表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GHOSTレイト  作者: カミナリサマ
第一章
8/16

8話

「今日、集めた情報は以上です。さて玲様、これからどうしましょうか」


 学校が終わり午後9時。俺はいま第一、第二係、合同の作戦会議ミーティングに参加している。目的は例の組織がらみのこと。


 今日、俺が学校に行っている間に組織について新しい情報をつかんだということなので、それについての作戦会議だ。


 分かったことは、学生と取引していたのは『ヴェッセル』という組織に所属している外国人の男だということ。そして、ヴェッセルは英語で「船」という意味であり、活動拠点もその名の通り「船」らしい。


 船といっても様々な海の上で活動している。太平洋、大西洋、黒海、インド洋、地中海など、事件がおおやけになった時点で移動して、常に逃亡を図る組織だ。


 だから国際指名手配犯の奴らを捕まえるのにはどの国も苦労しているのだろう。


 そして、学生とは100グラムのヘロインという麻薬を500万円で取引する予定だったそうだ。まあ、学生は騙されて殺されかけたんだがな。


 保護した学生はずっと黙秘を続けているのであまり詳しいことは分からなかったそうだ。


 けど、それにしたって、船を拠点にする組織なんてよくひらめいたものだな。今回のように最低限しか陸地にいないというのは組織のボスは多分、相当頭がいい。それに100グラムで500万円、か…


「…………」


「玲様、どうかしました?どういう作戦でこれから行きましょうか」


「ああ、悪い。少し考え事をしていただけだ。気にしないでくれ」


 そう話してきたのはエレナ、ではなく第二係の隊長を担っているシュタインだ。彼はエレナと違ってあまり人間に似ていない。どっちかというと、ウルフみたいだな。歩く時も二足歩行じゃなく四足歩行だし、頭には耳なのか角なのか分からないものが生えている。


 普通、隊長枠は黒崎家がやるのだが、彼の能力が総合的にが高いため幽霊ゴーストにして隊長だ。


「うーんと、どうしようか。まだ組織についての情報が少なすぎる。少しだけ待ってくれ。今考えるから」


 今日の情報だけだと完璧な作戦を考えるのは難しい。何通りもプランを考えといて組織討伐大作戦のときに展開に応じて臨機応変に対応するという手もあるが……それはあまりよくない。


 どのような展開が起こりうるのかを正確に予想するのはほぼ不可能。リスクが大きすぎる。


 俺が少しの間、思案を巡らしていると今度はレインが話しかけてきた。彼は第一係でも第二係でもない、第五係だが今回は事情があったので特別に来てもらった。彼もまた幽霊ゴーストだ。


「あの、ミサイルで船ごと破壊するのはどうっすか。自分、ミサイルくらいならすぐにつくれますよ。常に移動しているということなので場所さえわかればですが……」


 確かに船ごと破壊する手段も考えてはいた。彼に任せればすぐにミサイルだって完成するだろう。なぜなら彼は想像したものを何でも発明することができる能力を持っているからだ。



 そう、前も言ったが幽霊ゴーストにはそれぞれ異なる能力がある。エレナだったら人の身体にけることができ、それと同じようにレインにも能力がある。


 レインは「発明のプロ」である。想像しただけでなんでも作ってしまうのが本当に発明と呼べるのかは分からないが、本人は「これは発明です」と言い張っている。


 彼は西洋の仮面でよくあるような顔であり、首から下は俺たち人間と同じ様な見た目をしている。言っておくが、仮面をつけているわけではない。それが顔なのだ。


 そんな能力、「発明」にも欠点がある。それは10分間しか発明したものの原型を保てないことだ。つまりミサイルを彼が一瞬で作っても10分以内に奴らの船に当てなければいけないということだ。


 幽霊ゴーストにはレインのように便利な能力を持っているが、必ずそこに欠点デメリットが存在する。


 エレナの人の身体に化けることができる能力は必ず化けるときに相手が近くにいないといけないし、化けたときにはその人間が二人誕生することになる。


 そして、エレナの能力の最大の弱点は化けている間は化けた相手と「運命共同体」だということだ。


 たとえば、エレナが誰かに化けていてその人間がその間に亡くなったとする。その場合、エレナも死ぬことになってしまうのだ。


 幽霊ゴーストは寿命というものは存在しない。だが、そういう場合は死んでしまうのだ。まあ普通にナイフで刺されても死んでしまうし、毒を盛られても死んでしまうけどな。簡単に言うと寿命がないだけだ。


