出していたからだと。感傷に浸るなどと小さく自嘲。


「悪い、時間がかかっちまった」

「いいえ、何度もすみません」


 一度天界へと戻った彼はしゃーねぇだろ、とさして気にした様子もなく。彼の階級を考えればそう頻繁に動けるものではない、自分の代わりを兼任しているようなものだ。自分一人であるなら戻る事は可能だが、だからといってこの世界に悪魔を野放しには出来ない。魔界側からの迎えは期待できない。殺すわけにもいかない。のであれば、どうにかして共に元の世界に戻るすべを模索するしかない。


「……こちらの世界の術式をある程度当たりました。観測値は大まかに把握出来たので、これから実証実験を行うところなのですが、」


 つん、と。額を突かれた。

 驚いて顔を上げると、カレブはいたずらっぽく笑っている。ややきつい印象を与える赤い目元が柔らかくほどけて、微笑んでいるのである。


「俺は仕方がないと言ったが?」

「ですが、」

「魔王のせいだ、お前が気に病む必要はない」


 そう言って彼はふわ、と小さく腕を振るった。

 彼の指先に現れたのは白銀に輝く長剣。


「メレフ・ハネビイーム……、」


 それは、かつて天界で振るっていた愛剣だった。指に馴染み己の霊力に呼応し、数多の悪魔を斬り殺してきた相棒とも言うべき斬魔の剣。天界でルーシェルと相対した時にもこの手の内にあったのだが――どうやらこの世界へ来る前に取り落としたらしい。カレブに頼んのは天界の運用の事もであるが、この剣を探し出してもらうことでもあった。


「回収出来たのですね」

「ま、ちと手間取ったがな」


 彼はやはりなんでもないように言って、こちらへと剣を渡してくる。受け取って柄を握れば馴染んだ感触、刃は鋭く月の光を受けて冷たく輝いていた。この世界で見繕ってもらった剣も問題はないのだが、やはり霊力に適性があるものの方が何かと使い勝手が良い。ルーシェルの持つナハシュ・ザハヴのように意思があるわけではないが、それでも呼べばこの手に戻って来る。この世界にやって来た時に応えなかったのは、ひとえに次元を違えたからなのだろう。


「ありがとうございます」


 破壊の限りを尽くされた天界で、自分の呼ぶ声にしか反応しないこの剣を探し出すのに苦労はあったのだろうにカレブはにこりと笑った。そうしてぐいとこちらの肩を掴む。強く引き寄せられ、酷く近いところに彼の赤い瞳がある、強い光を宿して、こちらを睨みつけるかのように見据え。彼の形の良い薄い唇が言葉を放つ。


「――これで、魔王を討つんだ」

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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