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十話 冒険者に出会いました

『ねぇねぇかなちゃん。かなちゃんはお星さまに、何をお願いする?』

『……どうしたの、突然』

『だってほら、今日は七夕だよ? 短冊にお願い事書いたら、お星さまが叶えてくれるかも!』

『ああ……そういえば、そんな話もあったわね』

『それで、かなちゃんは何をお願いするの?』

『…………しない』

『え?』

『だって、私の望みは――』


◇◇◇


「ん……寝てた?」


 揺れる馬車の中で、ゆっくりと目を開く。

 十六歳の誕生日に旅に出た僕は、道中で拾った馬車に乗り、どうやらそのまま寝てしまったようだ。


 一体、どのくらい寝てたのだろう。それに何か、懐かしい夢を見た気がする。


 ぽんぽんと膝を叩かれ、隣に目をやるとゴーくんがこちらを見つめていた。うん、可愛い。


「おはよ、ゴーくん」


 僕が笑いかけると、ゴーくんが飛び跳ねた。可愛い。


 僕の膝によじ登って座ったゴーくんの頭を撫でながら、窓の外に目を向けると、辺りはすっかり暗くなっていた。家を出たのが朝で、馬車に乗ったのが夕方なので、そんなに長時間寝ていたわけではないようだ。


 そのままボーっと外の景色を眺め続けていると、遠くの方に人影が見えた。そのすぐ近くには、魔物らしき影も見える。もしかして、襲われてる? もしそうなら助けに行かなきゃ。


 御者のおじさんに降りますと言い、金貨一枚を支払って僕は急いで馬車から降りた。


 さっき見えた人影の方に駆けつけると、剣を持った青色の髪の青年と、フードを被り、杖を手にした少女がボロボロの状態で魔物の群れに襲われていた。

 そのうちの一体が、地面に片膝をついた青年に襲いかかろうとする。僕は急いで懐から杖を取り出し、火の魔法を放って間一髪の所で魔物を倒す事が出来た。

 青年と少女は口を開けたまま固まっているが、これで終わりじゃない。魔物はまだ五、六体ほど残っている。

 腰の鞘から剣を取り出し、残りの魔物も全て片付け、僕は青年に「大丈夫?」と手を差し出した。


 彼の体は、全身酷く傷ついている。彼だけではない、その後ろで怯えている可愛らしい少女も体のあちこちから血を流していた。


「ありがとう、アンタは俺の命の恩人だよ。俺は冒険者のブレア・フレルトだ」 


 ブレアと名乗った青年は僕の手を取ると、立ち上がってお礼を言った。


「えっと、同じく冒険者のエアリー・メイス……です。あの……助けてくださり、ありがとうございます」


 エアリーと名乗った少女も、続けてお礼を言う。


「僕はアルテアだよ。それより二人とも、酷い怪我だ。早く手当てしないと……」


 そう言いながら、そそくさと鞄から救急セットを取り出す。エアリーちゃんには悪いが、まずはより深手を負っているブレアくんの方を先に手当てしよう。


 彼の腕に包帯を巻きながら、何があったのか尋ねると、冒険者ギルドで引き受けた強力な魔物の討伐依頼を無事こなしたは良いものの二人とも満身創痍であり、不幸にも帰る途中に魔物の群れに襲われてしまったらしい。


 冒険者ギルドとは、冒険者登録をしたり、数々の依頼を引き受けたりする事が出来る場所だ。依頼を受けるには冒険者ライセンスというものが必要で、ライセンスにはEからSまでのランクがついている。依頼をこなす事にポイントが貰え、その累計ポイントに応じてランクが上がっていく。依頼が難しければ難しいほど、貰えるポイントも多い。冒険者のランクをあげると一部の施設で支払う料金が値引きされたり、より難しい依頼も引き受けられるようになっていく。旅に出るつもりならこれくらいは知っておけと、アクロさんから色々教えてもらったのだ。


 手当てが完了すると、彼は「本当、何から何まで悪いな」と苦笑した。さて、次はエアリーちゃんだ。

 一応今は男の見た目してるし、念の為触っても平気かどうか確認すると、大丈夫ですよと返ってきた。フードの中から見えた彼女のふんわりとした笑みがとても可愛らしくて、ついドキッとしてしまった。いけないいけない、今は手当てに集中しなきゃ。それに、男女二人で旅をしているのなら、ブレアくんとエアリーちゃんは恋仲の可能性もある。僕は人の恋路は邪魔しない主義だ。