 だからエレナは慎重に化けるときはしているが、前のサッカーのときは絶対、無駄だったよな。


「……玲、様?どうっすか、俺のアイディアは…」


 そうだった。レインが案を提示してくれていたんだった。だが、もう俺の答えは決まっている。


「相手の組織が海の上で活動してくれているならミサイルを飛ばしても民間人の被害はほぼない。――だが、却下だ。」


「え……?どうしてなのですか」


 今度はエレナが俺に聞いてきた。多分、レインのアイディアがいいと思ったのだろう。


「10分以内にミサイルで船を破壊するのは多分できる。だが、リスクがでかすぎる。民間人に被害がないにせよ、奴が所属していた組織『ヴェッセル』の奴らは全員死ぬことになる。それだけならまだいい。けどな、一つの船内に奴らが全員いると思うか?船が一つじゃなくいくつかあった場合、一つの船のをぶっ壊しても組織壊滅はできない。余計に警戒されるだけだぞ。相手側の船がいくつあるのかが分からない状況ではこの作戦は難しい」


「……確かにそうですね。じゃあどうすれば…」


 これ以上の情報になるとやはり、その組織と直接関わっていた少年に話を聞くしかない。けど、少年は相変わらず黙秘している。ちょっと少年に仕掛けてみるか。


「ちょっと少年のもとに行ってくるよ。エレナ、少年の事情聴取だからお前は来るなよ。幽霊ゴーストのお前まで事情聴取させてしまうと俺まで怒られる」


「分かりましたぁぁぁ。玲様には何か考えがおありなのですね」


 エレナは一応でも幽霊ゴーストだ。基本的には黒崎家以外が事情聴取をおこなうのは組織違反になる。いつもは規則を破ってエレナも連れてっていくが今日は無理だ。なぜならいまここには第二係もいるからだ。これが霊長《母さん》の耳に入れば間違いなく怒られる。今日はお留守番で我慢してくれ。


          

------------------------------------------------------



『コンコン』


 俺は取調室の扉を軽く二回たたいてから入室した。中には少年一人が座っている。最初はフレンドリーな感じで話していこう。俺は置いてあったパイプ椅子に腰を下ろして――


「君が成田祐樹君かな。言葉を発しないで良いから頷くなり何かしてくれると助かるんだが……」


 少年は全く動かない。これにも答える気がないというのか。まあいい、まずは様子をみよう。見た感じ少年は落ち着いている。少年がボウガンで刺されるところを見ていたけれど、薬物をやりそうな子には見えなかったんだよな。


「まあ、話だけ聞いてくれればそれでいいや。まずは、そうだね、僕が誰なのかが気になっていると思う。君と同じくらいの僕がなんでこんなことをやっているのか気になるよね」


 この少年に何か言葉を発せさせるには相手と対等の立場になって心を開かせることが一番大事だろう。それが無理ならちょっと強引にいってやろう。


「僕はね、んーとね、ヒーローをやっている人と思ってくれていい。まあ僕の名前は教えれないけどね。」


 あいかわらず少年は無口。おいおい、少しくらいは話してくれよ。


「で、いくつか事項を確認したいんだけど……いいかな。君は外国人の男と薬物取引をするつもりであの倉庫に行った。でも、それは嘘で金だけ奪われて殺されそうになったということで間違いないかな」


 5分、10分と俺はしゃべり続ける。人間はその人が親切に話してくれただけ、その人を信用してしまう。けど、この少年にはそれが見えない。なにかの鎖に縛られているような。そんな感覚。もう、これは少し強引な手段で行くしかないかもな。


「と、まあ長々と喋ったんだけど一つ僕には疑問があってね」


 そう、それはさっきの作戦会議で聞いた情報のこと。


「君は100グラムの麻薬、ヘロインを500万円で取引する約束だったみたいだったね。けど、僕には不思議に思った……それは適正な価格じゃない気がするんだ。ヘロインは1グラム3万円程度。100グラムだと300万円くらいにしかならないと思うんだよ」


