間奏:小鳥遊小鳥とクラシカルなメイド服
おまけ1:軽い登場人物紹介
・小鳥遊小鳥
経験人数四桁の痴女偽装系メイドさん。二十五歳。依存症を拗らせるほど追い詰められているが、本当は死ぬほど大嫌い。けれどしないと苦しくなるから仕方なく。その繰り返しを続けている。笑顔を浮かべるが精神的にはボロボロ。色々と追い詰められる中、なんだかんだで仕事と話に付き合ってくれる遊び相手のおかげで少しずつ前を向いていき、恋をするがやっぱりこじらせている。元々いいところのお嬢様。敬語を絶やさないのはその名残。父親世代になるが、陽輝の父親と小鳥の父親は作家と編集の関係だった
・野坂陽輝
神楽坂家唯一の男性使用人であり、小陽専属の護衛。二十五歳。元々一般家庭に生まれたが、孤児院の関係で妹と共に殺し屋養成機関「星海」に送り込まれる。妹を守る為に努力を繰り返し、トップクラスの殺し屋に成長した。凪咲が亡くなった事件をきっかけに星海を離反。小陽とは妹関係でとある取引をしており、護衛を務めることになる。お昼寝大好き。お人好し。父親経由でマイルドツンデレも引き継いでいる。父親世代だと、上記の関係の他に、自分の父親と小陽の父親が同じ施設出身と共通項がある
・神楽坂小陽
少し出番が少なかった神楽坂財閥の総帥殿。二十三歳。両親はおらず、一人で神楽坂家を引っ張っている多忙な総帥。昔、使用人たちに毒を盛られた影響で、自分の身近に置いている四人のことしか信用していない。その影響で四人に負担をかけていることを申し訳ないと思っているが、小鳥も陽輝も双子も理解しているので、増員は無理しない程度にと彼女に声をかけている。世間知らずのお嬢様ということもあり、色々と騙されやすい。体質的に元々毒が効きにくいタイプらしい
・有栖川透 ・有栖川明
陽輝が保護者の代わりを務めている双子の殺し屋。色々あって彼に育てられ、実の兄妹のように成長した。透が姉で明が妹。使用武器もそれぞれ異なる。二人揃って陽輝を慕っており、よく添い寝をしている姿を目的されている。子供の時から彼と一緒に寝ないと眠れないらしい
おまけ2:初めてとペッキー
星海在籍時代のこと
「凪咲」
「やあ、陽輝。また任務がやってきたのかい?今日は誰を殺す為に、どこに忍び込んでこいと?」
「いや。今日はお前も知っている通り休みの日だ。仕事は他のがやるよ・・・暇だからここに来ただけだ」
奴の根城であった第三資料室
そこに展開された本を避けつつ彼女の隣に腰掛ける
そこがちょうど日当たりが良く昼寝に最適な場所ということもあるが、何よりも・・・彼女の側にいる時間はとても心地がいいから
「そうか。宙音君は?」
「まだ初等部で授業中。訓練前になったら迎えにいくようになっているから、まだ時間があってな・・・ふわぁ・・・」
「相変わらず眠そうだね」
「三度の飯よりも昼寝が好きだからな・・・眠い。太腿貸せよ」
「なぜ枕を持ち運ばない」
「俺が今使用している枕と凪咲の太腿の柔らかさはほぼ同一だ。お前さえ側にいれば枕を持ち運ぶ必要がないから楽なんだよ。ほら、早く。眠れないだろう」
「やれやれ。ほら、どうぞ」
「どうも」
「しかしまあ随分と硬い枕で寝ているね。昼間に眠くなるのも、睡眠の質が悪いからじゃないかい?」
「違う。宙音の夜泣きだ。召集ベル、結構うるさいだろう?あれにびっくりして泣いちゃうんだよ」
「繊細な子だねえ・・・図太い君の妹とは思えないよ」
「宙音は普通に近い場所で生きているからな。当然といえば当然だ。こんな些細なことで驚くぐらい普通でいいんだよ、あいつは。俺みたいな生き方をさせるつもりはない」
太腿枕を堪能しつつ、目を閉じようとするが・・・意外と、目が冴えて寝付く事はできない
仕方ない。しばらく話でもしておくか・・・
「そうかい」
「ところで凪咲は何の本を読んでいるんだ?」
「君のお父上の著書だよ。私の親友、だったかな。君のお父上の親友は空を飛べるらしいぞ。ぶっ飛んだ交友関係というのはこういうものなのかもしれないね」
「そうですかい」
「陽輝は空を飛べないのかい?」
「飛べない。人間だから」
「つまらないね。私の相棒であり、親友である君はこの本の中の親友以下ではないか」
「・・・フィクションだろ、それ」
「はじめのページに「この本を我が亡き親友、山吹尊に捧げる」と書かれている。残念だね。この親友はもう既に亡くなっているらしい。でも実在したのは間違い無いだろう」
「・・・」
飛べるような男が実在してたまるか、と思うが・・・いつになくハキハキと喋る凪咲の様子を見ていたら、ツッコむのもなんだか無粋な気がしてくる
「ふっ・・・」
「君が笑うなんて珍しいね」
「別に。楽しそうな凪咲は滅多に見ないなと思っただけだ」
「普段は人殺しの計画を立てているからね。楽しいなんて一度も思えるわけがないよ。何も考えなくていい休暇の時ぐらいは、年相応に笑うことができる時間を過ごしたいというのは当然の思考ではないかい?」
「・・・さあね」
「全く、反応が薄いね。君は・・・ん?」
「どうした?」