「あの……アルテアさんも、冒険者なのですか?」


 エアリーちゃんの手当も完了すると、愛らしい声で彼女が尋ねてきた。


「ううん。僕はまだ旅立ったばかりで冒険者登録を済ませてないから、一応今はただの旅人……になるのかな」


 冒険者ギルドは王国や発展した街にしかないので、小さなシャルネの街では冒険者登録が出来なかった。

 なのでこれからリース王国という国に向かい、そこで冒険者登録をする予定だ。


 そう伝えると、ブレアくんが目を輝かせた。


「アンタもリース王国に行く予定なのか! 実は俺達もなんだよ!」


 おお、それはすごい偶然だ。


「そうだったんだ。なら、折角だし一緒に行こうか。ここから王国までまだ距離があるし、次またいつ魔物に襲われるか分からないからね。安心して……二人の事は、僕が必ず守るよ」


 腰の鞘に手を置いてそう伝えると、二人ともほんのり顔を赤らめて固まっていた。どうしたんだろう?


「アンタって、外も中もイケメンだな……」


 なんか褒められてしまった。まぁ、僕が格好良いのは周知の事実だけれど。


「ありがとうございます、アルテアさん。私も、出来るだけ力にはなりますので」


 僕の目を見て、エアリーちゃんが笑う。わ、やっぱり可愛い……!


「アルテアさん? 大丈夫ですか?」


 はっ、つい見惚れてしまっていた。でも、心配そうに覗き込む顔も可愛い!


「だ、大丈夫! それじゃあ……まだ暗いし、二人も戦いの疲れが取れてないだろうから、今日は一旦寝て、明日の朝出発しようか」

「そうだな」

「ですね」


 なんとか誤魔化し、僕達はここで休んでいくことにした。


 ゴーくんとエアリーちゃんが集めた木枝たちにブレアくんが魔法で火をつけて、焚き火にする。その火で僕が近くの川で獲ってきた魚を焼いて、夕食にした。


 お腹も充分に満たされてきた頃、ブレアくんが草むらの上で仰向けになって大きな口を開けながら眠ってしまった。


「ねぇ、一つ聞いても良いかな」

「なんですか?」


 彼の寝顔をじっと見つめるエアリーちゃんに、僕はずっと気になっていた事を尋ねた。


「二人って、付き合ってるの?」


 僕の質問に彼女がじわりと頬を染め、ゆっくりと頷く。なるほど、やっぱりそうだったか。


「そっか、残念だな」

「残念?」

「だって……それだと、君のこと口説けないもん」


 僕が拗ねたように言うと、彼女は吹き出し「なんですか、それ」と困ったように笑った。それにつられて、僕も笑う。


「それにしても……カップルで二人旅だなんて、ロマンチックだね」


 まるで、以前フローラに貸してもらった恋愛小説の中のお話みたいだ。

 お互いに支え合って、守りあって。順風満帆とはいかなくても、きっと素敵な旅をしてきたんだろうな。


「…………そう、ですね。すごく……楽しいです」


 しかし、僕の想像とは裏腹に、彼女の言葉と表情はどこかぎこちないような気がした。もしかして、実はあまり上手くいっていなかったりするのだろうか……


 何か言葉を掛けようとすると、彼女が手を口元に当てて欠伸をした。


「君も明日に備えて、そろそろ寝た方が良いよ」


 彼女だって相当疲れている筈だ。僕はついさっきまで馬車の中で寝ていたから眠くないし、ここはちゃんと見張っているから心配しなくていいと伝えた。


「でも、だからってアルテアさん一人に任せきりにするのは……」


 エアリーちゃんが不安そうに呟く。優しい子だな……僕としては、彼女にもしっかりと休んでほしいのだけれど。


「うーん……それなら、もう少しだけお喋りに付き合ってもらおうかな」


 彼女の顔が、パァッと明るくなる。

 そして彼女が自然と眠りにつくまで、僕達は夜通し色々な事を語り合ったのだった。

本当いつもいつも長らくお待たせしてしまい申し訳ありません……!第二章始まりました。

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