 少年の瞳孔どうこうがわずかに動く。取引を見ていた時、少年は「本当に500万円で良いんだよな」と口走っていた。そのときは何グラムの麻薬かどうか正確の情報は分からなかったが、あまりにも価格が高いことには不思議に思っていた。一体、何グラムの取引をする予定だったのかと思わせるくらいの。


「だから、僕は一つの答えを導き出した。本当は違う目的があって、500万円はそのための金だった、そういう答えに。僕は麻薬は本当の目的を隠すためのカモフラージュだと思っているよ…」


「……っ」


「おーと、その顔は図星かな。けどね、君に違う目的があったってわかっても僕にはそれが何なのかは分からなかったんだよ」


 相手の顔がわずかに曇る。なんとなく察しが付く。少年の目的、なぜ500万円を渡してまで成し遂げたかったのか。理由は多分、組織と関係している。


「これはあくまで僕の推測に過ぎないのだが、君は取引しようとした男に脅されていたのだろう。例えばだなぁ、お前の大切な人を人質にとったぞ、とかかな。ちょっと細かいところは違うかもしれない。でも大体そんな感じだろう」


 少年はまだ話そうとしない。けどわかる少年の目を見れば・・・ここでさらに追い打ちをかければ――


「今から僕たちは外国人の男たちを捕まえるんだ。拠点もわかったことだしな。船で移動中とのことなので船ごと破壊して全員殺そうと思う。それで解決だ。まあ、奴ら以外、船の中に乗っていないのなら壊しても問題ないかぁ」


 少年の500万円かけて救いたかった人は組織の奴らたちに人質に取られていて、今も船に乗っているのだろう。これでいける――


「じゃあ、君は何も話してくれないようだし、僕は奴らを捕まえる準備をするからもう行くね。話を最後まで聞いてくれてありがとう」


 俺は椅子から降りて取調室を出ようとする。これで少年が口を開かなかったら容赦なくレインが開発したミサイルで船ごと破壊してしまおう……と言うのは冗談だ。俺が扉のドアノブを掴んだそのとき――


「ま、まってくれ!は、話すから、船を壊すのだけはやめてく……れ…」


 少年は大きく頭を下げてお願いしてきた。ものすごく力強い声、決して大きな声ではない。でも、これだけでどれだけ船を壊すのが嫌なのかを感じ取ることができる。俺はドアノブから手をはずし、もう一度椅子に座りなおす。


「やっと喋ってくれたか。詳しくきこうじゃないか…」


 少年は頷くだけして話し始めた。落ち着いた声でゆっくりと――


「まず最初に、嘘だと思うかもしれないが聞いてくれ。実は俺は少し前まで組織の一員だったんだ。そして組織、『ヴェッセル』を抜けたことで奴らに追われていた状況だったんだ」


 これは予想外の情報だ。けど、この情報が真実かどうかを見極める必要がある。真実だとしたらかなり組織壊滅に近づけるぞ。


「なぜ抜けた?抜けた理由を詳しく教えてくれ」


 組織を抜けた理由は何らかで役に立つはず。組織の状況を把握するためにも必要なことだ。


「俺は小さいころ火事で家族を失った。行く当てもない俺を拾ってくれたのが『ヴェッセル』だったんだ」


 少年の家族が火事で亡くなったことは知っている。少年の情報で唯一、最初から分かっていた情報だ。たしかエレナが言っていたような。だが、『ヴェッセル』に拾われたということは新情報だ。まだまだ情報を教えてくれよ……少年。


「幼いころの俺にはこの組織が悪い組織だってことは全く知らなかったんだ……。ちょっと厳しく育てられたくらいで、疑問に思ったのは何でいつも俺は船の中にいなければならないのか、それだけだった……」


「そして、真実を知ったのか。奴らが平気で人殺しをしている組織だということに…」


「ああ、幼い子に厳しい教育をして人員を増やすためらしい。俺は寒気がしたよ。こんな目的のために俺は利用されていたのか、ってね。だから逃げようとした。だけど、船の中から逃げるのは困難で逃げるのに3年かかってしまったんだ。奴らに疑われないように逃げるのは中々大変なことなんだ……」