凪咲の反応は少しおかしかったので、彼女の様子を伺う言葉を投げかける
彼女は少しだけ考え込んで、近くにあったお菓子を一つ、手にとった
「陽輝、君のお父上は親友と変な遊びをしているようだね。駆け引きの一種のようだ」
「本の中で何しているって?」
「ペッキーゲームという奴だ」
「ああ。あれな」
「お菓子のペッキーの先を互いが咥えて、折れるまで食べ続けるという遊びらしい」
・・・俺の場合、十二歳の時までは普通の暮らしをしていたので常識ぐらいは、理解している
だからあえて突っ込んでおこう
「・・・それ、男女がやる奴じゃないか?」
「そうなのか?でも本の中では男同士で・・・接吻までしているぞ」
「・・・男同士に限った話じゃ、ないからな?」
上体を起こし、凪咲の手に握られた菓子を一本奪い取る
「早速やるか」
「君にしてはやけに積極的だね」
「・・・別に。相棒へ知識を与えるのも、相棒の仕事だ」
「そうかい。では、頼んだよ」
凪咲はペッキーを加えて、俺の方にその先を向けてくれる
食べたら、いいんだよな・・・でも、普通に食べ続けたらその先は・・・
「ふんふ(はるき)、ふふふん(まだかい)?」
「あ、ああ・・・」
反対方向を加えて、それから持っている知識通りにペッキーを食べ続ける
全部食べ切るまで、口を離したらダメ、なんだよな
けれど、凪咲は微動すらすることなく、俺が食べ切るのを静かに待ち続けていた
一口、一口と食べ進めていく
距離がまた一つ、近づいていく
このままでは、このままでは・・・
終わり方はどうだったか。何か終わる方法があったはずだけど・・・思い出すことができない
また一口分、距離を縮めた
歯で削るように噛むのも・・・流石にもう限度がある
口が少しだけ触れる距離になった。もう、逃げられない
「・・・」
凪咲の赤い目がうっすらと俺を覗き込んでくる
少しだけ潤んだそれは「まだ来ないのか」というように、視線で俺を焦らせて来た
一回り小さな手が、俺のブレザーを握りしめる
いつもは余裕な笑みを浮かべて、策士とは思えない敢然な振る舞いをする彼女
・・・本当に、戦術特化の秀才なんだよな?と思わせる部分は多々あった。基本的に俺の身体能力頼りだし
まあ、多少ふざけても俺ならどうにかするという信頼の裏返しと言ってしまえば・・・ある程度のことは納得できる
そんなおふざけに付き合える俺もどうかと思うけど
しかし、そんな彼女の表情にはいつもの余裕はなく、それこそ年相応な女の子のような表情を浮かべていた
星海凪咲は大事な相棒だ
この星海で生き残る為に、最初は彼女を利用する気でいた
俺は、宙音を守る義務があるから。お兄ちゃんとして、こんな血生臭い世界にあの子を連れていくわけにはいかないから、利用できるものは、利用しないといけない
最後の一口を、口の中に放り込む
ギリギリのところで噛み砕いて、ゲームを終わらせた
「・・・最後まで、してくれないのかい?」
「・・・俺たちはあくまで相棒だ。その先は、まだ望めない」
「まだ、というのは?」
「もうすぐ、卒業試験が執り行われる。そこで俺とお前がきちんと合格して、自由を得たら・・・」
「この続きを、と言いたいんだね。全く、君は・・・」
肩を竦めて、その言葉にあからさまに落胆した彼女は俺の方から手を離す・・・ことはせず、ブレザーを思いっきり引っ張って、俺の体勢を軽く崩す
向かう先は、ただ一つだ
「・・・」
「・・・んぅ」
ほのかに感じる薄い熱。離されるのも名残惜しいそれは、彼女自ら離して行ってしまう
「君が、まだと言ったものなのだから・・・続きはしない。二回目もお預けだ」
「・・・」
「そうしょんぼりするんじゃない。やれやれ。僕も物わかりが良く、大人しく待てる女ではないからね。君の初めてだけは、貰い受けておこうと思っただけなんだ。まさかここまでいい表情をしてくれるとは、思っていなかった」
「・・・な」
「陽輝。続きはまた今度。君がいう通り、卒業試験を乗り越えた後がいいだろうね。無事に迎えられると思うから先に行っておこうか。卒業しても、僕らはずっと一緒だ。死ぬまで、ずっと」
「・・・ああ。約束だからな、凪咲」
相棒としてではなく、一人の女の子として彼女を抱きしめた
もちろんだが、この前の話を見た君ならわかるだろう
この約束は、果たせなかった
けれど・・・俺は彼女が死んだとは思えない
どこかで凪咲は生きているような気さえ覚えるのだ・・・なぜだか、わからないけれど
それはまだ箱の中に隠されたまま
けれどいつか、彼女の生死を暴ける日が来るだろう
生きていれば俺は、約束を果たす
しかし死んでいれば、俺は約束を破棄しなければならなくなるだろう
その時は・・・俺を想ってくれる四人の少女を選び、凪咲にできなかった人生の幸福を与える役割を担うのか
それとも、妹と二人で生きる道を進むか・・・自分一人だけ、地獄へ向かう道を歩くか
これからの道を決めることに、きっとなるだろう
それはきっと、いつかどこかで語られることになる
おまけは後日追加予定です




