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18 初日はやっぱり波乱あり?

初日が続いてます。

 土俵は順調に進んだ。

 ベンジャミンの解説が分かり易い。レギオンの蘊蓄(うんちく)に興味が深まる。グレイの操作は的を射た映像を選択する。

 全てが、相撲を伝えていた。

 ベンジャミンの声が『鏡カメラ』から聞こえた。

「全国の不知火神殿の相撲観戦をしていらっしゃる皆様の様子は、会場には届きません。声も聞こえません」

「余の声の、一方通行なのだな」

「はい、各会場でそれぞれに盛り上がって頂きたいです」

 実況中継には、時々『鏡カメラ』の使用方法が入る。新たな魔道具として『鏡カメラ』が伝わっていく。

 土俵にビルヘルムが上がった。

「本日一番の好取組と言えるでしょうか? 東から、街道部屋の関脇のジョンソン関が上がりました。西は、近衛部屋の前頭筆頭のビルヘルム関です」

「ビルヘルム坊ちゃまです。立派なお姿で、ニーナは誇らしい」

「誰だって? 何処の坊ちゃんだ? ああ、近衛騎士団のビルヘルムだぞ。聞き取れなかった。取り組みが聞き取れないと、分かり(にく)いな」

 取り組みを伝える文字の情報は、『鏡カメラ』にはない。ジェイドも如何するのかイメージが浮かばない。

「常に文字を映し続ける鏡を、グレイの手元に設置するのかしら? でも、文字ってって鏡に映って反転します。鏡は二つ必要で、ああ、ややこしいです。今は兄様の相撲に集中しましょう」

 悩みを押し込めて、ジェイドは『鏡カメラ』に向き合った。

 互いに上背も似ていて、引き締まった筋肉が乗った身体だ。足が長いビルヘルムに対して、ジョンソンは手が長い。

「ビルヘルム関は、狐獣人でホークハウゼ侯爵家の嫡男です。見目の良い姿ですね。近衛騎士団では、第一騎士団の副隊長です」

 ベンジャミンは、土俵に上がった力士に親しみが持てるよう情報を伝えていく。出身地や稽古の様子も、聞いていて心が躍る。ジェイドはビルヘルムの紹介に耳を傾けた。

「元々近衛騎士団でも人気があったからのう。騎士団の訓練で一番の花形であるぞ。今は近衛部屋の稽古に、沢山のレディが詰め掛けておる。結婚したいナンバーワン力士と、評判を聞いた。黄金の狐獣人は確かに、土俵上でも映える」

 レギオンの解説に、ジェイドは呆然とした。

「はしたなく口が開いております。はっきり申し上げて、ジェイドお嬢様は御存じないとは思いますが、ビルヘルム坊ちゃまは有望な方ですよ」

「知らな過ぎじゃん」

 騎士団の団員が、潜めきれない声だ呟いた。

 ジェイドの混乱を置き去りにして、土俵が進む。

「時間です。まだまだ、見合って」

 行司の声がした。会場が静まる。

 ビルヘルムの獣耳が、ぴくっと動いた。

「ハッキョイ、残った、残った」

「立ち合いはジョンソン関が差し勝った。廻しを取っています。長い手を巧みに使って、右四つの得意の形を作りました」

 ベンジャミンの実況に、レギオンが唸った。

 互いに右手が下手(したて)となるのが右四つだ。

「ビルヘルム関が顎つけた。如何動きますか?」

 ビルヘルムが右へ、左へ腰を動かす。廻しが切れない。

「がっぷり四つに組んでいます。胸が合って、ジョンソン関に有利な体勢でしょうか?」

「まだまだ。ビルヘルム関が頭を下げおった。良い形をじわじわ作っておる」

 ビルヘルムの手が廻しを惹きつける。

「ジョンソン関がじりっと土俵際にビルヘルム関を吊り上げる。両者ともに体格が互角。吊る! 懸命に吊る! 万事休すか。ああ、ビルヘルム関の右足がジョンソン関の足に絡んだ!」

「外掛けが決まるか?」

 レギオンの声も上擦っている。

 ビルヘルムが身体を乗せると、ジョンソンが崩れていく。

「決まった! 外掛けでビルヘルム関が勝った」

 一段と『鏡カメラ』の中で会場が盛り上がる。熱気を受けて、辺境部屋も歓声が鳴り止まない。

 レギオンが声を張り上げていた。

「外掛けは、相手が吊る瞬間に足首に近い所に技を掛けると綺麗に決まる」

「良い決まり手でしたね。ああ、ビルヘルム関の引き締まった顔、頬が紅潮して男振りも上がっています。また、人気が上昇しますでしょうか?」

 応じたベンジャミンも大声だ。

「良く四股を踏んでおるから、あそこで外掛けが出る。見ごたえのある取り組みぞ」

「では『鏡カメラ』のゆっくり再生でもう一度、技を確認いたしましょう」

 スローモーションで相撲が途中から映し出された。

「違う、グレイよ。もっと先だ。ジョンソン関が吊り上げたところを見せよ」

 レギオンの焦れた言葉にも、グレイは動じずに映像を早廻しした。

「レギオン公爵様に仕えるのも、気苦労が多いだろうなあ。胃が捩れるぜ」

「でもよ、グレイって名は覚えた」

 レギオンのダメ出しが続き、何度もグレイを呼んでいる。

「操作に長けているんだろう? 『鏡カメラ』はグレイがいないと動かない居て話だろう」

「そうそう、この吊りのところぞ。グレイよ。ゆっくり映せ」

 会場も辺境部屋も鎮まった。息を呑んで『鏡カメラ』を見詰める。

 僅かに吊られたビルヘルムの身体が、ジョンソンに近づいた。

「今だ!」

 レギオンの声に合わせたように、ビルヘルムの右足が相手の足首を捉えた。

「身体を寄せるだけじゃなくて、左手が廻しの下に移動しておる」

 画面が切り替わった。

 ビルヘルムの左手が廻しの下を引いていた。引かれたジョンソンの上体が傾いだ。

「稽古万全。足腰の強さが伝わる取り組みだった。見応えがある。天晴れだ!」

 万雷の拍手の中、ビルヘルムが花道を下がって行った。



お読みいただきまして、ありがとうございました。

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