 この少年が言っていることは多分、真実なのだろう。でも俺には一つの疑問が生じる。


「じゃあなんで取引のとき外国人の男は、お前が成田祐樹っていうガキか、って聞いていたんだ。組織の一員ならお前のことも奴は知っているはずだろ」


 あの男は初めて会ったような様子で少年に話していた。少年が『ヴェッセル』という組織の一員なら知っていてもいいはずなのに…


「ああ、何年か前から東京に住み込んでいたグループのことか。それについては『ヴェッセル』の活動の仕組みにある」


「仕組み……?具体的に説明してくれ」


「まず『ヴェッセル』はいくつかのグループに分かれているんだ。そしてグループが違えば、基本的に移動する場所も船も違う……つまり、この組織には他のグループと顔を合わせる機会がほとんどないんだ。俺とあの男は違うグループだったし、あの男が俺を知っていないのは当たり前のことなんだ…」


 まるで『霊交幽民隊ゴーストクロス』みたいだな。グループ分けがされているとかさ。けど、これではっきりした。奴らの船は一つじゃない。複数あるんだ。少年の話から察するに多分、グループごとに船が一つずつあるのか。いや、決めつけはよくないな。


「船は全部でいくつある?言っとくが俺らの目的は組織の壊滅かいめつすることだ。一つのグループを壊滅かいめつさせても意味はない」


「グループは全部で7つあるから船も7つある。だが、今は組織を抜けた裏切り者の俺を追いかけるために全グループが一つの船に集結している。俺から情報が漏れる恐れがあるからな。奴らは絶対に俺を見逃さない。」


 なるほど壊滅させるなら今がチャンスということか。全員まとまってくれるのならその分、こちらはらくで手っ取り早い。だが、レインのミサイル大作戦は使えない。会話から察するにこの少年は誰かを人質に取られている。ミサイルなんか飛ばしたら人質もろとも死ぬことになる。


「少年、お前は誰を人質に取られていたんだ?組織から逃げていたのに奴らと取引するなんておかしいだろう。」


 少年が組織から見逃してもらうために500万円の取引をしていたという線もあるが、それは罠だと普通は気付く。つまり、少年は取引せざる得ない状況だったということだ。そして少年の顔が突然にして深刻そうになる。


「……友人だ。俺の大切な友人をあいつらは人質に取って……」


「その子の名前は?」


たちばな……灯火とうかだ…」


 友人とは女の子なのか。多分、少年は嘘をついていない。そんなのは目を見ればわかる。悲しそうな、辛そうな、そんな目だ。


「家族が火事で亡くなる前の……たったひとりの俺にとって大切な友達なんだ…。彼女の方はもう忘れているかもしれないがな。」


 これは彼女の情報も調べておいた方がいいだろう。少年は幼少期時代の彼女しか知らないわけだしな。


「あいつらは彼女を人質に取り、500万円を渡せばお前も彼女も助けてやるよ、と取引を仕掛けてきたんだ。麻薬はお前が言った通りその目的を隠すためのカモフラージュだ」


 これは組織壊滅任務から人質解放までプラスされた。やるべきことがありすぎる。困ったものだ。


「組織の人数は約どれくらいだ?グループを作ったり、センサーでボウガンが発射する装置を作るくらいだ。相当多いんだろう」


 これは一番大事なことだ。場合に寄っちゃあ第一と第二だけでは数が足りないかもしれない。


「組織の人数はあまり多くない。100人程度だ。でも最近、組織は新しく超有能な人材を仲間に向かい入れるという噂を耳にした。油断すると絶対に勝てない」


 新しい有能な人材、か。果たしてどれくらいの者なんだろうか。


「もう、俺が話せることはない。けど、絶対に絶対に彼女だけは…俺の友人だけは救ってくれ……お願いだ……!」


 この少年はつらい思いをしてきた。幼いころから訳の分からない組織の一員とされ、たった一人の友人も人質に取られた。その気持ちは分かるようで俺には決して分からない。俺がこの少年の思いを理解することは絶対に不可能。でも、彼女を救うことは俺にもできる――


「……俺は俺の任務のために君の友人を救う。最善を尽くすと約束しよう」


 そう言って俺は取調室を立ち去った。


本当にすいません……今回の話、少し長めになってしまいました。次からはもう少し短くするのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