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十一話 リース王国に着きました

 夜が明けてきたので、僕達はたまたま通りがかった馬車を呼び止め、リース王国へと向かい始めた。


 馬車の中でブレアくんと他愛ない話をしていると、エアリーちゃんがこくりこくりと頭をゆったり上下に動かし、とうとうブレアくんの肩にもたれて眠ってしまった。結局昨日はほんの数十分しか眠っていなかったからな。ふふっ、寝顔も可愛い。

 

 微笑ましい光景だなと思って見ていると、ブレアくんが突然険しい表情で彼女の肩を揺さぶった。


「おい起きろよ。重いだろうが」


 それによって起きたエアリーちゃんが、彼へと何度も謝る。もしかして、僕に見られるのが恥ずかしかったとか? だとしても、そんな言い方しなくたって……


「その、エアリーちゃんは昨日、僕を気遣ってずっと一緒に見張りをしてくれてて……だから、あんまり責めないであげてほしいな」


 僕とずっとお喋りしてたなんて言ったら彼女が不貞を疑われてしまう可能性があるので、彼には少し言葉を濁して伝える。すると彼は「ふーん」とだけ言った。


 どうしよう、まだ少しもやもやするな……

 僕は話を逸らす為に、二人がどうして旅をしているのかを尋ねた。


「俺は単に行く当てがないから、金稼ぎの為に冒険者をやってる。こいつとはその途中で出会ったんだ」


 なるほど、行く当てが無い……か。アクロさんも、冒険者になるのは基本そういう奴ばかりだって言ってたもんな。むしろ、帰る家があるのに旅をしている僕の方が珍しいのだろう。


「それで、そっちは?」


 この流れだとちょっと答えづらいけど……まぁ、隠すことでもないからな。


「世界を見て回る為だよ」


 そう言い放つと、二人とも同じような顔で啞然としていた。しかし、そのすぐあとにブレアくんが「そいつは良いな」と笑った。


 良かった……もうさっきまでのピリピリした空気じゃなくなった。多分ブレアくんも、疲れや怪我の痛みで気が立ってたんだよね。


 そうこうしているうちに、王国の門が見えてきた。

 馬車を降り、入り口近くで僕らは顔を見合わせる。


「じゃあ、ここでお別れだね」

「短い間だったけど、ありがとうな」

「それでは、お互い良い旅を」


 最後にブレアくんと握手を交わしてから、二人とはここで解散した。また、どこかで出会えたら良いな。


 とりあえず、まずは冒険者登録を済ませようと、僕はギルドに向かった。扉を開けて中に入ると、色んな人達が集まっていた。剣士に武闘家に魔法使いなどなど……スライムを頭に乗せて遊んでいる、いわゆる魔物使いも居た。


 受付で登録手続きを行い、無事に冒険者ライセンスも受け取る事が出来た。これで僕も、正式に冒険者となったわけだ。もしお金が足りなくなってきたら、ここへ依頼を受けに来よう。


 次は宿だ。この国には二ヶ月ほど滞在しようと思っているので、その分の料金を先払いで宿屋の女将さんに支払った。


 よし。やるべき事は終わったので、あとはゆっくり自由にこの国を見て回るとするか。


 リース王国は、芸術が盛んな国だ。

 作る者、描く者、歌う者、踊る者、演じる者……とにかく王族も貴族も平民も、各々の美を表現するのが大好きなのである。

 特に有名なのは、広場にある劇場で行われるミュージカルショー。年に四回、四季の始めに開かれ、その人気は他国の王族がわざわざ足を運んで観に来る程。そして今日は、丁度そのショーの公演日だ。僕もすごく気になっていて、浮足立った状態で劇場へと向かった。


 そうして広場まで来たはいいものの、何故か周りにあまり人がいない。おかしいな、普通ならもっと人だかりが出来ている筈なのに。日時間違えたのかな……


「お前さん、もしかしてショーを見に来たのか?」


 キョロキョロ辺りを見回していると、お爺さんに声を掛けられた。

 僕が頷くと、お爺さんは悲しそうに目を伏せてしまった。


「すまんのう……実は、今日やる予定だったショーが出来なくなってしまったんじゃ」

「えぇ!?」


 そんな、フローラに話を聞いたときからずっと楽しみにしてたのに……

 ショックで動揺する僕に、お爺さんは申し訳ないという顔で言葉を続けた。


「実は昨日、練習の最中に魔物が劇場の中に入り込んでしまっての……舞台も客席もめちゃくちゃにされ、劇団員達もみんな怪我を負ってしまった。幸い死者は出なかったものの、何人かは重傷でまだ目が覚めておらん」


