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三話 強くなろうと思います

活動再開しました。大分遅れてしまい、申し訳ありません……

 突然攻撃してみろと言われても、まだ使い方とか何も教わってないんだけど……


「おらどうした、早くこい」

 

 仕方ない。とりあえずやれるだけやってみよう。

 腕組んで余裕そうに立ってるアクロさん目掛けて走り出し、身長差を補う為に軽く地面を蹴って飛び跳ね、頭の後ろに構えていた剣を思い切り振りかざした。


 記念すべき第一発目は見事に避けられ、剣先が地面に突き刺さる。

 僕は柄を握ったままだったので、百八十度回って地面に背中を打った。痛い。


 どうにか体制を立て直し、もう一度アクロさんに向かって剣を振るう。

 だが何度攻撃を入れても、彼には全て避けられてしまっている。いくら相手がド素人とはいえ、丸腰でここまで避けられるものなのだろうか。

 いや、丸腰だからむしろ身軽なのか……? 分からなくなってきたな。


 小一時間ほどアクロさんに休まず攻撃し続けたが、一度も本人に当たる事は無かった。

 それよりも先に、僕の方に限界が来てしまっている。


 心臓や肺が今にも破裂しそうなほど痛く、大分前から息も切れてきている。

 かすり傷で良いと言われているのに、そのかすり傷すら未だに一つもつけられていない。

 初っ端からこんなんじゃ、アクロさんにも見放されるんじゃ……


「アルテア、そろそろ休憩しよう」

「まだいける!」

 

 残り少ない体力を振り絞り、アクロさんに向かってまた走り出す。

 するとアクロさんが、どこから出したのかも分からない何かを放り投げ、僕の顔面に“それ”が直撃した。


「あだっ!」


 尻もちをついた僕の膝に乗っかっているのは真っ白なタオルと、小さな竹筒。上の方に切り込みがあったので試しに蓋を開けてみると、中は空洞になっており、綺麗な水が入っていた。

 これは所謂、竹製の水筒というやつか。時代劇とかでしか見たこと無い。

 

「ちゃんと水分補給しろ。死ぬぞ」

「投げる必要あった?」

「お前が休もうとしないからだろ」


 アクロさんに貰ったタオルで顔の汗を拭きながら水を飲んでいると、なんだか急に身体が楽になったような気がした。


「マシロお手製の疲労回復薬を混ぜてある。お前はまだガキで体力も少ないんだし、俺が休めと言ったら大人しく言うこと聞け。分かったか」

「はい……」


 アクロさんはため息をついて、僕の前にしゃがみ込んだ。


「まぁ俺も、お前が強くなるのには賛成だよ。これから日が沈んだ後は俺が剣を教えてやるから、昼は少しでも体力づくりに励め。だが決して無理はするなよ」

「明日からも特訓付き合ってくれるの?」

「言っておくが、俺は教えるのあんまり得意じゃないからな。いつも手癖でやってるから、コツとかも分かんねぇし」

「お手本見せてくれるんだったら、勝手に盗むよ」


 僕がそう言うと、途端にアクロさんが渋い顔をした。何かまずい事言ったかな? そう彼に尋ねると、今度はとても気まずそうな顔で「見せてもいいんだけど……ちょっと移動しようか」と言って僕と目を合わせないまま僕を横抱きにし、初めて出会った日のように空へと飛び立った。

 赤ちゃんのときは死ぬほど怖かったけど、慣れてくるとこれはこれで結構楽しい。高いところからみる山々の景色は綺麗だし、風を感じられて気持ちも良い。


 でもこれ、どこまで飛ぶんだ? そもそもアクロさんは、どこに向かっているんだろう。


「着いたぞ」


 ようやく降り立ったのは、草木が広がる平原のド真ん中。奥の方には魔物らしき影も見える。

 図鑑などで魔物についての知識は多少蓄えてはいるが、実物を見るのは初めてかもしれない。

 今僕達の目の前にいるのは、真っ黒い鱗に大きな翼を持つドラゴンや大きな体に立派な角を生やした一つ目の巨人サイクロプスなど、やたらと強そうな魔物達ばかりだ。


「アクロさん、こんな所来ちゃって大丈夫なの?」

「手本見たいんだろ。あいつらに罪はねぇけど、ちょっと殺ってくる」


 アクロさんは僕の頭を軽く撫でてから、飛行中僕が大事に抱えていた剣を奪って魔物の群れに飛び込んでいった。

 アクロさんが強いのはもう充分分かったけど、一人であんな強そうな魔物達に挑むなんて流石に無茶なのでは……?