 なるほど、そうだったのか。まぁ……そういった事情ならば仕方ない。


「それで、その魔物はどうしたんですか?」


 魔物め……僕の楽しみを奪うなんて絶対に許さない。見つけ次第全身の皮を剥いでやる。


「ああ、それなら安心してくれ。悲鳴を聞きつけた金髪の剣士さんが、すぐに倒してくれたからの」


 あ、そうだったんだ。優しい剣士さんが居てくれて良かった。じゃあ、死者が出なかったのはその人のおかげなんだね。


「とりあえず、今は怪我の浅い者たちでめちゃくちゃにされた会場を片付けているんじゃ」


 お爺さんは劇場の方を見ながら目を細め、「儂の孫が座長になってから、初めてやる舞台だったんじゃがのう」と声を漏らした。そっか、お孫さんの……


 彼の悲しそうな表情に、胸が痛む。何か、僕にも出来る事をしてあげられないかな。


「あの……会場の片付け、僕も手伝います」


 お爺さんは一瞬目を見開き、「本当か?」と聞いてきた。


「はい。少しでも早く、ショーが見たいので」


 笑顔で答えると、彼は「ついてきてくれ」と僕を劇場の中に案内してくれた。

 入ってきた僕達を見て、作業中だった劇団員らしき人達がみんな手を止め、全員こちらへと向かってくる。


「ちょっとお祖父ちゃん、そのイケメンどうしたの!? うわ、近くで見ると更にイケメンだ」

「すご、顔きれ〜」

「えっ、もしかして入団希望者とか?」


 各々質問を投げる団員達に、お爺さんが僕の事を紹介してくれた。

 事情を聞いた団員達が、嬉しそうにお礼を言う。その内の女性一人が、泣きながら僕の手を握った。


「ありがとう〜! 私、サラっていいます! 一応この劇団の座長やってるので、困ったことがあれば私に聞いてね!」


 ああ、この人がお爺さんのお孫さんなんだな。少し暗めな赤色の髪をした、美人で明るい素敵な人だ。

 離された彼女の手を今度は僕が握り、グッと顔を近づけた。


「早く……舞台で貴女の美しい姿を目に焼きつけたいです」


 そう言うと、彼女含めこの場にいる女性全員が嬉しそうに悲鳴を上げた。可愛いなぁ。

 男性一人が呆れ顔で手を叩き「いいから再開するぞー」と無理やりその場を切り上げた。


 片付けは順調に進み、破れた椅子や幕の修復に、大道具の修理なども手伝い、休憩時間に団員達とお喋りしながらも、日が沈む頃には会場全体が最初とは見違えるほど綺麗になっていた。


「こんなに早く終わったの、アルテアくんのおかげだよ! 本当の本当にありがとう〜!」

「お役に立てたなら良かったです」


 僕の体を両腕に収め、サラさんが改めてお礼を言う。

 しかし僕は、僕を抱きしめる彼女の腕に巻かれた包帯が気になった。魔物に受けた傷……浅いとは言っていたけど、どのくらいなんだろう。


「折角綺麗な肌なのに、跡が残らないといいな……」


 ふと、彼女の手が緩んだ。そして気づく。彼女の傷を、僕は包帯の上から無意識に擦っていたみたいだ。


「す、すみません! 痛かったですか!?」


 急いで飛び退こうとしたが、緩んでいた腕に今度は強く力を入れ、彼女は再び僕を抱きしめた。やっぱり傷が痛んで、それで力んでるのかな。


「ごめん……ほんのちょっとだけ時間頂戴」


 数秒後、顔のすぐ近くから彼女が大きく深呼吸する音が聞こえてきた。


 彼女は僕を腕から離し、何事もなかったかのように無邪気に笑った。


「大丈夫大丈夫、全然痛くないよ!」


 本当かな……気を遣わせてはいないだろうか。


「私は、みんなが庇ってくれたおかげで怪我もそんなに酷くないの。あの子達の方が、よっぽど……」


 自分の腕に手を当て、サラさんが地面を見つめる。あの子達というのはきっと、未だ目覚めてないという重傷を負った人達の事だろう


「知り合いに、凄腕の治癒士でもいたら良かったんだけどね……まぁ流石に、あのレベルの怪我を治せる人なんてそうそういないか」


 凄腕の治癒士、か……僕の知り合いにもいないな。マシロさんも回復魔法は使えるけれど、あまり大きな怪我は治せないらしい。しかもあの人、しょっちゅう怪我して帰ってくる癖に何故か自分自身には回復魔法使いたがらないんだよな。それでよくアクロさんにも怒られている。


 魔法の扱いに長けたエルフという種族になら、回復魔法のプロだっているかもしれないけれど、エルフ自体数が少なくて滅多に見かけないって言われてるからな。


 やっぱり、自然に回復するのを待つしか無いのかな。でも……もしこのまま、目が覚めなかったりしたら……


 僕や他の団員達の表情が険しくなるのを見て、サラさんがパンッと両手を合わせた。


「なんか暗い雰囲気にしちゃってごめん! それよりもみんな、まずはお疲れ様! 今日はここで解散にしよっか」


 彼女の言葉に、団員達も「そうですね」と自分の荷物を持って帰り支度をし始める。……僕も、帰る準備するか。


 外を出るとき、隣を歩いていたサラさんが僕の顔を覗き込みながら話しかけてきた。


「アルテアくん。いつになるか分からないけど……もしまたショーが出来るようになったら、アルテアくんには特等席を用意しておくね」


 眩しい笑顔でそう言われ、その愛らしさに胸が高鳴り、自然と笑みが溢れる。


「はい……僕も、楽しみにしています」


 もし、どんな大怪我も治せる治癒士を奇跡的に見つける事が出来たら、頑張ってお願いしてみよう。

 

 いつかショーをやる事になったとき……彼女の笑顔に、少しの偽りも生じないように。

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