 次第に恐怖と不安が募っていく。アクロさんを引き留めようと彼に手を伸ばしたとき、目の前の光景に目を疑った。


 アクロさんが一瞬にしてその場から消えたと思ったら、ドラゴンを始めとした屈強な魔物達が次々に悲鳴と血しぶきを上げて倒れていくのだ。


 最後に残った三つ目のオークだけが、片耳と両腕を切られながらも何とか生き残り必死に逃げ回っている。

 だがそんなオークにも慈悲はなく、すぐ他の魔物と同じようにアクロさんの手によって首を切り落とされてしまった。


 僕は行き場の無い手を差し出したまま、全身を返り血で染めるアクロさんをただひたすらポカンと見つめていた。

 吸血鬼が強い種族なのか、アクロさんが異常なのか。

 彼が僕に剣のお手本を見せるのを躊躇っていたのは、こういう事だったんだな。


 しばらくすると、アクロさんが焦った表情でこっちに戻ってきた。


「アルテア、怪我は? 巻き込まれたりしてないか? 一応保護魔法は掛けてあるから、大丈夫だとは思うが……俺が見てない間に、別の魔物に襲われたりしなかったか?」


 戻ってきて早々、僕の顔をペタペタ触って安否をやたら確認してくる。この吸血鬼、基本ぶっきらぼうだけど実はめちゃくちゃ過保護なんだよな。色々聞きたい事があるのはこっちの方なのに。


「吸血鬼って、皆これくらい強いの?」

「いや……俺、人間時代に吸血鬼何体か倒してるから、吸血鬼っていう種族自体はそんなに強くないと思う」


 なるほど、後者だったか。


 ………………今、もっと気になること言わなかった?


「アクロさんって、昔人間だったの!?」

「え? ああ、まぁな。吸血鬼ってのは基本、人間に血を与えて眷属を増やすからな」

「へぇ。じゃあ、アクロさんは何で吸血鬼になったの?」


 そう質問したとき、彼の表情(かお)が一瞬歪んだような気がした。


「……大した理由じゃねぇよ。いつか、機会があったら教えてやる」


 もしかして、この話題は地雷だったのかな。それなら、これ以上深追いするのは止めておこう。思い出したくない事かもしれないし。

 

「そっか、分かった。そういえば、ここにある魔物達の残骸はどうするの?」


 僕は軽い返事だけして、すぐに話題を別のものへと切り替えた。


「放っときゃ、他の魔物が見つけて食うだろ。持って帰るのも面倒だし、このまま置いていく」


 片付けないんだ。


 ごめん、罪無き魔物達よ。僕が軽い気持ちでお手本見せてなんて言ったばかりに……どうか安らかに眠ってください。


 両手を合わせて哀悼の意を掲げていると、アクロさんが「帰るぞ」と言って来たときと同じように僕を抱きかかえ、もう一度空へと羽ばたいた。


 そうしてマシロさんの待つ屋敷に帰り、夕飯を食べた後はマシロさんとお風呂に浸かりながらアクロさんとの特訓の事を話していた。  


「――それでね、アクロさんが強そーな魔物達を一人でやっつけたの」

「あら、それで血まみれだったのですね。二人が帰ってきたときは、何事かとびっくりしましたわ。てっきり、石にでも躓いて転んだのかと思いました」


 そんな、マシロさんじゃ無いんだから……


「それで、アクロの戦闘は何か参考になりまして?」

「いや全然」


 あれを真似できる人は、そう居ないと思う。例えこの先何があったとしても、アクロさんとだけは絶対に敵対したくないな。

 

 他愛の無い会話が弾む中、少しのぼせて来たので僕だけ一足先に湯船から上がった。

 最近パジャマを新しくしたので、着替えてアクロさんに自慢しに行ったら「はいはい、似合う似合う」と適当にあしらわれた。この前マシロさんが同じ事してたときは、顔真っ赤にして『似合ってるから近寄んな!』って慌てふためいてたのに。

 

 全然褒めてくれなかったので、僕より後に出てきたマシロさんにも新しいパジャマ姿を見せた。

 画家を呼びましょう! と屋敷を飛び出しかけたマシロさんを必死に止め、やや疲れ気味に自室の扉を開けた。


 一旦ベッドにダイブしてから、起き上がって机に向かう。

 毎晩その日の出来事を日記に記すのが、僕の日課である。

 そしてときどき、前のページを読み返して自己満足に浸るのだ。

 異世界での充実した日々、家族との尊い時間、いつもの何気ない毎日に、この当たり前に、感謝しなければいけない。

 僕が幸せでいられるのは、僕を守ってくれる人達がいるから。


 僕の居場所が、ここにある。


 だから僕は誰よりも強くなって、自分の居場所を守り続けてやるんだ。

 アクロさんやマシロさんだけじゃない、この先出会っていく大切な人達を、絶対に絶対に失わないように。


 もう()()()、あんな思いはしないように。


 …………さて。今日の事は一通り書き終えたから、そろそろ眠ろうかな。

 

 明日の朝は屋敷の周りを走って肺活量を鍛えて、昼は街に行って女の子口説いて……あ、どうせなら徒歩で行こうか。体力つけたいし。夜は今日と同じで夕飯までアクロさんへの打ち込みだ。


 あぁもう、今から楽しみになってきた! 早く朝が来ないかなぁ……


 部屋の電気を消してベッドに横たわった後も、僕はしばらく明日が待ち遠しくて眠れなかった。

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